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101話 大盾のアーダイン


 はるいにしえの王が振るったと言われる、選定の剣。

 千の松明を集めたような輝きを放ち、あらゆるものを両断したという。


 繰り返し語られ、幻想の確からしさを重ねた物語。

 それは、人々が伝説を忘れた後の世でも、色()せることなく在り続ける。


 そうして、”人類”が発掘した幻想こそが、誰も知らない物語(ロストファンタジア)

 その中でも究極のひとつと言われるのが、白光輝く王者の剣(エクスカリバー)だ。


 白い光が、勢いよく放たれる。


 その白き極光は、大地をえぐり、<大襲撃(スタンピード)>の魔物たちをことごとく滅ぼした。

 遠くに見える山まで、1本の道のように真っ直ぐに地面が掘り返されている。


 砂埃が消え去ったとき、魔物の姿は完全に消え去っていた。

 魔物どころか、射線にあったダンジョンさえも、跡形もなく消え去っていた。


「な、なんだ今のは……」


 まだ意識のある冒険者や衛兵たちが、驚きの声をあげる。

 そして、勇者の大技によって魔物たちが消滅したのだと気づくと、次第にその声は歓喜へと変わっていった。


「勇者様だ! 勇者様が魔物たちを一気に倒してくれたんだ!」


 その勇者は、全ての力を出し切り、憔悴しょうすいしていた。

 平行世界の自分と入れ替えを行う能力は、<精霊剣カレイド・ボルグ>のもの。

 大魔術で白光輝く王者の剣(エクスカリバー)へと上書きされた今、術が解けるまで、その能力は使えない。


 すなわち、大技を使った勇者リアは、体力も魔力も尽き果てて動けなくなった。

 完全に無防備な状態だ。


 そうなるリスクを承知で大技を使ったのは、大賢者パーシェンもまとめて倒せることを期待するよりほかに、街を守る方法が無かったから。


 だが勇者と聖女は、自分たちの目論見が外れたのだと、すぐに理解する。

 前方に、とどろく雷雲が現れたからだ。


 そして、雷雲の中から巨大な雷の球体が舞い降りる。


 聖女プリセアは、咄嗟とっさに<魔導拡声器(ラウド・ヘイラー)>を取り出し、大声で叫んだ。


「皆さん、なんとかして身を守ってください!」


 勇者パーティーの面々、そしてロリーナは突如現れた雷の塊が何か知っている。

 大賢者パーシェンの操る、大魔術だ。


 かつてカイたちの前で見せた、<第一種指定幻想魔術(ロストファンタジア)雷帝の撃鉄(トールハンマー)>。

 今度は躊躇ためらわずに放つだろう。


「まんまとやられたわ。ダンジョンの側に見えた人影も幻影だったのじゃな。あやつのほうが、妾よりも1枚上手だったということか……」


 状況を理解したロリーナが、忌々しそうに呟いた。

 それをあざ笑うように、人々の脳内に直接パーシェンの言葉が響く。


「知恵比べで賢者に勝とうなど、甘く見られたものですね。勇者はすでに力尽きた。この雷撃を防げる者は、もういません。さあ、あなたたちは生贄です。最強の力を手に入れた私に、血肉と絶望を捧げなさい!」


 パーシェンの声は、サイフォリアの街にいる全ての人々に届いている。

 歓喜に沸いていた人たちが、次第に絶望に打ちひしがれていく。


 前方から激しい風が吹き抜ける。

 雷帝の撃鉄(トールハンマー)の前兆だ。

 それは、街の終わりを告げる滅びの風。


 だが、その風に向かって駆ける、鎧の男がいた。


「おい、パーシェン! 俺を忘れてもらっちゃ困るぜ! 勇者パーティーの壁役、アーダインがまだ健在だ! お前の魔術なんて、俺だけで食い止めてやるよ! 大盾スキル奥義、<大防御>!!」


 アーダインはそう言って、リアの前に出ると盾を構えた。

 リアはかれがれの声を振り絞り、アーダインを制止する。


「アーダイン……だめ……、あなたじゃ、雷帝の撃鉄(トールハンマー)は防げない……! 下がって……! 直撃したら、死んじゃう……!」


「へへっ、勇者様。こんなときぐらい、格好つけさせてくださいよ。俺はモテないブ男で、勇者パーティーの足手まといでした。だけど、命をかけるべき時ぐらいはわかりますよ。俺はいま、ここで盾になるために、あなたについてきたんだってね!」


「待って……私は、あなたを、足手まといだなんて……」


「大盾スキル、<ターゲット集中>! さあ、パーシェン! これで俺が倒れるまで、お前の魔術は俺にしか届かないぞ!!」


 アーダインは盾を構えたまま、大声で叫んだ。

 脳内に響くパーシェンの声が、苛ついた様子でそれに応える。


「アーダイン! あなたのような凡夫が、この私の相手が出来ると思っているのですか! 分かりました、いいでしょう。そこまで死にたいのなら、すぐに殺してあげますよ! とどろけ、雷帝の撃鉄(トールハンマー)!!」


 雷の球体から、激しい雷撃が狂ったように何十本も放たれる。

 幾重いくえにも重なる雷撃は、青く輝く1つの光の柱のようだった。


 リアが先ほど放った白光輝く王者の剣(エクスカリバー)遜色そんしょくの無いほどの輝きは、パーシェンの雷帝の撃鉄(トールハンマー)が勇者の大技と同程度の威力を持つ魔力密度を誇ることを表している。


 互いに撃ち合ったら、どちらが勝っていたかと考えるのは無意味だろう。

 現実には、そうはならなかったのだから。


 勇者は力尽き、ただの一撃で街を滅ぼす威力がある大魔術が放たれた。

 それだけが、真実だ。


 そして、青い雷撃はアーダインに直撃し、誰もが目をくらませるような、眩い光があたりを包んだ。



■□■□■□



 果たして、その光景がパーシェンからは、どう見えただろうか。


 受けるダメージを大幅に下げる、大盾スキルの奥義<大防御>。

 そしてそこに、範囲攻撃のダメージを一身に受ける<ターゲット集中>を併用するのは、パーティーを守る大盾使いが愛用する定番のコンボだ。


 けれどもそれは、1撃で壁役タンクが倒れれば無意味。

 だからそう。

 パーシェンの眼の前には、雷帝の撃鉄(トールハンマー)で廃墟と化したサイフォリアの街が広がっているはずだったのだ。


 けれど、青い光がおさまった時、街は無傷のまま健在だった。

 かわりに、高電圧を浴びたからなのか、盾と鎧がいびつにひしゃげてくっついている人影が、アーダインのいたところに立っていた。


「まさか、アーダインのやつ……。命をかけて、サイフォリアの街を守ったというのか? ありえません! 雷帝の撃鉄(トールハンマー)の集中攻撃が、生身の人間に耐えられるはずがないっ!!」


 パーシェンの狼狽ろうばいが、サイフォリアの人々の脳内に響く。

 街を代表して、聖女プリセアが<魔導拡声器(ラウド・ヘイラー)>を使って抗議した。


「ちょっとパーシェン! くだらない呟きまで直接脳内に届けないでくれる? みんなの迷惑になってるんだけどっ!」


「はっ! しまっ」


 ブツリと、人々の脳内に響いていた声が途切れる。

 そのやりとりで、サイフォリアの街の人々は理解した。


 1人の男が、命をかけて自分たちを守ったのだと。


「アーダイン……」


 リアが、溶けて鉄の塊となったアーダインの鎧に声をかける。

 すると、くぐもった声が、その中から返ってきた。


「ゆ、勇者様! 俺はいったい、どうなったんですか!? う、動けねえ! さっきから鎧がまったく動かないんです!!」


「アーダイン? あなた、その状態で生きてるの!? 待ってね、いま助けるから!」


 リアが鉄塊にかけよる。

 疲れていたはずのリアの体は、驚くほど軽かった。


「いえ、それよりも勇者様は少しでも回復をしてください!」


「それが、変な感じなの……。疲れが取れて、魔力も回復している……。こんなの、初めて」


「なるほど、だったら俺に構ってる場合ではないでしょう?」


 リアも、アーダインも、自分の身に何が起きているのか分からなかった。

 けれど、自分がやるべきことは理解していた。


「うん、パーシェンを止めてくる」


 そして、リアは駆け出した。

 白い輝きを身にまとい、その手に聖剣を握って。

<ターゲット集中>、ようは仁王立ちですね。

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