98.純粋無垢って良いよね
「あ~!
ほらほら!見て!クレア!
ウサギさんだよ!雪ウサギ!
真っ白だね~!」
「ホントだ!
かわいいな!」
「あ!クレア!
キツネ!キタキツネ!
ルールルルルルルルル!」
「ミサ、今の若い子にはそのネタは通じないよ」
「クレアからそんなメタいツッコミが!?」
スノーフォレストに着いたあたしたちは王都を目指して真っ白な森の中を歩いてる。
今は雪はチラホラ舞う程度だけど、基本的にずっと降ってるものみたいで、地面も木々も積もった雪で綺麗なほど真っ白だよ。
あ、クレアのツッコミはネタだからね。
クレアは普通にこの世界の子だよ。
ちゃんと言っとかないと誤解されちゃうからね。
「ふふふ、ああしてると2人とも普通の女の子ですね」
「ああ、そうだな」
「ウサギは美味しいって言うけど、キツネも美味しいのかな~!」
「ミサ。キツネは臭みがあるけど、ちゃんと血抜きをすればまあまあいけるよ」
「そーなの!?
ウェ~イ!
捕まえよ~!」
「任せろ」
「……やっぱりミサさんはミサさんでしたね。
ていうか、クレアさんまで……」
「はぁ。
スケイル、止めろ」
「はいはい。
《水蛇拘束》」
「「ぎゃーす!!」」
スケさん!ここで水魔法はやめてよ~!!
「は~、やれやれ。
えらい目にあったね」
あたしたちはようやく王都の入口に到着した。
「まったく。
クレアの乾燥魔法?がなきゃ大変だったよ」
スケさんにびしょびしょにされたあたしたちはクレアの魔法ですっかりカラカラ快適になったんだ。
「便利だろ?
この国では少しでも濡れてしまうと数分で命を落とすからね。
魔獣の森の演習の時に修得しておいて良かったよ」
「そーなんだー。助かったよ。
てか、スケさん!
あやうくあたしとクレア死ぬとこだったじゃないかい!」
死因がツッコミとかコメディーすぎて笑えないよ!
「いやいや、クレアさんが乾炎魔法を使えることは知ってますから。
それにこの国のキツネは保護動物に指定されているから捕まえると処罰されますよ」
「え?そなの?
そんな保護法みたいのがあるんだ。
動物を大事にしてるのは良いね」
この世界では基本的に魔獣は討伐するものだし、動物は獲物でしかないイメージだけど、ちゃんとそういうのもあるんだね。
なんだかこの国のことが好きになれそうだよ。
「スノーフォレストは王族も魔導天使も自然を扱う魔法に長けているからな。
その影響で動植物を敬う風潮が根付いているんだ」
ほぇ~。
そなんだ。
なんかあんたに教えられると変な感じだね。
腐りきってても王子なんだね。
「……てか、門デカっ!」
王都の入口に着いたはいいけど、そこに入るための門がすんごいおっきいんだよ。
それに、その門とおんなじぐらいの大きさの壁でぐるっと囲まれてる。
王都はこの中にあるみたいだね。
「普通は魔獣対策で大きめの街は壁で囲われているんですよ。
ミカエル先生の結界術式で守られているアルベルト王国の方が特殊なのです」
「そーなんだね」
アルベルト王国は壁どころか塀もないからね。
あのオープンなとこがけっこう好きなんだけど、これはこれで異世界感あっていいね。
門の入口のとこでは列が出来てて、みんな入国の手続き待ちをしてるみたいだったけど、あたしたちは王族とその連れってことでさっさと入れてくれたよ。
門番さん的な人がやたらとかしこまってたけど、やっぱり腐りきってても王子なんだね。
「わぁ~!
中の家も真っ白だね!」
王都の中に入ると、中世ヨーロッパ的な家々がいっぱい並んでた。
やっぱり家の屋根なんかも真っ白な雪化粧だったよ。
屋根がどこもすんごい斜めなんだね。
あたしのおばあちゃんんとこもこんなんだったよ。
積雪対策だーって言ってたけど、立ち並ぶ家が全部そうだとなんか面白いね。
道は定期的に雪かきがしてあるみたいで、大きめな道はほとんど雪が積もってなかった。
路地なんかにはちょっと積もってるから頻度が違うのかね。
「スノーフォレストの王都は舗装時に、道に保温魔法がかけられているのであまり雪が積もらないんですよ。
地面に手を当ててみると、ほんのり温かいのが分かるでしょう?」
「へ~、どれどれ。
あ、ホントだ!」
スケさんに勧められて、手袋を外して道路を触ると、たしかにじんわりと温かさが伝わってきたよ。
なんかホッカイロみたいでホッとするね。
「……さて、あとは」
「温かいね~。
このまま寝転んじゃいたいぐらいだよ~」
「ミサ、それはさすがに」
「ふへへ。
冗談だよ~……ふぎゃっ!」
「ん?
わっ」
「ミサっ!」
「ミサさんっ!」
しゃがんで地面に手を当ててクレアとイチャコラしてたら後ろからなんかに轢かれた。
てか、誰かがぶつかってきたみたいだね。
「……いてててて」
おもいっきり顔面をぶつけたあたしは鼻を押さえながら起き上がると、あたしの背中に乗っかってる人がいることに気が付いた。
「……優しい匂い」
「へっ?
わひゃいっ!」
その背中の人があたしの背中に顔を押し付けてきて、後ろからギュッてしてきた。
え?急になに?
「おい!
貴様何してる!?」
「ミサ!」
「離れなさい!」
急に抱きついてきたその人を皆が引き離してくれた。
振り向くと、そこにはなんだか美少年の姿が。
え?
引き離さなくても良かったんだけど、なんて言ったら怒られそうだから黙っとこうかね。
「……すまない。
良い香りだったからつい」
いやいや、それ完全に痴漢で捕まった人の供述だから!
あ、でも、ただしイケメンに限るの範疇だから許されるのかね?
まだ幼さが残るその子は雪みたいに真っ白な肌に、肩口まで伸びた真っ白な髪が印象的な中性的な男の子だった。
少しだけ低くなり始めた声がなければ女の子と間違えちゃうかもね。
中学生になりたてぐらいかな?
髪も肌も真っ白な彼は空みたいに澄んだ大きな青い瞳で、あたしをじっと見つめてきた。
え?なに?
そんなまっすぐな瞳で見つめられたら、あたしゃイチコロだよ?
イケメンに年齢は関係ないよね。
少年だろうがおじいちゃんだろうが、イケメンはイケメンだからね。
「……この国の人間ではないね。
その感じ、アルベルト王国の者かな?」
「あ、うん。
そうそう、そうなんだよ」
なんだか、年の割にはずいぶんしっかりとした喋りだね。
頭良さそう。
「あ、持ってたやつ散らばっちゃったね。
集めないと」
「ああ、すまない。
助かるよ」
紙袋いっぱいに入れてたっぽいいろんなものが道に散らばっちゃってたから、あたしたちはそれを集めて再び袋に詰めてあげた。
フルーツとかの食べ物もあったけど、なんだかよく分からないものが多かったね。
「……おまえ、もしかしてイノスか?」
「……ああ、君はシリウスか」
「……へ?知り合いかい?」
王子が思い出したみたいに美少年のことをイノスって呼んだら、美少年も王子のことを知ってるみたいだった。
「こいつはイノス・スノーフォレスト。
この国の第一王子だ」
「おっほう!」
そう来たか!




