97.馬車に閉じ込めておきたい人はいるかい?
「ふむ。
バラキエルの予言は気になりますが、現状ではどうしようもないですね」
サマエルが懐中時計を開く。
「もう終わりの時間です。
お開きにしましょう。
王子のお茶の時間です。
今日はパンケーキにスノーストロベリーを添えると約束しているので私はこれで」
そう言うと、サマエルはさっさと天の廻談の間を出ていってしまった。
どうやらそのまま自分の担当しているスノーフォレスト国に帰っていったようだ。
「……やれやれ。
あいつの王子溺愛っぷりは相変わらずだな」
アザゼルはその様子に、後頭部を自分の両手で支える形で呆れてみせた。
「……まあですが、サマエルさんの言う通り、現時点では我々に出来ることはありません。
予言は留意しつつ、現状通りに事を進めるとしましょう」
ミカエルはしばらく考え込んでいた様子だったが、サマエルが見えなくなると同様に立ち上がり、部屋を出ていこうとした。
「あ、待ってくださいよミカエルさん」
サリエルも焦ってそれを追う。
「あー、お2人さん」
そんな2人をアザゼルが呼び止める。
「なんでしょうか?」
「んー、そうだな。
俺はどちらかと言えばおまえらの味方だし、それなりに信用してる。
ミカエル。
おまえが何を企んでるか分からんが、それは俺たちのお役目のためだと信じていいんだよな?」
「!」
心のうちを見透かすかのようなアザゼルの瞳にミカエルも不意を突かれて驚いた表情を見せた。
「……」
「……」
その後、2人はしばらく見つめあったあと、ミカエルがゆっくりと口を開いた。
「ええ。
私の行動はすべて民のため、国のため。
ひいてはすべてが世界のためです。
それこそがぶれることなき魔導天使のお役目ですから」
「……ならいいが、帝国の若造みたいにはならないようにな」
アザゼルは穏やかに微笑むミカエルをじっと見つめたあと、ふっと目をそらした。
「ええ。
分かっていますよ」
ミカエルはそれに、自分に言い聞かせるかのように頷くことで返した。
そうして、魔導天使会合は幕を閉じたのだった。
「やぁ~っと着いたね!」
「意外と長かったな」
「スノーフォレストへは山々を避けるように迂回しながら進まなければなりませんからね。
どうしても時間がかかってしまうのです。
ほら、王子。
着きましたよ」
「……う、うぅ」
長かったおしりの旅……じゃない。馬車の旅もようやく終わりみたいだ。
あたしたちは目的の国、スノーフォレスト国に入国した。
約1名死んでるけど、まあ、あれはそのまま捨て置こう。
「……てか、さむっ!
なにこれっ!
寒すぎるよ!」
スノーフォレスト国は一面雪に覆われていて、雪の積もった自然に囲まれたその名の通り真っ白な国だった。
「いや、アルベルト王国から丸1日ぐらいで着いたけど、気候変わりすぎじゃない!?
こんなに寒くなるもん!?
めっちゃ雪積もってるやん!」
あっちの世界ではそんなに旅とかしたことあるわけじゃないけど、馬車で丸1日走っただけでこんな北の国から的な景色になるのかね?
こんなん、キタキツネでも呼びたくなるよ。
ルールルルルルルルル。
「我々は山道を避けて来ましたが、本来はアルベルト王国とスノーフォレスト国は標高の高い山々によって隔てられています。
それらの山々によって、本来は寒冷な気候が遮られ、アルベルト王国は過ごしやすい気候になっているのです。
また、その影響で暖気が入ってきにくいため、スノーフォレストは基本的に気温が低く、年中雪に覆われているのです」
「は~。
なるほどね~」
アルプス山脈的な感じかね。
にしても極端な気もするけど、まあそういうものだと思っとこうかね。
「……なるほどって、最初の頃に学院で習っただろう」
「え?そだっけ?」
あんまり自分の興味のあること以外は覚えられないタチなんだよね。
「やれやれ。
そんなことも分からないのか。
ミサ・フォン・クールベルトは無知だな」
あ、あんたもう復活したのかい?
「……スケさん。
もうちょっと馬車で行かないかい?」
「おい!どういう意味だ!」
「そうしたいのはやまやまなのですが、あいにくここからは馬車が走れないのです」
「あ~、そっか。
お馬さんも寒くて走りたくないもんね」
「そうなのです。
非常に残念なのですが」
「ホントに残念だね~」
「おい!
貴様ら!さっきから無礼すぎるぞ!」
うん。
なんだかスケさんとはとっても仲良くやっていけそうだよ。
「……はぁ。
もう行こうよ。
寒いんだ」
あ、はいはい。
ごめんよクレアさん。
そうして、あたしたちはスノーフォレストの王都へと向かっていったんだ。
「あ!王子!どちらへ!?」
「……うん、ちょっと街に。
買いたいものがあってね」
「承知致しました。
同行致します」
「いや、いいよ。
1人で歩きたい」
「かしこまりました。
では、影の者だけを同行させます。
これはサマエル様からの厳命ですので」
「そっか。
わかった」




