94.新章始まるよー!
「え?
出張?」
「ええ、そうなんです」
カイルとサルサルさんが国に帰って数日後、ミカエル先生が研究室にあたしを呼び出した。
今度は何をしでかしたのかと思ったら、ミカエル先生が出張するんだって。
「ふーん。
え?
てか、なんでそれをあたしに言うの?
べつにあたしは先生の奥さんでもないし、わざわざ呼び出してまで報告しなくてもよくないかい?」
旦那が仕事してた時はちょいちょい急に出張になって、なんでもっと早く言わないんだい!って慌てたもんだよ。
「それがまあ、ミサさんにも関係あるんですよ」
「え?
そなの?」
なに?
先生の出張についてこいとか言わないよね?
そんなめんどいのはごめんだよ。
「ミサさんは私がいるからこの学院にいられるようなものなんですよ」
「え?
そなの?」
先生が困ったような顔をしてる。
いや、困ったはこっちだよ。
それじゃあ、あたしはこれから先生のお守りがなきゃどこにも行けないじゃないかい。
「あなたは自分が思っているより国家にとって重要な存在なのです」
「え?
そなの?」
「そうですよ。
そもそもあなたはシリウス王子の婚約者でしょう」
「え?
そなの?」
「……やれやれ」
いや、なんかため息ついてるけど、結局あたしってアレの婚約者になったんだっけ?
なんかごちゃごちゃしてて結局うやむやになった気がするんだけど。
え?
てか、ちょっと嫌なんだけど。
え?
てか、さっきからあたし「え?そなの?」しか言ってなくないかい?
主人公としてそれはどうなの?
「で、私がこれから行くところはかなり遠いところなので、それまであなたには遠い安全なところで過ごしてもらうために一時留学をしてもらうことにしました」
「え?
そなの?」
ちょっと急すぎないかい?
カイルみたいな感じかい?
「場所はこのアルベルト王国の北に位置する雪国、スノーフォレストです」
「……なんか安直な名前だね」
「……ちなみに、スノーフォレストの国民にそれを言うととても怒るので気を付けてください」
え?
そなの?
「ミサ~!
寂しいよ~!
気を付けてね~!」
「クラリス~!
あたしもだよ~!」
んで、数日後。
あれよあれよという間に出発することになっちゃったよ。
今は校門前で皆に見送りしてもらってる。
もう馬車は門の外で待機してくれてる。
「ミサ~!
ミサ成分補充~!」
「あたしも~!
クラリス成分補充しとくよ~!」
クラリスが瞳をキラキラさせてぎゅーしてくるもんだから、もう思いっきり抱きしめたよ。
ああ、この柔らかい太陽みたいな良い匂いともしばらくお別れだと思うと寂しいねぇ。
今のうちにいっぱい嗅いどこ。
すーはーすーはー。
「ミサ。
お土産よろしくな!」
「ふが!?
ああ、ジョンか。
任せといて!」
すーはーすーはー。
「やだーやだー!
僕も行くー!」
「私も行くー!」
「仕方ないのです。
全員で森を離れるわけにはいかないし、北の国に行ったことがあるのは私だけなのです。
北の魔獣と面識がある私が同行するのは当然なのです」
すーはーすーはー。
あ、そだったね。
今回、三大魔獣のうち、アルちゃんだけが同行してくれるんだった。
ごめんよ、ケルちゃんルーちゃん。
お留守番よろしくね。
すーはーすーはー。
「……ミサさん。
そろそろ出発しますよ」
すーはーすーはー。
スケさん、今回は一緒に北国までよろしく。
「……ミサ、そろそろクラリスを離してやりなよ」
え?
クレアもやるかい?
真っ赤になって悶え始めてからがもっと可愛いんだよ。
あ、そうそう。
今回はクレアもよろしく~。
「あだっ!」
「……ミサさん。
いい加減行きますよ」
はい、ミカエル先生ごめんなさい。
クラリスさんごめんなさい。
ミカエル先生も見送りに来てくれたみたいだ。
あたしたちの出発を見送ったら先生も出発するんだって。
「遅いぞ!
ミサ・フォン・クールベルト!」
「……なんであんたもいるのかね」
「おい!
さっきまでと態度違うぞ!」
なんか言ってるよ。
あ、そうそう。
今回の短期留学はあたしだけじゃなくてね。
剣術の特待生としてクレア。
王族としてバカ。
そのお付きとしてスケさんも一緒に行くことになったんだよ。
なんだか珍しい組み合わせだよね。
「ミサさん。
今回あなたはシリウス王子の婚約者兼留学生としてスノーフォレストに出向いてもらいます。
礼儀作法をきちんとすることはもちろん、自分の属性や特性に関してはくれぐれも内密に」
「おっけー。
まかせて!」
まー、なんとかなるよ!
「……クレアさん、スケイルさん。
頼みましたよ。
あなた方だけが頼りです」
「……が、頑張ります」
「……責任重大な上に高難易度ですが、尽力致します」
「おい!
俺は!?」
「あーはいはい。
ミサさんを守れるのはあなただけです。
王子。
頼みましたよ」
「うむ!
任せておけ!」
「……本当に頼みましたよ。
クレアさんとスケイルさん」
「「は、はい」」
うーむ。
あたしと王子の信用のなさは凄まじいね。
「アルビナス。
よろしく頼みます」
「ん。
これもミサのため。
任せるのです」
「んじゃ、行ってくるね~!」
「気を付けてね~!!」
こうして、あたしと王子とスケさんとクレアは北の国スノーフォレストに向かって出発したんだ。
「……では、我々も行きましょうか、サリエルさん」
「……ええ。
まさかこのタイミングで天から集合がかかるとは思いませんでしたよ」
「おかげでカイル王子の留学も途中で終わざるを得ませんでしたね」
「……それにしても、いったいなんの用件でしょうね」
「さあ。
まあ、あまり良い予感はしませんね。
ミサさんの方は剣と魔法でバランスよく周りを固めたので大丈夫でしょうが……」
「……そうですね。
ところで、帝国の彼は来ると思いますか?」
「……さあ、どうでしょう」




