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92/252

92.とりあえずこれはこれで終わりかね。で、またなんか始まりそうな予感だね

「……とりあえず国境付近の警備に関しては下手に増員したりしない方がいいだろう。

帝国に怪しまれかねないからな」


「ええ、そうですね。

アルビナスさん。

眷属の派遣の件でお話をしたいのですが……」


「いま行くのです」


 なんか、ミカエル先生と王子はすっかり仕事モードだね。

 さっきまで命の取り合いをしてたのに切り替えの早さ半端ない。


「……ミサ、ん」


「ん?

ああ、はいはい。

ぎゅー」


「ふふー。

いってくるのです」


 先生に呼ばれたアルちゃんはあたしにぎゅーをねだって、それを十分に堪能してから先生たちのとこに向かっていった。

 なんだか頭良さそうな話だから、あたしにはちょっと理解できそうにないね。


「私も行ってくる。

あとでミサたちに分かりやすく説明できる人が必要だから」


「あ、うん。

いってらっしゃい」


 クラリスもアルちゃんに続いて走っていった。

 たしかにアルちゃんは頭が良すぎて、ちゃんとした話の時、たまになに言ってるのか分かんない時があるんだよね。

 クラリスはそこんところを分かりやすく説明してくれるから助かるよ。


 ん?

 でもそれって、あたしがバカだって言ってるようなもん?

 んー、まいっか。


「ケルちゃん、ルーちゃん。

クッキーあるよ。

食べる~?」


「「食べるー!」」


 うんうん、あたしはこっちでいいっす。







「……それにしても、今回はずいぶん大きく動いたな」


「……王子?」


「……これは、本当にあんたと父上の考えだったのか?」


「お兄様?」


「……」


「……こんな大それたことをやろうと考えるやつに、俺は1人だけ心当たりがあるのだが」


「……その心当たりは、おそらく当たってますよ」


「……ちっ。

やはりか」


「……お兄様、まさか」


「クラリス殿下。

そのまさかですよ。

今回の演習をやるように仕向けたのはあなた方の兄であり、この国の第1王子。

ゼン・アルベルト・ディオス王太子です」


「ゼ、ゼンお兄様!?」


「……ちょっと待て。

それはつまり、兄上にミサのことが知られているということか?

貴様が情報を管理しておきながら……」


「……お言葉ですが、ゼン王子の抱える諜報部隊は我が国最高の実力を持っています。

あの方が知らない情報はない。

それによって、この国が支えられているのも事実。

それはあなたがよく知っているのでは?」


「……ふん」


「おそらく、今回の1件も王子は観察されていたはず」


「……悪趣味め」


「……真の強者は戦わずして勝つのです。

戦闘能力では突出している私やあなたも、今回は結局あの方の手のひらの上で踊らされていたに過ぎないのです」


「……ふん。

貴様はわざと踊ってやっているのだろう。


だが、たしかに兄上のやり方はすごい。

もはや兄上の部隊がなければ、この国は存在できないだろう。

だが、俺にそんなやり方は性に合わない。

俺は俺のやり方で国を守る」


「……それでいいのでは?

各々が出せる最高のパフォーマンスで国を守る。

そのために、あなたは剣を振るうのでしょう?」


「……各々が……」


「……クラリス殿下?」


「あ、いえ、なんでもないです!」


「……だが、兄上のことだ。

これで終わりだとは思えない」


「……そうですね。

これから、ミサさんに対して何らかのアクションがあるものと」


「……さっきから聞いていれば、その王子とやらはミサにまだちょっかい出すのです?

そしたら、私たちは容赦しないのです。

いっそ、ミサを連れてどこかへ逃げてもいいのです」


「アルちゃん、それはちょっと~」


「……ふん。

冗談なのです」


「……ふむ。

それも手かもしれませんね」


「……え?」










「ミサ!」


「ミサ!よく無事で!」


「ジョン!クレア!」


「お嬢様~!!」


「あ、フィーナも来てくれたんだね。

みんなありがとね~」


 その後、あたしたちは校舎の入口近くにいたカイルたちの所に集合した。

 ジョンとクレアはボロボロだし、フィーナもメイド服が少し汚れてた。

 どうやら皆、あたしのために頑張ってくれてたみたいだね。

 ホントにありがたいよ。

 この恩は忘れないよ。








 ミサたちがガヤガヤと談話しているのを見ながら、ミカエルとサリエルが話している。


「ミカエルさん、すみません。

クラリス殿下を行かせてしまいました」


「サリエルさん。

あなた、わざと彼女を行かせたのでしょう?」


「ふふ、何のことやら」


「はぁ。

まあいいです。

そもそもスケイル君が彼女を行かせたのですからね。

あなたはそれに乗っかっただけでしょう?」


「ふふふ、この国にはなかなか素敵な生徒が多いですね。

彼はきっと、あなたがシリウス殿下に負けるきっかけを作るためにクラリス殿下を行かせたのですよ」


「やれやれ」


 呆れたようにかぶりをふるミカエルの元にフィーナも合流する。


「……まったく。

せめて私には一言あっても良かったのに」


「いや、すみません。

ミサさんのご両親から、あなたにも試しを、との要望があったもので」


 頬を膨らませながら現れたフィーナにミカエルが平謝りをする。


「……ほう。

お2人が……」


「フィ、フィーナさん?」


「……これは、帰ったら旦那様と奥様にもお叱りが必要なようですね」


「フィーナさん、一応雇い主なのですからお手柔らかに」


「あら。

私の主はミサお嬢様ですのよ、うふふふ」


「ふふふ、やはり怖いお人ですね」


「……言っておくが、おまえのことは許したわけじゃないからな」


 フィーナはサリエルには恐ろしく冷たい目を向けていた。


「おやおや。

口調が前のままですよ」


「……おまえだけだ。

私はおまえが嫌いだ。

だからこれで十分だろう」


「ふふふ、やはりあなたは良い。

私とどこか似ている気がします」


「……だから嫌いなんだよ。

そもそも、なんで本気で戦わなかった?

おまえが本気を出せば、私と王子の2人がかりでもすぐに行動不能に出来ただろう?」


「いえいえ、私は戦闘はあまり得意ではないのです。

魔導天使の中でも戦闘能力では底辺でしょうし。

まともに戦わないという方法を取らなければ勝負にもなりませんでしたよ」


「……私たち2人の攻撃をいなし続けたくせに。

ようは、魔導天使ってのは最低でもそのレベルってことか」


「ま、そうなりますね」


「……ちっ」


「まったく、嫌になるよな~」


「カイル王子」


 さっきまでミサたちとふざけあっていたカイルも会話に入ってきた。


「俺がどれだけ鍛練しても、おまえら魔導天使の背中はちっとも見えてこない。

今回シリウスが勝てたのも奇跡のような組み合わせと、ミカエルの期待を込めた受けによるものだろ?

たまにむなしくなるんだよな~」


「……カイル、だっけ。

それは仕方ないのです。

魔導天使が人類より強いのは当然なのです」


「……アルビナスさん。

その発言はちょっと困ります」


 会話に入ってきたアルビナスの呟きをミカエルが諌める。


「……待て。

それはどういう意味だ!」


「……やれやれ」


 そして、ミカエルは食いついてきてしまったカイルと話を聞いていたフィーナの、今のアルビナスの発言に関する記憶を消したのだった。






「ん?

俺たちは何の話をしていたんだったか?」


「カイル王子がミサさんをますます妃にしたくなったという話ですよ」


「おお!

そうだったな!」


 ミカエルの記憶操作によって数分間の記憶を消されたカイルはサリエルの提供した話題に違和感なくのっかってきた。

 カイルにはサリエルの加護があるためミカエルの特殊魔法は効かないはずだが、今回はサリエルも共謀して一時的に加護を外したため、ミカエルの記憶操作魔法が通用したのだった。


「ちょっと待て!

私はお嬢様をおまえらにやるなど反対だぞ!

お嬢様を1人になどさせない!」


 フィーナも特に疑問に思うことなくその話題に入っていく。


「ならば、おまえも来ればいい。

俺はおまえも気に入った。

ミサを正妻にするから、おまえは側室として俺の嫁になれ。

そうすればおまえだけがミサとともにいられるし、なんならミサと家族になれるぞ」


「えっ♪」


「フィーナさん。

そこは嬉しそうな顔しないでくださいよ」


 ミカエルは自分の魔法のかかり具合を確認し終え、3人のやり取りにやれやれと苦笑を漏らしていた。


「……ミカエル」


「アルビナスさん?」


 そんなミカエルにアルビナスが話し掛ける。


「今回のことで分かったと思うけど、私たちはミサのことになると形振り構わないのです。

今回はミカエルに無力化されたけど、やろうと思えば対抗措置はあるのです。

茶番に付き合ってあげた。

だから今後は余計なことにミサを巻き込まないようにするのです」


「ああ、やはりあなたは気付いていたのですね」


「途中からなのです。

ミカエルにしては効率が悪すぎるのです」


「ふふ、さすがです」


「ミカエル。

バカな首謀者に伝えるのです。

この世界のすべての魔獣を敵に回したくなければ、ミサをどうにかしようなどと思わないように、と」


 アルビナスは第3の目を軽く覗かせながらそう呟いた。


「ええ。

分かってます。

きっと伝わってますよ」


 その時、学院の空を1羽の鳥が飛び去っていった。


「……きっと、ね」










「……やれやれ。

三大魔獣は相変わらず怖いなぁ」


 窓から入ってきた大鷲を腕にとまらせながら第1王子のゼンが苦笑する。

 肩口まで伸びた綺麗な金髪が流れるように揺れている。

 顔は笑っていたが、その綺麗な碧い瞳はまっすぐに空の向こうの学院を見据えていた。

 その体躯は王位を継ぐ者とは思えないほどに細かった。


「ミサ・フォン・クールベルトか。

シリウスめ。

俺の知らない間に面白いのを見つけたな」


 ゼンは腕にとまる大鷲にエサを与えながら怪しく笑う。


「……そいつが国のためになるかどうか。

俺が確かめてやるとしよう」




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