91.種明かしだね。みんな名優すぎんかね?
「降参です。
私の負けですよ、シリウス王子」
両手を上に挙げ、降伏の意思を見せるミカエル。
いつの間にか手に持っていた剣も消えている。
シリウスはそれを不可解な表情で見つめる。
まだ構えた剣をおろしたりはしていない。
「……どういうつもりだ」
「どうもこうも、そのままの意味ですよ」
そう答えるミカエルは指を1度パチンと鳴らした。
すると、ミサを磔にしていた魔法が解かれ、ミサはゆっくりと地面に降りていった。
それと同時にアルビナスたちの力と動きを奪っていた聖鈴と重力魔法も解かれる。
「動ける!」
「ミサ!」
魔法が解除されるやいなや、ケルベロスとルーシアはミサの元に走った。
「おっと!」
アルビナスは額に現れた第3の目をミカエルに向けたが、ミカエルは黒いもやのような魔法の霧を自身の前に発生させてアルビナスの石化を防いだ。
「……ちっ」
アルビナスは悔しそうに舌打ちすると、第3の目を引っ込めてミサの元へと走っていった。
「やれやれ。
子供の姿でもあれが使えるんですね」
ミカエルはため息をつきながら黒い霧を解除して払っていた。
《起床》
ん?
なんか呼ばれてるような気が……。
「……サ!」
「ミサ!」
「……ん?
あ、ケルちゃんにルーちゃん」
「ミサぁ」
「あ、アルちゃんも勢揃いだね」
えっと、何がどうなってるんだっけ?
落ち着け。
そもそもあたしはなんで寝てんの?
てか、ここどこ?
あ、そだ。
あたしはミカエル先生に拉致られてて、ケルちゃんたちが助けに来てくれて、ちゃんと用意されたセリフを言ったのにミカエル先生に魔法で眠らされたんだった。
それにしても、《催眠》ってあんな魔法だったんだね。
まさか大勢のマリア様と、大量のマンドリンとウクレレがハイパー子守唄を全力で奏でてくるとはね。
しかも暖かくて良い匂いして。
あんなん誰だってすやすや良い子でねんね出来ちゃうよ。
「大変!
ミサが目を開けてるのに反応しないわ!」
「大丈夫なのです。
これはいつものやつなのです」
「あ、ホントだ!
いつものどっかいっちゃってるミサだ!」
……あ、うん。
いつもホントごめんね。
「……みんな来てくれたんだね。
ありがとー!」
あたしはすがるように寄り添ってくれる3人を思いっきり抱きしめた。
「きゃー!」
「ミサの匂いだー!」
「良かった。良かったのです……」
うんうん。
この子たちのためにも、あたしはせいぜい長生きしなきゃね!
「ミサ!」
あ、天使……。
え?あたしを迎えに来たのかい?
……じゃなかった。
なんだ、あたしの天使か。
「クラリス!」
「ミサ~!」
前はケルちゃんたちで埋まってたから、クラリスは後ろからぎゅってしてくれた。
ふふ、クラリスの匂い久しぶりだね。
またちょっと胸元が成長したんじゃないかい?
「ミサ、心配した……」
あ、ごめんよ。
変なこと考えてて。
そんな状況じゃなかったね。
あたしは首に回されたクラリスの手に自分の手を合わせる。
「ごめんね、ただいま」
「「「「おかえり~!」」」」
おお!揃った!
「……ん?」
そういや忘れてた。
ミカエル先生とアレが対峙してたっぽいけど……あ、いた。
なんか話してるね。
「……どういうつもりなんだ。
王命なんだろう?
そうやすやすと諦めていいはずがない」
王子が先生に剣を向けながらなんか言ってる。
え?
ていうか諦めるって、先生が王子に負けたの?
ホントに?
「まあ、それもそうですね」
先生はたいしたことじゃないって言うみたいに肩を竦めてる。
「……それに、貴様はまだまだ戦えるはずだ。
さっきだって、その気になれば魔力感知で俺のスピードアップには気付けたし、転移魔法で避けても良かったはず」
「いやいや、それなりに良い攻撃をもらってしまいましたし、突然の閃光魔法に度重なる魔力消費でそれどころではなかったですよ。
それに、これ以上戦うのは老体にはキツいです」
いや、あんたいくつだい。
ミカエル先生は苦笑いをしながら自分の傷口に手を当てて回復魔法をかけてた。
王子がつけたっぽい傷はそれですっかり綺麗に治ったみたいだ。
「……貴様、本当に何が狙いなんだ?
ミサを帝国に渡さなくても良いのか?
帝国との100年の不戦の約定はどうするつもりだ」
え?なにそれ?
「いいんですよ。
だって、全部嘘ですから」
「……は?」
……え?
ん?
どゆこと?
たぶん、あたしと王子はいまおんなじ顔をしてるんだと思う。
口をアホみたいにポカンと開けて、目を見開いて先生を見てる。
「ミサさんを引き渡せと帝国から連絡があったのは嘘です。
というか、そもそもミサさんの情報はどこにも漏れてません。
私がそんなミスをするはずがないでしょう」
「ちょ、ちょっと待て!
嘘ってなんだ!
どういうことだ!」
「そ、そーだよ先生!
どゆこと!?
てか帝国って!?
あたしは課外授業の一環として先生を攻略する演習をやるから協力してくれって言われたんだけど!?」
「え?」
「え?」
「ん?」
「ミサさんが正解。
帝国云々は皆さんをその気にさせるための嘘です。
あ、ちなみにミサさんのご両親は知ってますよ。
協力者です」
え?
お父様もお母様も名演技すぎないかい?
「他の皆さんのご家族にまで手を回していなかったので、話を広めるようならスケイルさんにそれとなく止めてもらうように言ってありましたが、カイル王子がうまいこと立ち回ってくれて助かりました」
いやいや、なに普通に種明かししてるんだい。
「え?
じゃあ、最近毎晩のようにあたしん家を襲撃してた人たちは?」
「あれは仕込みです。
私が金で雇った傭兵ですね。
きちんと仕事はするし、命令外のことはしないので信頼できます。
まあ、今回はフィーナさんにバカなことをしようとした方がいたみたいですが、その方はきちんとシメられたのでご安心ください」
そっかー。
うん、安心だねー。
「じゃなくて!!」
ああもう!
ツッコミが追い付かないよ!
そもそもあたしはツッコミじゃないんだよ!
「……貴様。
本当にそれだけでここまで大それたことを?
俺やクラリス、隣国の王子たちをも巻き込んでまで」
たしかにそうだね。
あんた、たまには良いこと言うね。
よし、ツッコミは任せたよ。
「……皆さんに、知っておいてほしかったのですよ。
ミサさんの脅威を」
え?
あたしの胸囲?
たしかにこの姿のあたしのはなかなかのものだけど、皆に知らせるってどんな趣味?
「……ミサさん。
また眠らされたいですか?」
あ、はい。
余計なこと考えないでおとなしく聞いてまーす。
「……脅威、か」
「ええ。
実際、ミサさんのことが帝国に知られれば、彼らは今回と同じか、それ以上に酷い条件を突きつけてくるかもしれません」
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「……」
「……」
ミカエルたちの会話はサリエルとスケイルの魔法で、ジョンやカイルたちにも届いていた。
彼らはミカエルの告白に驚きながらも、その話に耳を傾けていた。
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「たとえば、そうですね。
一般市民を村単位で襲って拐い、ミサさんを渡さなければ順番に殺していく、とかですね」
「……ちっ」
王子が舌打ちしてる。
そんなことになったら、あたしはどうすればいいんだろう。
「世界でも稀少な闇属性の持ち主で、魔獣を従える能力を持ち、三大魔獣をも手駒とし、さらには作るお菓子はポーションと同等の効果を発揮する。
個人でこれだけの能力を持つなど、魔導天使かそれ以上の存在です。
帝国がどんなことをしてでも欲しがるのは当然の道理でしょう」
「……」
「それでもミサさんを守りたいと。
彼女1人の犠牲で永い平和が手に入ると言っても、それでも彼女を守るのか。
それがどういうことなのか。
ミサさんの事情を知る皆さんには、それをきちんと考えてほしかったのです」
「……そうか。
わかった。
そういうことならば、わかったよ」
まだ釈然としないみたいだけど、王子は納得はしたみたいだ。
あたしもそんな狙いがあったなんてことは初めて知ったよ。
「……ミサさん。
これはあなた自身の話です。
あなたも、守られる身としてどうしていくのか。
きちんと考えておきなさい」
…………。
「いやいやいやいや、ていうか、なんであたしが守られる前提なんだい!」
「……え?」
「守られてばっかなんて性に合わないね!
あたしがそんな特殊なら、あたしがそんな奴ら倒せるぐらい強くなっちゃえばいいじゃないかい!」
「そ、それはそうですが」
「それに、村ごと襲う?
そんなことをさせないために先生がいるんでしょ!
結界でもなんでも国中に張ってどうにかしなよ!」
「な、なかなか無茶苦茶言いますね」
「もちろんあたしたちだって手伝うよ。
魔力が必要なら渡すし、魔獣さんたちに協力してもらって国境付近に変な奴らがいたら知らせてもらってもいいだろう?
先生ばっかに大変な思いはさせないよ」
「……ミサさん」
「言っただろう?
あたしはあたしの正義にもとることは許さないって。
あたしの大切な人たちを傷付けようって輩がいるなら、あたしはそれと全力で戦うよ!」
「……わかりました。
そうですね。
あなたはそういう人でしたね」
「わかれば宜しい!」
どんなもんよ!
「ミサ~!」
「わっ!
クラリスっ!」
話が終わった頃合いを見て、クラリスがまた飛び込んできた。
クラリスのクラリスがクラリスしてるって考えるのはやめとこ。
「さっすがミサ!
そう来なくっちゃ!
もちろん私も協力するよ!」
「クラリス、ありがと!」
「僕たちも!」
「とーぜん!」
「ん。
眷属を使う話、検討してもいいのです」
「みんな!ありがとー!」
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「スケイルさん。
スケイルさんは初めからこうなると?」
「……さあ、どうでしょう」
「……なかなか強い国ですね、王子」
「……ああ。
友好国で良かったな」
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