9.王子の想い?知らないよ
「ああ、やっと来ましたか。
そろそろ始めますよ。
早く席につきなさい」
「…………」
「どうしました?ミサ君?」
「なんでここにいるんですかぁ~~!!」
「なぜって、実践魔法の担当講師は私だからですよ」
……これは、ハメられたね。
「というか、私の方が先に前の教室を出たのに、なんで先生の方が先に着いてるんですかね?」
先生、あたしを驚かすために地味にダッシュしたのかね。
だとしたら、けっこう可愛いんだけどね。
「転移魔法を使ったのですよ。
さあ、さっさと席につく」
「あ、はい」
違ったね。
そして、相変わらずの塩対応。
ん?
「て、転移魔法だって?」
「嘘だろ、この国でも使える人はほんのわずかしかいないんじゃあ」
「しかも、魔力もすごい使うって言うし」
「それを、教室の移動でほいほい使うって」
なんだか皆がざわざわしてるね。
転移魔法ってのは、そんなにすごいことなんだね。
「ミサ!
こっちこっち!」
「クラリス!」
窓際の前の方の席で、クラリスが両手をぶんぶん振りながらぴょんぴょんしてる。
相変わらず可愛らしい子だねえ。
「聞いた!?
転移魔法だって!
ミカエル先生って、やっぱりすごいんだね!」
あたしが席に着くなり、クラリスが興奮気味に捲し立ててくる。
「そうみたいだねえ。
転移魔法ってのは、そんなに難しいもんなのかい?」
「えっ!?
ミサ、転移魔法を知らないの!?」
首をかしげたあたしに、クラリスは大げさなほどに驚いてみせた。
「え~と、というか、数年前までの記憶がほとんどないから、魔法自体あんまり詳しくなくてねえ」
「あ、そうだったんだ~。
でも、それならなんで実践魔法に?
それに、どうせ学ぶなら魔法学から学んだ方がいいんじゃない?」
「それは、絶対零度先生に脅され……あ、なんでもない。
いっそのこと、実践で学んだ方が手っ取り早いかなってね」
「そーなんだ~」
……あぶないあぶない。
ミカエル先生、めっちゃこっち見てたよ。
なんなんだい、あの、おまえ言ったらどうなるか分かってるよな的な視線。
「それにしても、クラリスはホントに魔法が好きなんだねえ」
「ん~?」
「魔法学に実践魔法に。
おまけに、魔法の話をしてる時のクラリスが一番キラキラしてるよ」
「え~!なにそれ~!
なんか照れる~!」
照れるはこっちだよ。
さらさらの髪をそんなにピョンピョンさせちゃって。
「うーん、なんかねえ、魔法って、自分が今まで出来なかったことを出来るようにしてくれて、いろんな人を助けられて、キラキラしてて、ホントに素敵だな~って思うんだよね~」
クラリスはそう言いながら、目をキラキラと輝かせていた。
「だから好き!」
ぐはぁっ!
ちょぴり頬を赤らめながら、ニシシって笑顔でそんなこと言われたら、そりゃあやられちまうよ。
お小遣いあげようかね。
「え~、ではまず、この科目を教えていく上で、サポートをしてくれる先輩を紹介しましょう。
彼はすでに学院での課程を修了しているので、私以外にも、彼にもいろいろ尋ねてみると良いでしょう。
では、どうぞ」
あ、そんなんがいるんだね。
たしかに、実践ともなると、先生1人で見るのは大変だもんね。
にしても、学生なのに、もう修了してるって、ずいぶんすごい人なんだね。
…………え?
「どうも、ご紹介にあずかりました、3年のスケイルです。
先生のサポート役兼アドバイザー的立ち位置を務めさせていただきます。
よろしく」
「…………」
「…………」
クラリスさん?
お顔が真っ赤ですよ。
「キラキラしてたのは魔法の方なのかねー」
「うっ!」
ゆでダコクラリスも可愛いね。
もうちょいイジメたくなっちゃうね。
「なーんか、カッコいいこと言ってて、ちょっとすごいなー尊敬するなーって思ってたんだけど、あーそーゆーことかー。
やれやれだねー」
「ち、違うもん!
ホントにそう思ってるもん!
そりゃ、きっかけはあれかもだけどー」
「あーはいはい、あれねあれ」
そう言って、スケさんの方をチラチラ見てやる。
「うー!もー!」
「あははは!ごめんごめん!」
「…………」
「きゃっ!」
「わひゃい!」
おしゃべりに夢中になってたら、ミカエル先生があたしとクラリスの机をバン!と叩いていた。
「2人とも、私の話を聞かないとは良い度胸ですね」
「「す、すみませ~ん」」
その後、あたしたちが先生からデコピンをもらったのは言うまでもないね。
それを見たスケさんがハァと溜め息を吐いていた。
『やれやれ、シリウス王子はなぜあんな方を……』
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「王子は、なんであの娘を好きになったんです?」
「なっ!な、にを!」
「おい!カーク!」
「べ、別に俺様はあんな女、好きでもなんでもないぞ!
は、ははは!
な、なにを言ってるんだ、カークは!
ははは、ははははははは!」
「…………王子、走ってどっか行っちまったぞ?」
「はぁ。王子は自分の想いに気付いてないつもりだし、誰にもバレてないつもりなんだよ」
「そうなのか!
この俺にさえバレバレだぞ!」
「王子はそのつもりなんだから、あんまり追求してやるな」
「そーかー。
てか、なんで王子は突然あの娘に惚れたんだ?」
「……王子はクラリス姫が産まれてすぐに母である王妃を亡くしているからな。
王は正統後継者である第一王子以外にはあまり関わらないようにされているし、それから、王子をまともに叱ってくれる人がいなくなった。
だからこそ、あんなふうに真正面から説教されたのは衝撃だったんじゃないか?」
「なるほどなー。
たしかに、あのわがまま王子の顔面をぶん殴れるのはあの子だけかもなー」
「……おまえ、不敬罪になるぞ」
「まーまー。
それより、そろそろ王子を迎えにいこーぜ。
俺らは1年の選択科目のサポーターやらなきゃだし、王子は生徒会長の仕事だろ?」
「そうだな。
行くとするか」
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