88.いや、先生魔王すぎん?
「であぁぁっ!!」
「ふむ」
雷を纏って速度とパワーを強化した剣による大きく踏み込んだ一撃。
ミカエルはそれを剣の形状に固定した闇の魔力の塊で難なくいなす。
「ちっ。
普通の剣なら真っ二つなんだが、なぁ!」
「ふふ。
これは物体として存在する物理ではなく、抽象具現として存在する物理ですから、ね!」
「また訳の分からないこと、をっ!」
「そうやって分からないと思ってしまうから分からないのです。
まずは分かろうとしなけれ、ばっ!」
2人は会話を交わしながら剣を結んでいく。
2人の実力は拮抗しているように見て取れた。
「はっ!」
シリウスが剣に魔力を通すと、雷を纏ったシリウスの剣から稲妻が飛び、ミカエルに襲いかかる。
「ふむ」
しかし、ミカエルは自身の周りに黒い影の霧を発生させてそれを霧散させた。
彼らレベルになると、ある程度の難易度の魔法ならば詠唱なしで魔法を発動できるようだった。
「くそっ。
でやあぁぁぁっ!!」
「……くっ」
魔法を簡単にかき消されたシリウスは雷光とミカエルの霧のすき間を縫ってミカエルに切りかかるが、寸でのところでミカエルはそれを防ぐ。
そして、鍔迫り合いをしながらミカエルはシリウスに左手を向けると、闇色の閃光を数本放った。
「ちっ!」
シリウスは後ろに下がりながらそれらを剣で弾く。
いったん距離を取り呼吸を整えるシリウス。
一方のミカエルは一切息を乱してはいなかった。
シリウスは剣術に関しては王国一の使い手であっても、魔法や総合的な能力ではやはりミカエルの方が上手のようであった。
「さあ、まだまだこれからですよ」
「……くっ」
ミカエルが両手を広げると、ミカエルの周りに球体の黒い魔力の塊がいくつも現れた。
それらはミカエルの周りを浮遊しており、今にも弾けそうなほど闇の魔力がバチバチと爆ぜていた。
「……いきなさい」
そして、ミカエルが剣をシリウスに向けると、それらはシリウスに向けていっせいに空中を迸った。
「ちっ!」
シリウスは接近する魔力球で一番近くにあったものを高速で切り裂くと、すぐにその場を離れた。
すると、切り裂かれた魔力球は瞬時に収束し、周囲を巻き込みながら大きく爆ぜた。
「ぐあっ!」
シリウスは直撃は免れたものの、その余波で軽く吹き飛ばされていた。
そして、間髪を入れずに数多の魔力球が再びシリウスを襲う。
「……くそ、でやあぁぁぁぁっ!!」
シリウスは剣に纏わせた雷を瞬間的に増大させ、伸びた雷の刀身でそれらを一気に薙ぎ払い、その後、身を縮込ませて魔力を全身に纏い、全力で防御姿勢を取った。
それとほぼ同タイミングで、切り裂かれた魔力球が爆ぜる。
「……」
ミカエルはミサやアルビナスたちに余波が及ばないように、彼女らに結界を張っていた。
自身にも結界を張っていたが、それでも爆発の余波はミカエルの長く青い髪を大きく揺らした。
「……はーっはーっ」
「……ふむ。
よく耐えましたね」
普通なら一中隊ぐらいを消し飛ばすほどの威力。
シリウスならば死にはしなくとも、意識を刈り取るぐらいなら出来るだろうと読んでいたミカエルからすると、いまだ剣を構えて交戦の意思を見せるシリウスの姿は予想外であった。
「……まあ、師としては弟子の成長が嬉しくもありますが」
そう言って苦笑いをしながら、ミカエルは再び自身の周りに先ほどと同じ量の魔力球を出現させた。
「……くそ、化け物め」
「……よく言われます」
絶望的な光景にシリウスが悪態をつくと、ミカエルはくっくっと苦笑しながら剣をシリウスに向けようとした。
その時……、
「お兄様!!」
シリウスが幼い頃から聞き慣れていた声が背後から聞こえたのだった。




