83.なんか皆かっちょいいな~。あれ?主人公ってあたしだよね?
「……」
「……彼らなら大丈夫だ。
それは君の方が分かってるんじゃないか?」
スケイルとカークの相手をするために残ったクラリスたちを気にする素振りを見せたシリウスにカイルが声をかける。
彼らはまもなく校舎の入口に到達しようとしていた。
「……クラリスはまだしも、あとの2人のことはよく知らん」
シリウスはカイルに声を掛けられると、バツが悪そうにパッと前を向き、ポツリとそう呟いた。
「ふふ、素直じゃないね。
君が全校生徒の成績を含めたパーソナルデータを把握していることは知っているよ。
生徒一人ひとりの成長を見守っているんだろう?」
「なっ!
貴様!誰からそれを!
いや、違う!
断じてそんなことはない!
俺様は俺様にとって利用価値があるヤツをリサーチしているだけだ!」
カイルに指摘され、シリウスは顔を真っ赤にして否定してみせた。
「ああ、そっか。
君はそういうキャラなんだっけか。
そうだね。
王国にとって利用価値がある大事な国民たちを知ることは王子として必要だ」
「う、うむ。
その通りだ」
「そして、そんな彼らを体を張って守るために自らも鍛練を怠らず、国内最強剣士にまでなってみせたのも、王子として必要なことだよね」
「……」
カイルに口では敵わないと思ったのか、シリウスはそれには返答できなかった。
「……ま、それを教えてくれたのがスケイル君なんだけど」
「……ふん。
全部終わったら罰を与えてやろう」
「……そうだね。
全部無事に終わらせないと」
『……フィーナ。
さっきから静かだけどどうしたのよ?』
シリウスたちがそんなやり取りをしながら歩くなか、その後ろを三大魔獣とフィーナがついて歩いていた。
屋敷を出てからずっと黙りこくっているフィーナにルーシアが声をかける。
「……ルーシア。
アルビナス。
ケルベロス。
私はお嬢様を助け出したい。
でも、それ以上にあのサリエルとかいう男が許せません。
もしあの男が出てきたら私に任せてください。
そしてその時は、お嬢様のことをあなた方にお任せしたい」
『……フィーナ』
フィーナは決意を秘めた目をしていた。
『任せてよ!
ミサは僕たちが必ず助けてあげる!』
「……ケルベロス」
『そーよ!
だから、フィーナはあんなキザな男、さっさと叩きのめしてやりなさい!』
『そうなのです。
私たちはいつもミサのお世話をしてくれるフィーナにも感謝してるのです。
フィーナのためにも、必ずミサを助けるのです』
「……ルーシア、アルビナス。
3人ともありがとうございます」
3人に言われ、フィーナはその手にぐっと力を込めた。
「おや?
皆さんずいぶん余裕があるみたいですね。
もっと緊張と焦りでガチガチなのかと思いましたよ」
「……サリエル」
そして、そんな彼らの前にモノクルをかけた碧い瞳の男が立ちふさがった。
暗雲立ち込める校舎に気味の悪い風が吹き、サリエルの金髪が揺れる。
「貴様っ!」
フィーナがその瞬間、バッ!と飛び出してサリエルに飛び掛かった。
「おっと……!」
「……くっ!」
「まあまあ、落ち着いて」
だが、それはカイルの手によって止められ、フィーナの持つ短剣はサリエルに届かなかった。
「なぜ邪魔をする!
やはり貴様もあいつの仲間なのか!」
止められた腕をギリギリさせながら、フィーナがとんでもない殺気をカイルに飛ばす。
「……よく見るんだ。
あいつの手前にトラップマジックが敷いてある。
気付かず近付けば、ドカン!だ」
「……あ」
カイルに言われてフィーナが目を凝らすと、サリエルの手前の足元が青白く光っていた。
「さすがはカイル王子。
観察眼の素晴らしさは相変わらずですね」
「……」
カイルはそれには何も返さず、シリウスたちの方に向き直った。
「ここは俺と彼女でやろう。
シリウス王子と三大魔獣の皆はミサの元に」
「……おまえ、いいのか?」
シリウスの言葉に、カイルがふっと笑う。
「本当は俺が囚われのお姫様を助け出す役をやりたいところだが、それはこの国の王子様に譲ろう。
……それに、自分の従者の不始末は自分でつけないといけないからな」
「……っ! ……わかった」
最後に少しだけ見せたカイルの怒気を含んだ強い眼差しを受けて、シリウスは何も言わずに頷くことにした。
「……いくぞ」
そして、シリウスとアルビナスたちは校舎の中へと入っていった。
「……これも、おまえらの想定通りってことか?」
黙ってシリウスたちを通過させたサリエルにカイルが尋ねる。
「……そうですね。
概ね計画通りかと」
「……ああ、そうかよ」
カイルは暗く冷たい目をして剣を引き抜く。
「……カイル王子。
彼は私が仕留めたい」
フィーナも同じような目をしたまま、2本の短剣を両手に持っていた。
「気持ちは分かるが、相手は王国最強の魔術師である魔導天使だ。
2人掛かりでも勝てるかどうか分からないと思って挑んだ方がいい」
カイルのその言葉に、フィーナはふっと笑う。
「分かりました。
では、足手まといにだけはならないでくださいね」
その言葉に、今度はカイルがプッと吹き出した。
「……あんた、なかなか良い女だな。
俺の妻になる気はないか?」
「ご冗談を。
私はミサお嬢様のものですので」
「……残念」
そんなやり取りをして、2人は軽く笑いあったが、
「なかなか良いコンビじゃないですか。
お2人は相性が良いみたいですね」
サリエルが言葉を発すると同時に、
「「……うるさい。
おまえはもう喋るな」」
2人はサリエルに躍りかかった。
「……やれやれ。
嫌われたものですね。
これは後始末が大変そうだ」
そして、サリエルもため息をつきながらそれを迎え撃つのだった。
そしてその頃、
「……みんな遅いね~」
「まあ、そのうち来るでしょう。
はい、私の勝ちです」
「ぐはっ!
またかっ!」
ミサとミカエルはお菓子をつまみながらオセロをして、皆が来るのを待っていた。
「あ、そうそう。
これから起こることに、あなたは口を出さないでくださいね」
「え?
なんだい急に。
まあいいけどさ。
皆にひどいことはしないでよ」
「……それはどうでしょう」
ミサの言葉に、ミカエルは肩をすくめて返してみせた。
「え、そこはハイって言おうよ。
言っとくけど、あたしがギャグ扱いしてるうちに納めた方がいいからね」
「わかってますよ。
あなたを本当に怒らせたら怖そうですからね」
「わかってんなら良し!
んじゃあ、もう一回やるよ!」
「……もう20回ほど負けてるじゃないですか」
「いいから!
次こそ勝つんだから!」
「……やれやれ。
本当に敵には回したくない人ですね」




