74.え、サルサルさん来るの?
「ええっ!?
夜中にお屋敷を襲撃しに来る人がいるっ!?」
「そーなのよー」
「クラリス、ミサ、さすがに声のトーンを落とそう」
「おっとと」
「あら、ごめんよ」
翌日、クラスでクラリスたちに事の次第を話した。
「そんなけしからんことする人がいるなんて!
私がミサを守ってあげなきゃ!」
そう言って、両手をぐっと握りしめるクラリス。
ああ、尊い……。
大丈夫。
死ぬときは一緒だよ。
「……」
……クレア、なんだいその目は。
「……それは、やっぱり帝国のヤツらなのか?」
「……そうなんだろうな」
「ん?
ジョンもクレアも帝国の人がスパイ的なのを送ってるの知ってるのかい?」
「ああ。
俺の家は騎士の家系だからな。
王都にいても情報は集まるし、俺の兄貴は西側の警備についてるんだ」
ジョンってお兄さんがいたんだね。
「私のとこも同じだな。
とはいえ、西からの間者が入ってきているというだけで、ミサの屋敷に現れているという情報はない。
そこは伏せられているんだと思う」
「そうなんだね」
ミカエル先生あたりが情報統制でもしてるんだろうね。
「実際どうなんだ?
屋敷の警備は十分なのか?
足りないようなら、俺のとこの信用できる兵を配置してもいいけど」
「それなら私もだ。
私の家の私設兵なら少しは出せるぞ?」
うう。
2人ともありがとねぇ。
持つべきものは友達だねぇ。
でも、さすがにそこまで迷惑かけられないよ。
「それなら私も!
ううん、いっそのこと近衛騎士団を出すよ!」
「「おおー!
それだー!」」
クラリスさん。
ありがたいけど、それはさすがに。
「それでは情報統制の意味がないでしょう」
「うおう!
出たな! ……って、サルサルさん?」
「……サリエルです」
いつもならミカエル先生が突然現れてツッコミしてくるのに、今日はサルサルさんなんだね。
「てか、いまサルサルさんもミカエル先生みたく急に出てこなかったかい?
転移魔法はミカエル先生しか使えないんじゃ」
「いや、私は普通に扉から入ってきましたよ。
皆さんが盛り上がりすぎて気付かなかっただけです」
あら、そりゃ失敬。
「そんなことより、ミサさんの家に軍隊を送り込むなんてやめてください。
どんな軍事拠点にするつもりですか。
重要なものがあると言っているようなものじゃないですか」
「「「すいませ~ん」」」
まさかサルサルさんに止められるとはね。
ていうか、
「今日はミカエル先生はどうしたんだい?」
いつもなら、そろそろ音もなく現れてあたしを驚かせるのに。
「ミカエル先生は今日は所用でお出掛けなので自習だそうです。
それよりさっきの話ですが、そもそも屋敷の守護は十分間に合っているのでしょう?」
あら、所用。
珍しいこともあるもんだね。
あ、てか、この人はアルちゃんたちが三大魔獣なのも、屋敷を守ってくれてるのも知ってるんだっけね。
「まあ、そうだね。
なんとかなってるかな」
「ならば、余計な手出しは無用ですよ」
「で、でも、ミサが心配で」
うんうん。
クラリスに心配されるなんて、あたしゃ本望だよ。
「……ふむ。
クラリス殿下の心配もごもっとも。
ならば、これで手を打ちましょう」
「ん?」
「私がミサさんの屋敷の警護に参加するのです」
「え?
ええぇぇぇぇーー!!」
サルサルさんが!?
なんか贅沢じゃない!?
「……それ、ミカエル先生は知ってるのですか?」
「ふふふ。
クレアさん、でしたか。
安心してください。
そのミカエル先生から直々にご指名いただいたことですから」
「……それなら、いいんだが」
クレアさん。
サルサルさんのことを警戒してるのかね。
まあ、友好国とはいえ隣国の王子の側近だからね。
何かあるんじゃないかと思っちゃうのも無理ないかね。
「ん?
てか、今日はカイルはどうしたんだい?
それに、サルサルさんはアレのお守りがあるんだろう?」
「ん?
ああ、アレも今日は所用です。
アレのお守りは必要ですが、少しぐらい自分でやらせておきましょう」
……サルサルさん。
あんたも良い度胸してるね。
それにしても、ミカエル先生もカイルも所用って、みんな忙しいんだね。




