72.情報ってのは、なんでこんな簡単に漏れるのかね
「え!?
最近毎晩のようにうちに侵入者が来てたの!?」
「そうなのです」
「そ~よー」
先生たちとの話が終わって家に帰ると、アルちゃんとルーちゃんがいつも侵入者を撃退していたことを話してくれた。
ミカエル先生が今日あたしに話すことを事前に聞いてたのかね。
「そーなんだー。
僕は寝てたから知らなーい」
うん、知ってる。
ケルちゃんはあたしより先にあたしのベッドで大の字で寝てるもんね。
「そんな物騒なことになってたんだねー」
侵入者っていうのは、やっぱり西の僕たち偉いんだぞ帝国の人なのかねぇ。
「でも、それってやっぱりあたしのことがバレてるってことだよね?」
じゃなきゃ、帝国とは正反対の位置にあるあたしの家にわざわざ侵入してくるわけないもんね。
「……そうだと、思うのです」
アルちゃんはアゴに手を当てて、何やら考え込んでるみたいだった。
あ、そうそう。
考える前にやっておかなきゃならないことがあったね。
「……え?
わぷっ!
なにです!?」
「きゃー!」
あたしはアルちゃんとルーちゃんの頭をわさしゃわしゃと撫で回した。
「2人とも、あたしのことを守ってくれてたんだね。
ありがと、偉いね」
良いことしたら褒める。
これ鉄則。
「……えへへ」
「ふふーん!でっしょー?」
2人とも嬉しそうにしてて可愛いねぇ。
「ずるーい!
僕はー!」
「あー、はいはい。
いつもあたしの横で一緒に寝て、ケルちゃんも守ってくれてたんだねー。
偉い偉い」
「へへー!」
ケルちゃん、しっぽ出てるよ。
「でも2人とも、あんまり無茶しちゃダメだよ。
2人がケガしたりしたらあたしが悲しいからね」
「はいなのです」
「わかったわ!」
うんうん。
これで無理に逃げたヤツを深追いしたりはしないでしょ。
だいたいそういうのって罠のパターンが多いからね。
そんなテンプレ展開はとことん回避させてもらうよ。
「……にしても、いったい誰が情報を漏らしたんだろうね」
「……ミカエルさん。
今回の情報漏洩の件、少し変ではないですか?」
「変、とは?」
ミカエルの研究室。
机で事務仕事を進めるミカエルにサリエルが尋ねる。
どうやら部屋には2人だけのようだ。
「ミサさんの属性や能力を知っているのは彼女の家族と、シリウス王子たち王家の関係者、あとはジョン君とクレアさん、でしたか。そのわずか数人です。
そして、彼らは安易にミサさんのことを他者に漏らすような方たちではないのでしょう?」
「まあ、そうですね。
だからこそ、私は彼らの記憶はそのままに、協力してもらうことにしたのですから」
ミカエルはサリエルの話に答えながら、さらさらと書類を書き進めていく。
「ならば、いったいどこから情報が漏れたというのでしょう。
それに、漏れたにしても動きが早すぎます。
まさかミサさんの屋敷にすでに侵入者がいたなど」
どうやら、サリエルもミカエルから侵入者の話は聞いているようだ。
「それこそ、魔獣の森での一件、いや、もしかしたらそれよりも前から、帝国には情報が伝わっていたのではないでしょうか」
ミカエルはペンを動かす手を止め顔を上げると、やんわりとした笑みをサリエルに向けた。
「それはないでしょう。
ミサさんの属性云々は私が記憶操作で、その場にいたすべての生徒たちの記憶を改変してあります。
単に帝国の動きが早かったというだけでしょう」
そして、それだけ言うと書類に目を落とし、再びペンを走らせだした。
「……そう、なのでしょうか」
サリエルは納得いっていない様子だったが、ミカエルが黙って書類仕事を続けるので押し黙るしかなかった。
「…………」
そして、それを廊下側の研究室のドアにもたれかかって聞いていたカイルは静かにその場を離れていった。