71.もうのんびりさせてくれないかね
「ミサミサ~!
どぉして昨日は来なかったんだぁ~!」
登校すると、朝一からウザ絡み大王現る。
「いや、普通行かないでしょ。
なんだって、うら若き乙女なあたしが男しかいない部屋に好き好んで行かなアカンのよ」
普通、王家からの呼び出しとか断っちゃいけないのかもだけど、カイルはこの国の王家じゃないし、その王家のクラリスがあたしが決めていいって言ったんだからそうしたまで。
ふふふ。
理論武装も完璧よ。
「いやいや、俺は相手の同意が得られなければ、そういった事を致したりはしないぞ。
昨日は普通に大事な話があっただけだ」
あ、やっぱりそうなのかね。
クラリスも言ってたけど。
その辺は無駄に紳士なんだね。
普通はそんなこと言われても信用できないけど、バカで素直なカイルに言われると、なんかホントにそうなんじゃないかと思えちゃうから不思議だね。
とはいえ、これに騙されちゃダメだね。
男はみんな狼。
これどこでも常識。
あたしだって、クラリスと部屋で2人っきりになったら、理性を抑えておける自信ないからね。
「話なら、ここですればいいじゃないかい」
「ここでは誰が聞いているか分からない。
大事な話だからこそ、俺の部屋で話したかったのだ」
周りを見ると、他のクラスメートたちがこちらを気にしている。
まあ、部屋で大事な話を、なんてこと言ってたら気になるよね。
とはいえ、それでほいほいついていくほどあたしも若くないからね。
「そんなら、ミカエル先生の研究室とかでもいいんじゃないかい?
そんなに大事な話なら、きっと先生も知ってるんでしょ?」
「……むう」
おや、痛いとこ突かれたみたいな顔してるね。
そうだよね。
あたしなんかに聞かせる情報なら、当然ミカエル先生にも話が通ってなきゃおかしいからね。
ふふふ、あたしゃそんなにチョロくないよ。
亀の甲より年の功ってね。
伊達に人生2回目やってないんだよ。
「……というより、その情報は私から得たものでしょう」
「おわっ!
出たっ!」
「おお!」
そんで相変わらず突然現れるミカエル先生。
と、
そのミカエル先生に首根っこ掴まれてるサルサルさん?
「……申し訳ありません、王子。
ミカエルさんにバレてしまいました」
「やれやれ。
その話は私からミサさんにすると言っておいたでしょう」
「……ちぇ」
カイルさん、ちぇじゃないのよ、ちぇじゃ。
イタズラがバレたお子ちゃまじゃないかい。
ミカエル先生には内緒だったんだね。
そんなん無理よ。
この人にそんなん通用しないから。
……それにしても、ミカエル先生に首根っこ掴まれて、しゅんてしてるサルサルさん。
ふふふ。
2人の関係性はそんな感じなんだね。
でもでも、アレの時はサルサルさんの方が攻めになって……ふふ、ふふふ。
「……ミサさん?
よく分かりませんが、なんだか不快なのでやめてくださいね」
あ、はい。
すみません。
そんな今までにないほど嫌悪感を含んだ目で見ないでください。
怖すぎてチビりそうです。
てなわけで放課後、皆でおとなしくミカエル先生の研究室なわけで。
あ、皆って言っても、あたしとカイルとサルサルさんと先生だけどね。
「そんで?
話ってなんなの?
先生」
あたしには早く帰ってケルちゃんのしっぽをもふもふするっていう義務があるんだけど。
「……少し、良くない噂を耳にしましてね」
ふむふむ。
こりゃあ、なんだか真面目モードだね。
ちゃんと聞いとかないとダメなやつだね。
キリッ。
「……ミサさん。
バカみたいな顔してないで、真面目に聞いてください」
……真面目な顔したつもりなんだけどね。
「まあ、いいでしょう。
とにかく、話というのは西の帝国のことです」
「西の帝国?」
たしか、
世界征服するぞー!
俺たちは選ばれた民だー!
みんな従えー!
従わなきゃ戦争だー!
とか言ってる、ちょっとアレな感じの国だったよね。
前の世界では、あたしん家の近所でも子供たちがそんなこと叫びながら鬼ごっこしてたっけね。
「そうです。
その西の帝国が間者を送り込んできている、という噂です」
かんじゃ?
患者?
間者かな?
ようはスパイ的な?
なんだか穏やかじゃないね。
「さらに、その者どもが魔獣の森の異変について探っているようです」
魔獣の森?
それって。
「……そして、その森の三大魔獣がとある1人の令嬢に従っている、とか」
「へ?」
いやいやいやいや、それもう完全にあたしじゃん!
「え?
なんで!?
どっから!?」
だって、そのことを知ってるのはあの時一緒にいた人たちだけだよ?
「情報がどこから漏れたのかは分かりません。
ですが、帝国がその情報をもとに、いろいろと探っているのは確かなようです」
う~ん。
なんだかめんどくさそうだね。
「ん?
ていうか、この話をカイルたちが聞いててもいいのかい?」
これって、完全にその令嬢があたしだって言ってるようなもんだけど。
「それは問題ありません。
どうやら、ミサさんに初めて会った時に既に勘づかれていたようです」
あら。
そうなのね。
「なので、ここまで来てしまったらもはや協力していただいた方がいいでしょう。
きっと彼らなら、友好国として喜んで手を貸してくださることでしょう。
ねえ?
おふたりとも?」
「……はい」
「……う、うむ」
いやいや、先生。
そんな、ゴゴゴゴゴって効果音出しながら言われたら、誰だってうんって言わざるを得ないよ。
結局はミカエル先生が最強なんだね。
昨日はそんなミカエル先生の目を盗んであたしに対して先手を打ちたかったってとこかね。
やれやれ。
うちとこのバカだけでも大変なのに、東のアホに西のガキんちょまで出てくるのかい。
平和にいきたいものなんだけどねぇ。
「……ミサさん。
そもそもはミサさんが自重しないからですからね」
うん。
ごもっとも!
その夜。
「……ぐっ」
「やれやれ。
しつこいなー」
「また来たのですか、ルーシア?」
「あ、アルミナス。
そーなのよー。
ミサん家にこんなに怪しい人が来るなんてねー。
あ、ケルベロスは?」
「ミサと一緒に寝てるのです」
「やれやれ。
お気楽なものね」
「私たちが屋敷を守ってるのを分かってるからなのです。
それに、屋敷では彼が常にミサの側にいるし、学院ではミカエルがいる。
だから私たちはこうして自由に動けるのです」
「まあ、そうだけどねー。
これはまたミカエルに渡しとけばいーのよね」
「そうなのです。
ミカエルがきっとまた情報を搾り取るのです」
「それにしても、なんだか嫌な感じね」
「……月が隠れちゃったのです」