70.あたしの後ろに立たない方がいいぜ。
「あ、ミサさ……」
「そおぉい!」
「ミサ様、王子が……」
「ツウェェイ!」
「あの、ちょっと……」
「わっふうぇーい!」
ふう。
あぶないあぶない。
あの知的イケメンめ。
ことあるごとにあたしに触れようとしやがって。
油断も隙もあったもんじゃないね。
「……ねえ」
「うぎゃほい!!」
「……なにしてんの? ミサ」
「あ、クラリス」
思いっきり後ろから肩叩かれたから変な声出ちゃったよ。
「ふっ。
あたしの後ろに立たない方がいいぜ」
「え?
酔ってんの?」
「あ、ええとね……」
あたしはクラリスにサルサルさんに触れられないように警戒してることを説明した。
「……そゆことねー。
でもミサ、逆にそれすんごい不自然だよ」
「え?」
「あんまりミサが避けるもんだから、何か嫌われるようなことしたのかって、サリエルさんが私に相談しに来たからね」
「そーだ(な)んですか!?」
「え?
やっぱ酔ってない?」
「あ、すんません」
「それでね、カイル王子からの伝言を伝えたかったんだけど、いっこうに捕まらないから私から伝えといてくれって言われたんだけど」
あ、そゆこと。
なんかもう途中からお互い意地になって、カバディみたいになってたけど、向こうにはちゃんと用事があったんだね。
「え?
てか、アレが私に伝言って何?」
というか、いくらあたしと仲が良いからって、一国の王女様であるクラリスをメッセンジャーに使うなんて、さすがは人間兵器(笑)!魔導天使(笑)!
「……くしゅん!」
「どうした?
サリエル?」
「いえ、なんか誰かが私の悪口を言っている気がして……」
「くしゃみで悪口ってことまで分かるのか、おまえ」
「ミカエルさんは個人まで特定できますよ」
「……くだらない特技だな」
「……」
「放課後、王子の泊まってる部屋まで来い~!?」
「なんだと!?」
「あんたはややこしくなるからすっこんでな!」
「最近出番少ないぞ~!」
どこからか現れたうちとこの王子を退場させてから、あたしはクラリスに詳しく聞くことにした。
「うん、えっとね。
なんか大事な話があるから、放課後、1人で部屋に来てほしいんだって。
サリエルさんも同席するってことみたいだけど」
「え、やだよ」
「だよね~」
クラリスが困ったような顔で首を傾ける。
うん、かわいい。
あたしゃクラリスの部屋にだったら喜んで転がり込むんだけどね。
「なんだってあたしがそんな好食一代男の部屋に行かなきゃなんないんだい」
一応、外身はうら若き乙女なんだからね。
「でも、もしかしたら何か重要なことなのかも。
それに、カイル王子はぐいぐい系だけど無理やりどうにかしようとかはしない人らしいから、何かしらの事情があるんだとは思うんだけど……」
「重要なことって。
ただの一般ピーポーなあたしに大事なことも何もないでしょ。
あるとしたら、うちとこの王子が絡んできてることぐらいだし。
それに関してどうこうだとしても、政治的な面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだよ」
厄介なことには首を突っ込まないのが一番。
あたしはあたしの正義にもとることにしかでしゃばらない主義だからね。
ま、その結果、前の世界では最強おばさんとか言われてたんだけど。
「まあ、そうだよねー。
とりあえず私は伝言は伝えたから。
どうするかはミサが決めなよ。
もしかしたら大事なことなのかもしれないけど、具体的な説明もないから、律儀に応える必要もないかもね。
私としてはミサが危ない目に遭わなきゃそれでいいよー」
「……クラリス!」
がばっ!
「ひゃー!」
かわいい!
好き!
クラリスになら危ない目に遭わされてもいい!
「……何してるんだ、2人で」
「あ、クレア」
「いやなに、クラリスさんと愛を育もうかと」
「そうか。
せめて人目は忍びなよ」
「はーい」
「え!
ちょっ!
クレア、止めてよ!」
「やだよ。
止めたらクレアも一緒に~とかって迫ってくるじゃないか」
よく分かってるじゃないかい。
「クラリスー!」
「きゃー!
近いー!」
こうして、あたしとクラリスはめでたく結ばれたのでした。
めでたしめでたし。
「めでたくないよ!」
「クラリスー!」
「ひゃー!」
んで、クラリスとのおふざけも終わって放課後。
あたしは……。
「たっだいま~!」
「「「おかえりミサ~!」」」
家に帰った。
いや、普通に考えて行かないからね。
「……来ないですね」
「……来ないな」




