表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/252

7.また王子(バカ)が来たよ

 バカ王子襲来後のお昼休み、あたしとクラリスとジョンは3人で学院の食堂に来ていた。

 お母様は弁当を持たせるって言ってたけど、あたしは学院の食堂のご飯ってのが気になったから、丁重にお断りしておいた。

 たしか、後学のために、いろいろな食に触れておきたいのです、とか適当なことを言った気がする。

 お父様がそれにえらい感動しちゃって、なんだか申し訳なくなっちゃったのを覚えてるよ。


「いやー、さっきは災難だったな!」


「ホントだよ」


「ごめんねー、ウチの王子(バカ)がー」


 ジョンが大盛りの肉盛りパスタをすすりながら、先ほどの出来事を振り返っていた。

 クラリスはポテトをポリポリかじりながら頭をちょこんと下げる。

 あたしはと言うと、ローストビーフみたいなのと、魚の煮こごり?みたいなのと、ジョンに負けず劣らずな山盛りパスタと、ケーキとケーキとケーキとケーキだ。

 ……なんか文句あるのかい?

 この体になってから、胃もたれなんて言葉はどっかに行っちまったんだよ!

 おまけに、食べても食べても胸にばっか脂肪が集まるもんだから、そりゃあ食べるよ!

 前の世界じゃあ、学生時代はお金もあんまりなかったし、大人になったら爆食いしてやるぞ!って夢見てて、で、いざ大人になったらすぐ胃もたれしちゃって、あんまり食べられなくなってて泣いたからね!

 食べれるウチに食べるんだよ、あたしゃ!

 おまけに、ここの食堂はどんだけ食べてもタダ!

 もう最高だね!


「ミサ!

お前やるな!

俺より喰う女は初めてだぞ!」


「ふっふっふっ。

ジョン。

お主もなかなかよのう」


「……私は食欲なくしたわ」


 2人してバクバク食べ続ける映像に、クラリスは胃もたれしたようだ。

 いらないなら、そのフィッシュ&チップスちょうだいよ。



「にしても、ジョン。

あんたすごいねえ。

バカ王子に目をつけられたあたしと、その王子の妹のクラリス。

それが分かっても、変わらずこうして普通に接するなんて」


 ランチを食べ終わって一息ついたあと、あたしはジョンにそう言った。

 クラリスもうんうんと頷いている。


「んあー?

別にそんなん関係ないだろー。

ミサはミサ。

クラリスはクラリスだ!」


 胸を張るジョンと、おー!と手を叩くクラリス。

 そんな平和な光景に、思わず笑みがこぼれた。

 どうやら、さっそく良い友人が出来てしまったみたいだよ。


「見つけたぞ!

ミサ~!」


「げっ!

また出た!」


 そうして、またまた現れたよ、バカ王子。

 息をゼーハーゼーハー言わせてる。

 またあたしを探して、いろいろ走り回ったのかね。

 普通、食堂から探そうとすると思うんだけどねえ。


「ちょっと!

お兄……げっ!

スケイル!」


 バカ王子に文句を言おうとしたクラリスだったが、同伴しているスケさんカクさんを見て、きゅ~と萎縮してしまった。


「ふっふっふっ。

クラリス。

貴様がスケイルのことが苦手なのはリサーチ済みだ!」


「クラリス姫様。

おてんばもほどほどにしてください」


「う、うぅ~~」


 クラリスはスケさんに言われて、顔を真っ赤にして縮こまってしまった。

 こりゃあ、苦手っていうより、恥ずかしがってるんじゃないのかい?

 クールに細めの眼鏡を上げるスケさんは確かに素敵だよ。

 それにしても、スケさんはスケイルって言うらしいね。

 もう、スケさんだね。

 てことは、もしかして……


「あの~、ちなみに、もう一方(ひとかた)のお名前は~」


「俺はカークだ。

俺のことは覚えなくて良い。

ただのシリウス王子のお付き、それだけだ」


 …………うん。カクさんだね。

 やっぱりお供はスケさんカクさんじゃないと!


「カ、カーク様!

最年少で王宮騎士団に入団して、シリウス王子の供に選ばれたカーク様だ!

ほ、本物……」


 なんだか、ジョンがえらく感動して、ふらふらとカクさんに握手を求めに行っちゃったよ。

 カクさんもまんざらでもない様子で握手に応じちゃって。

 って、ちょっと待ってよ?

 (かなめ)の2人を封じられたあたしは今……


「ふっふっふっ。

ミ~サ~」


 バカ王子と二人きり(タイマン)~~!!


 ヤバいヤバいヤバい!

 何がヤバいって、王子の目がもうヤバい!

 ヤバいとか、そんな若者みたいこと言って、でもホントにヤバい!

 ちょっと王子(バカ)

 ホントに怖いよ、その目!

 ちょっとイッちゃってるから!


「ミサ……ミサ……」


 なんか名前呼びながら近付いてくるんだけど~!

 え?なにこれ?

 あたし何されんの?

 え?死?

 なんか、死の予感なんだけどっ!


「ミサ~!」


 あんた~!助けとくれ~!


「これを見てくれ」


「……はっ?」


 恐る恐る閉じた目を開けると、王子は1枚の紙をあたしに突き付けていた。

 なんだい。

 てっきり殺されるのかと思って、旦那に呼び掛けちゃったじゃないのかい。


「え~と、なになに?」


「お、おい!近いぞ!

髪がっ!良い匂いがっ!」


 あたしは前の癖で、紙に顔を近付けていた。

 あ、離れてても見えるんだった。

 どうにも、目が悪かった頃の癖が抜けないねえ。

 ん?なに真っ赤になってんだい?バカ王子。

 また怒ってんのかい?



『俺様ランキングは廃止。

ポイント制も廃止。

代わりに、ミサポイントランキング制度を導入!』



 紙にはデカデカとそう書かれていた。


「はい?」


 あたしがぽかんと口を開けていると、バカ王子が得意気に笑いだした。


「そんなに驚くほど嬉しいか!

そうだろう!そうだろう!」


 いや、たしかに驚いたけど。


「なんだい、これは」


 あたしが尋ねると、バカ王子はさらに嬉しそうに胸を張った。


「よくぞ聞いた!

これは、全校生徒の評価をミサに対するポイントで決定するシステムだ!

この学院は、ミサのミサによるミサのための学院に生まれ変わるのだ!」


 のだーのだーのだーのだー……

 あたしの頭の中にエコーかかっちまったよ。


「な、何を、言ってんだい……」


 いけない。

 ツッコミもうまく出来ないよ。


「嬉しいか!嬉しいだろう!

これからは俺様のみならず、全校生徒がミサのために存在するのだからな!

ハーッハッハッハッ、ぎゃぶっ!」


 気付いたら、あたしは王子の顔面に正拳突きを決めていた。


「今すぐ撤回しなさ~い!」


「なぜだ!やだっ!」


 やだって子供かっ!

 あ、子供みたいなもんか。

 じゃなくて!


「こんなの嬉しくもなんでもないよっ!

いいから、さっさと撤回しなさい!」


「やだやだやだやだ!

や~だ~!!」


「ああもう!

駄々っ子め!」


 バカ王子は手足をバタバタさせて、完全におもちゃを買ってもらえない子供になっていた。


「…………どうしても撤回しないのかい?」


「当然だ!」


「…………なら、現時点を持って王子のポイントをマイナスに。

そして、退学。

その後、このシステムの全面撤廃とする」


「そ、そんなぁ~~!」


 崩れ落ちる王子(バカ)


「撤回しますね?」


「……うん」


 勝った。

 王子はスケさんカクさんを引き連れて、とぼとぼと帰っていった。


「やれやれ。

まったく、いきなり何を言い出すんだい、あのバカ王子は」


 溜め息を吐くあたしに、ようやく正気に戻った2人が飛び付いてくる。


「すごいよ!ミサ!

またお兄様を撃退したね!」


「ああ!

やったな!

見事な会話誘導術だったぞ!」


 褒めてくれるのは嬉しいんだけどねえ。


「……あんたら、王子に迫られてるあたしを放ってたよね?」


「「ご、ごめんなさ~い」」


 ハモるんじゃないよ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 食べても食べてもお胸にお肉は羨ましい( *´艸`) やっぱりスカさんカクさんじゃないとね! ミサのあっぱれな言動にスッキリしました₍₍٩(*ˊᵕˋ*)۶⁾⁾ バカ王子はやっぱりおバカなので…
2022/01/26 19:50 退会済み
管理
[良い点] 王子もオチたか……
[一言] 王子が思ったよりも素直だった。 しかしこの行動力!バカさえ直れば良い為政者になれるのでは?(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ