68.人間兵器!魔導天使!オサルサル!
「ミサミサミサミサ・フォーン・クゥールヴェルトゥォー!!」
……もはや誰のことだい。
「なんだい、カイル?」
あたしが登校して教室に入るなり、カイルが華麗な3回転半を決めながら現れた。
なんか、この人がどんなキャラなのかどんどん分かんなくなってくんだけど。
今んとこ、女好きでカッコつけでどうしようもないバカって感じなんだけど……え?それクズじゃん。
「昨日はすまなかったな。
てっきり相殺魔法を撃ってくるものとばかり思っていたのでな!」
そう言って、ペコリと頭を下げるカイル。
おやまあ。
王子なのに、ただの一令嬢に下げる頭はあるんだね。
そういう素直なのは嫌いじゃないよ。
なんだかね。
王子ってのはどんな育て方されてるんだか。
広範囲に優秀なのに、どっかネジぶっ飛んでてバカで素直で。
え?
王子の教育マニュアルってどこもそんなんなの?
てか、そんなんで国の行く末は大丈夫なのかい?
おばちゃん心配だよ。
「べつにたいしたケガもしてないし、もう大丈夫だよ」
実際、軽い打ち身なんかはあったみたいだけど、保健室で目が覚めた時にはどこも痛くなかった。
あたしが寝てる間に保健の先生が治してくれたみたいだ。
カイルが落ちる速度を調整してくれてたみたいだしね。
「そうか!
それは良かった!」
あたしが力こぶポーズで大丈夫アピールをしてやると、カイルはパアッと顔を輝かせた。
カイルもシリウスもこういう分かりやすくて素直なとこは可愛いんだけどねぇ。
「はっ!
しまった!
そのケガを口実に、キズモノにした責任を取って妻に、という今朝思い付いた素晴らしい策を披露するのを忘れていた!」
……と思ったら、なんかそんなことをでっかい声で叫びながら頭抱えてしゃがみこんじゃったよ。
そんなこと考えてたのかい。
心の声が駄々漏れだねぇ。
「ミサ!
おは~……どしたの?ソレ」
「あ、クラリス。
おはよ~。
ただの悩めるクズだから気にしないでいいよ」
「おっけー」
クラリスのそのスルースキル、あたしは好きだよ。
そうして、あたしは頭を抱えてブツブツ言ってるカイルを置いて、クラリスとモーニングトークに花を咲かせることにした。
「……では、今日の授業はここまで」
ふ~。
今日も無事に終わったね~。
授業中はカイル。
お昼休みはシリウスの相手をするのも慣れてきたね。
……慣れたくはないけどね。
「あ、ミサさん。
お話があるので、このあと私の研究室まで来るように」
「げっ」
今日も、無事に、終わってよね。
「ああ、ようやく来ましたか」
そんで放課後、あたしはミカエル先生の研究室を訪ねた。
先生は椅子に座って、何やらお悩みみたいだったよ。
「ずいぶん遅かったですね。
てっきり逃げ出したのかと思いましたよ」
あのあと、ダブル王子に絡まれたからね。
2人にチョップかまして、ようやく来たとこなんだよ。
てか、逃げられるなら逃げたかったよ。
「……まあ、逃がしませんでしたけどね」
ですよね~。
「話というのは、サリエルという男のことです。
ミサさんは会ったことあると思いますが……」
……サ、サ、猿える?
「……おサルさんとは会ったことないよ、あたしゃ」
「……そう。
カイル王子と国境付近で遭遇した時にいた男性です」
うわーお。
無視と来たよ。
「あー!
はいはい!
あのインテリイケメンね!
そういや、学院ではあの人のこと見てないね。
え~と、サルサルさん」
「……サリエル」
「お猿ウェル?」
「……サリエルです」
「あー、はいはい。
で?
そのオサルサルさんがどうしたんだい?」
「……」
ゴチン!
「あだっ!」
「……で、そのサリエルさんがどうしたって?」
「……よろしい」
なにもチョップしなくてもいいのに。
頑張って横文字の名前覚えてるんだから、ちょっとぐらいいいじゃないかい。
「……で、そのサリエルですが、近く、学院に姿を見せます。
いや、正確に言えば、生徒たちに見えるようにすることが許可されました」
「……どゆこと?」
先生、もうちょい分かりやすいのプリーズ。
「サリエルはマウロ王国で人間兵器として指定されているので、他国での活動には大きな制限がかかります」
人間兵器!
なにそれ!かっこよ!
錬金術士みたいじゃないかい!
「力の制限に、存在の制限。
彼はこの国に入る時に自分で自分に呪いをかけなければならないのです。
まあ、その前にミサさんとは会ってしまったわけですが」
ふむふむ。
なんか大変なんだね。
あの知的モノクルイケメンも。
さすがは人間兵器!
ついつい言いたくなる人間兵器!
「……聞いてます?」
聞いてます!
人間兵器!
ミカエル先生も人間兵器やん!
「……まあ、そうなんですけどね」
「そうなのかい!?」
もはや心の声に返答してくることに慣れてる自分が怖いよ。
「そもそも私たちのような存在は魔導天使と呼ばれ、強大な力を無下に振るわないよう、自分たちでいろいろと厳しい制限を設けているのです」
魔導天使!
出た!
厨二心くすぐるね!
姪っ子のおかげであたしもすっかり毒されてるからね!
「……いい加減、心のなか落ち着きませんか」
あ、はーい。
おっけーですー。
すんませーん。
魔導天使(笑)様~。
わっ!
嘘!嘘です!
すいません!
デコピン構えないで!
「え~と、とりあえず先生とか、そのサリエルって人はそのすごいやつなんだね。
で?
その人があたしたちに見えるようになるってのは、何がどうなるの?」
あたしはおでこをさすりながら、ようやく本題を聞く形になった。
「彼はカイル王子の側近です。
本来ならば授業などでも常に王子の側にいるのですが、友好国への留学という体裁上、アルベルト王国への信頼の証として王子への緊急時以外での同室不可の制限をかけていたのです。
また、生徒たちに認識させると面倒なので、認識阻害の魔法もかけていました」
ふーん。
まあ確かに、あんな金髪モノクル知的イケメンがその辺に突っ立ってたら皆もそわそわしちゃうもんね。
「ですが、少々不穏な噂が流れたので、王子の護衛のためにサリエルが姿を現すことになったのです」
「不穏な噂?」
「……まあ、それについてはまたあとで話します」
なんだろね。
「それよりも、サリエルには厄介な能力があります。
クラリスさんやクレアさんやジョン君もですが、特にあなたはサリエルに注意してください」
「能力?」
「……彼は、触れた者の感情や心の声を読み取れるのです」
……あー、なんかめんどくさそうだねー。