65.目覚めたら知らない天井だったよ
「……王子、さすがにやりすぎたのでは?」
「いやぁ、危機的状況になれば無意識的に力を出すかと思ったのだが、敵意がなかったからダメだったのかな」
「……やれやれ。
少しは自重してくださいよ」
んん?
誰かがしゃべってるね。
「おや?
気が付きそうですね」
「では、私はこれで」
「……ん」
目を開けると、あたしはベッドの中にいた。
ここは多分、保健室とかなんだろうね。
「あ!
いたたたた」
意識が戻るやいなや、体に痛みが走る。
そういや、あたしはあのバカ王子のせいで大空を駆けたんだったね。
で、森の中にダイブして、気を失ったんだ。
「おお!
ミサ!
目が覚めたか!
心配したぞ!」
んで、その元凶であるバカが目の前に。
「あんたのせいだろ!」
「ふぐはぁっ!」
痛む体に鞭打って拳を打ち出すと、カイルの顔面にめり込んでアホがふっ飛ぶ。
うん。
少しだけスッとした。
「はぁ。
それだけ元気なら問題なさそうですね」
ミカエル先生が呆れた様子でため息をついてる。
でもね、あたしゃ気付いてるよ。
先生なら止められたはずなのに止めなかったことを。
おいこら。
こっち見ろ。
いっつも悪口考えると察するくせに、こんな時だけ鈍感ぶるんじゃないよ。
「ふむふむ。
目立った外傷もないし、これならすぐに帰って大丈夫でしょうねー」
おーい。
棒読みだよ。
ちょいと。
シカトすんな。
……。
バーカバーカ。
ダメクソ教師。
悪魔メガネ~。
「……ミサさん。
や・く・そ・く、楽しみにしててくださいね」
「……あ」
いかん。
先生の言うことを1つなんでも聞くって約束してたの忘れてた。
くそう。
あたしはこの人にずっといいように使われることになりそうだよぅ。
「よし!
では、ここは責任を取って、俺がミサミサを家まで送ってやろう!」
「断る!」
「なぜだ!」
「嫌だから!」
「正直!」
正直に言ったらなんかショック受けた顔したけど、実際、今日はもう疲れたから、家までこのバカ王子のテンションに振り回されるのは勘弁だよ。
「まあ実際問題、まだ完調ではないでしょうから、今日のところは特別に私が転移魔法で家まで送ってさしあげましょう」
「え?
やた!」
それは嬉しい。
どうしたんだい?
明日は槍の雨でも降るのかね?
「……やっぱりやめましょうかね」
あ!嘘!
嘘です!ごめんなさい!
「……おまえ、どっちの味方なんだ?」
「……生徒の味方ですよ」
おおう。
出たね。
本心をまったく見せない先生のキラキラスマイル。
でも今はナイスプレイだよ。
「では、帰りましょうか」
「ほーい」
先生はカイルを置いて、あたしの肩に手をかけた。
「ミサミサ・フォン・クールベルト!
森に落ちたと聞いたぞ!」
「先生、行ってください」
「はい、転移」
「おいー!」
なんか最後に変なのが来た気がしたけど、きっと気のせいだね。
うん。
気のせいだ。




