62.終わった。あたし、完全に終わったよ
そして、校庭に降り立つバカ2人。
カイルさん、3階から飛び降りても平気なんてすごいね。
うちとこの王子は体力バカだからアレだけど。
「ふっふっふっ。
貴様とはいずれ決着を着けなければならないと思っていた」
「ん?
あ、そうだなー」
え?
カイルさん、なんかやる気なくなってません?
さっきまでのイキり兄さんはどうしたんだい?
「ミサ~!
大丈夫~?」
「お二方とも、3階から飛び降りるなど無謀だ」
「!」
そして、クラスメートたちが到着した途端、再び目が輝くマウロ王国の王子。
「さあ!
シリウスよ!
ミサミサを賭けて勝負だ!」
「ま、間に合った?」
「どうやらこれからみたいだ」
……こいつ。
皆が追い付くのを待ってたね。
あくまでパフォーマンスなのかね。
てか、あたしにはさっきのオフの姿見せていいのかね。
「望むところだ!
ミサミサは俺様のだからな!」
……お二方とも、人がつっこまないのを良いことに勝手にミサミサ呼びにしないどくれるかい?
あんま調子にのると後でひどいよ。
「来い!
雷神剣!」
ピシャーン!という稲光とともに、シリウスの手に雷を帯びた剣が収まる。
「出でよ!
風神剣!」
一方、カイルの方も、ヒュゴー!という竜巻とともに風を纏う剣を出現させた。
「え?
てか、そんな真剣で勝負するのかい!?」
「当たり前だよ、ミサミサ!
これは王家のプライドをかけた決闘だ!
敗者はその命でもって償うのだ!」
「いやいやいやいや!
あたしなんかのことで命なんてかけんじゃないよ!
てか、命ってのはそんな気安く放り出していいもんじゃないんだよ!」
これはホント。
ホントにそう。
こんなくだらないこと、やる必要ないんだよ!
「ふふ、ミサミサのことを命をかけてでも欲しい。
それだけだろ?」
おおう。
キザだねぇ。
「そ、そういうことだ!」
あんたは頑張ったね。
顔真っ赤だよ。
バカな男……。
でも、このままじゃホントにこのバカどもは命をかけた決闘をしかねない。
どうにかして止めないと。
てか、どっちかが勝ったら、あたしはそっちの婚約者になっちゃうわけだし。
……2人とも負けさせる?
ケルちゃんたちでも呼んじゃおうか。
いや、あとで先生にしこたま怒られそうだね。
ん?
先生か。
「雷よ、集え!」
「風よ、逆巻け!」
ヤバいね。
なんだか2人がすごいことしそう。
もう仕方ない!
「先生!
ミカエル先生!」
「なんでしょう、ミサミサ?」
くそう!
良い笑顔しやがって!
「先生!
このまま2人が戦い始めたら先生の責任問題だよ!
それこそクビだよ!
いいのかい!」
「ん~、そうしたら、のんびり南の島でバカンスでも楽しみますか~。
蓄えはありますし~」
こいつ、絶対遊んでやがるね。
アゴに人差し指当てて、あざとポーズなんかして。
ああもう!
「なんか頼みごと1個聞いてあげるから!
2人を止めとくれ!」
「……ほう」
あ、すごい嫌な笑顔。
「なんでも?」
「な、なんでも」
「……」
なんか、ニヤァって音が聞こえてきそうなぐらいの笑顔なんだけど。
「……」
そして、無言でその場から消える悪魔。
「いくぞ!」
「はぁっ!」
「はい、終了です」
「なっ!」
「くっ!」
バカ2人が今にも大技を繰り出そうという瞬間、ミカエル先生が2人の間に現れてそれぞれに手をかざしたら、2人が纏っていた雷も風も、剣ごと消えてしまった。
相変わらずとんでもない先生だね。
一応、その王子が王国最強とか言ってなかったかい?
「ミカエル!
邪魔をするな!」
「そうだぞ!
これは王家同士の正式な決闘!
いくら魔導……」
「はい、うるさい」
「「ぐがっ!」」
先生に抗議する2人を重力魔法で押し潰す悪魔。
王子相手でも容赦ないんだね。
「ここでは先生と呼びなさいと言ったはずですよ?
そして、私の生徒である以上、勝手な勝負ごとは禁止です」
「し、しかし!」
「だが!」
「……なにか?」
「「……いえ」」
おおう。
王子2人を黙らせる悪魔の冷徹な眼光。
さすがは悪魔大魔王劣悪魔神ミカエルだね。
うん。
その目をあたしに向けないどくれ。
そして、タイミングよく鐘が鳴る。
ホームルームの終わりの鐘だね。
「さ、授業が始まります。
皆さん教室に戻りましょう」
先生に言われて、皆がバラバラと戻っていく。
「おい、カイル!
ひとまず勝負はお預けだ!
だが、そのうち必ず決着を着けるからな!」
「望むところさ!」
王子はそんな捨て台詞だけ言って去っていった。
カイルもあたしにウインクしたあと、鼻歌を歌いながら教室に戻る。
「やれやれ、これから大変なことになりそうだね」
そして、ため息をつきながら教室に戻るあたしの肩を叩く魔王。
「そうですね。
だから、あなたにはいろいろ協力してもらいますよ」
「わひゃ!」
耳元で囁くな!悪魔先生!
「なんでも、と言いましたよね?」
そう言って、怪しげな微笑みだけを残して教室に転移する先生。
「……ホントに、大変なことになるね、これは」
どうやらあたしはとんでもない悪魔と契約しちゃったみたいだ。




