59.再会が早すぎないかい!?
「……ってなことがあってね」
「へ~!
異国のイケメンか~」
登校してすぐ、昨日の出来事をクラリスがうんうんと興味津々に聞いてくれる。
あ、先生はまだ来てないよ。
うん、このかわいさはお金取れるね。
というか、イケメンとは言ってないんだけど、クラリスの中では褐色の肌のイケメンになってしまっているみたいだ。
たしかにイケメンの部類ではあるんだろうけどね。
まあ、もう会うこともないだろうし、勝手に美化されててもいいとするかね。
「でも珍しいね。
話を聞く限りでは、その人は貴族だろ?
マウロ王国とは友好国とはいえ、貴族の行き来はそんなにないし、そんなお忍びみたいに来ることなんてほとんどないんだけど」
「そうなんだね」
そう言われてみれば、クレアの言うように貴族っぽい身なりと馬車だったな。
なんか、シャランって感じのアクセサリーいっぱいつけてたし。
シャラン……。
そうそう。
こんな感じの……ってえ?
「ミサ!
また会えたな!」
「カ、カイル!?」
いつの間にか教室に入ってきていたカイルが後ろにいて、あたしの髪を撫でていた。
「ああ、またこうして会えるなんて、これはもう奇跡だ!
あの時、こうして君の髪に触れなかったことをどれだけ後悔したか。
もう離さないよ。
さあ、今すぐ挙式を挙げよう!」
「……いや、断るけど。
とりあえずあんまり髪をいじらないでくれるかい?」
「あ、すまん」
カイルは思ったリアクションと違ったのか、頭をぽりぽりとかいている。
悪かったね。
フィーナがせっかくキレイにセットしてくれたんだ。
自分じゃ直せないからね。
髪の毛をいじられるのは困るんだよ。
「ミ、ミサ?
そのイケメンは誰?」
「ん?
ああ、これがさっき話してたマウロ王国の人だよ」
「……」
クレア?
どしたの?黙り込んで。
「おお!
これはこれは素敵なお嬢さんだ!
輝く太陽のような笑顔が君の魅力をより引き立たせているよ!
どうだい!
僕のお嫁さんになってみないかい?」
「なっ!」
こいつはとんでもない男だね。
さっきまであたしに挙式だのなんだの言ってたのに、今度はクラリスかい?
あたしのだからあげないよ!
「……ありがたいお話だけど、私のお婿さんは大変そうだからやめておいた方がいいと思うよ、ふふふふ~」
そうだね。
この国のお姫様だもんね。
貰い手はあたししかいないよね。
にしても、なんかクラリスさん怒ってます?
「それに、私のミサに結婚を申し込んでおいて、なかなか良い度胸をしてるよね~」
おおう。
にっこりクラリスさん登場だね。
にしても、『私の』だなんて、そんなクラリスさんったら~。
「はっはっはっ!
いいね!
気の強い女性は好きだ!
我が国では一夫多妻が認められているからな。
2人とも俺の元にくればいいさ!」
カイルさん、あんたもなかなか度胸あるね。
「はっはっはっ……おっと!」
「……」
「ク、クレア!?」
高笑いするカイルにクレアが隠し持ってた短剣を突き付けた。
「……おまえは何者だ?
ミサに近付いた時、気配をまったく感じなかったぞ。
クラリスにも近付いて、何が目的だ。
返答次第では拘束する」
あ、そっか。
カイルを知らない人からしたら完全に不審者だもんね。
てか、あたしもたまたま助けただけで、別に知ってる人じゃないのか。
この国のお姫様でもあるクラリスを守るために、騎士志望のクレアがこんな行動を取るのは当然なんだね。
「おっはー!……どした?」
「あ、ジョン」
「ジョン、不審者だ。
手を貸してくれ」
「……分かった」
陽気に入ってきたジョンもクレアの一言で瞬時に切り替えて剣をカイルに突き付ける。
この辺の切り替えはさすがだね。
「やれやれ。
物騒な子達だなぁ」
カイルはそれに怯えた様子もなく、ひらひらと両手を挙げてみせた。
その騒ぎの少し前、
「まさかお2人だけで来られるとは。
仰っていただければ迎えを出しましたのに」
「いえいえ、あまり騒がせるわけにはいきませんので」
ミカエルとサリエルがカイルの留学手続きのために話していた。
カイルはその横で暇そうにお菓子をつまんでいた。
「それにしても、今さら条約なんか引っ張り出してきて、いったい何が目的なんです?」
「いえいえ、目的だなんて、我々は王子の見聞を広げるために、友好国であるアルベルト王国の偉大なところを学ばせていただきたいだけですよ」
「ほー。
それはそれは。
歴史あるマウロ王国のサリエル殿にそんな風に言っていただけるとは光栄ですな」
「ふふふふふ」
「ははははは」
2人ともにこやかに話しているが、どうやらそんなに仲は良くないようだ。
「……!」
そんなやり取りをどうでも良さそうに聞き流していたカイルはミサのことを思い出し、会いに行こうとその場を抜け出すことにした。
2人は互いの探り合いに集中しているし、気配を消す鍛練をしているカイルにはその場から静かに去ることはそれほど難しくはなかった。
「ふむ、つまり、カイル王子は1年生の教室に入れたいと」
「そうですね。
王子は魔力がそこまで強くないので、1年生の実践魔法の科目を受けてもらいたいのですよ」
「……なるほど。
それは構いませんが……」
ミカエルは出来ることなら彼らとミサを引き会わせたくなかった。
ミサの有用性を知れば、彼らがどういう行動を取るかは分かりきっていたからだ。
しかし、実践魔法を学ぶのならミサと顔を合わせるのは必至。
それならば、せめてあまり関わらないように手を回さなければと思案していた。
「……ミカエル殿。
そういえば、国境で……ん?」
「はい?」
「……王子がいない」
「……あ」
そして、2人は全力でカイルを探すことになる。




