58.なんか謎な人たちだったね
「「「お、お頭ぁ~!!」」」
ケルちゃんに吹き飛ばされた盗賊の頭に手下たちが駆け寄る。
吹き飛ばされたお頭は意識を失ってたけど、命に別状はないみたいだ。
「あんたたち!
あたしの目の届くとこで悪行は許さないよ!」
ケルちゃんに跨がったまま、あたしは盗賊たちをビシッ!と指差す。
「な、なんだおまえはっ!?」
盗賊たちはケルちゃんに怯えながらも、武器を構えて立ち向かおうとしていた。
「ふっふっふっ。
あたしは、そうだね。
旅のご老公とでも言っておこうかね」
「どう見てもババアじゃねえだろ!」
うるさいね。
1回言ってみたかったんだよ。
それにしても、ケルちゃんを見ても逃げ出さないなんて、なかなか根性ある盗賊さんたちだね。
ここはあれだね。
あたしの言ってみたかったもうひとつのセリフの出番だね。
でも、あたしが従わせてると思われないように小声で言わないとね。
「……アルさんルーさん、やっておしまい」
ホントはスケさんカクさんだけど、それはもういるしね。
いつか、あの2人にもやらせたいね。
『はいなのです』
『はーい!』
「なっ!
く、蜘蛛と、蛇の魔獣!?」
「なぜこんなところに!?」
そして、巨大蜘蛛と巨大蛇の姿で現れるアルちゃんとルーちゃん。
なぜって、あたしと一緒に探検してたからなんだけど、ここはたまたま魔獣が出現して、盗賊さんたちを狙ってるってことにしないと。
「あ、あーれ~!
なんで急にこんな所に魔獣がー?
騎獣の犬と散歩してたら、突然魔獣がやってきたわー」
ってことにしとこう。
「な、なんだ、あの説明口調の棒読みは」
「魔獣の出現に頭おかしくなったのか?」
……甚だ遺憾だけど、あたしが使役してるってバレてなさそうだからいいとするかね。
『シャー!!』
『シャギャー!!』
「や、やべぇ、こんな大型魔獣。
敵いっこねえよ!
に、逃げろっ!」
アルちゃんとルーちゃんが威嚇したら、盗賊さんたちはあっさり逃げていった。
なんだ、2人がこてんぱんにやっつけてから印籠を出すとこまでやりたかったのに。
「……ん?」
あ。
馬車の人たちがめっちゃこっち見てる。
うん。
存在を忘れてたよ。
途中から黄門様ごっこに夢中だったね。
『ミサー!
うまくいっ……むぐっ!』
『今は黙って去るのです!』
アルちゃんナイス!
あたしに駆け寄ってこようとしたルーちゃんをアルちゃんが自分の体でぐるぐる巻きにして、森の奥へと消えていった。
「あ、えと、大丈夫だったかね?」
あたしはケルちゃんから降りて、魔法使いっぽい人に話しかけた。
「……」
「あのー、もしもし?」
大丈夫かな?
なんか、驚いた顔のまま動かないんだけど。
「助かったぞ!」
「うおっ!」
あたしが魔法使いっぽい人の顔の前で手をひらひらさせてると、馬車の中から男の人が飛び出してきた。
「おまえ、すごいなっ!
そのデカい犬もすごいが、あんな巨大な魔獣2体を前にしても怯まなかった。
じつに見事な胆力だ!」
「は、はあ……」
いや、誰っ!?
てか近っ!
褐色の肌の人は馬車から飛び出すなりあたしの手を取って、顔を近付けながら興奮した様子ですごい話し掛けてきた。
「おまえ、名前はっ!」
「あ、えと、ミサ、だけど……」
妙に圧のある人だね。
でも、あんまり嫌な感じはしない。
悪意とかはないんだろうね。
こっちの世界に来てから、西洋風の顔立ちの人たちには慣れたけど、こういうアジアンテイストな人は初めてだね。
この国の人じゃないのかね。
褐色の肌に黒髪黒目。
ピラミッドとかの国の人の感じに似てるかね。
民族衣裳っぽいの着てるし、頭に巻いてるバンダナ?もそんな感じの模様だね。
これがターバンだったら、魔法の絨毯に乗ってランプの精でも呼び出してそうだね。
「ミサかっ!
俺はカイル!
カイル・マウロ8世だ!
ミサ!
おまえ、俺の嫁にならんか!」
「……はい?」
この人はいきなり何を言ってるんだい?
しかしこの勢い、なんかあの王子に通じるものがあるね。
「どうだっ!」
「……ならんよ」
「フラれたっ!」
いっそ清々しいね。
ここまで素直でバカなのはそんなに嫌いじゃないけどね。
「……はっ!
カイル様!
いきなり失礼ですよ!」
ようやく正気に戻った従者っぽくて魔法使いっぽい人が駆け寄ってきた。
まとも枠っぽいんだから頑張ってコレを何とかしとくれよ。
でも、この人はカイルとかいうのとは違って、アルベルト王国の人みたいな感じだね。
真っ白な肌に金髪。
緑色の瞳ってのは珍しいけど。
モノクルはいいね。
なんか頭良さそうで、あたしは好きだよ。
「ほらっ!
あなたは馬車に戻っていてください!」
「お、おい!
サリエル、邪魔をするなっ!
俺はいま運命のロマンスをっ!」
「も!ど!れ!」
「……はい」
おおう。
サリエルさん?めっちゃ怖いやん。
「……うちのアレが大変失礼しました。
そして、助かりました。
ありがとうございました」
「あ、いえいえ」
こっちを向いた時にはもう柔和な笑顔だったけど、カイルに向けてた般若な顔、ちょっと見えてたからね。
「……あの騎獣はあなたのですか?
ずいぶん大きいのですね」
「え!?
あ!うん!
そ、そうなんだよ!
なんかエサをいっぱいあげてたらおっきくなっちゃってー!」
ケルちゃんのことに触れられて、あたしは焦って適当に答えた。
ケルちゃんには頭もしっぽも1つずつになってもらってる。
人をのせられるほど大きな獣を騎獣として使っている貴族はそれなりにいるから、おかしくはないだろう。
ちなみに、アルちゃんとルーちゃんには手のりサイズになってもらって、一緒にケルちゃんの背に乗っていた。
さすがに蜘蛛や蛇を騎獣にする人はいないし、毒を持つ蜘蛛やら蛇やらがそんなサイズだと間違いなく人に害為す魔獣と位置付けられて討伐されちゃうからね。
狼ならいいのかって話だけど、まあ、ワンちゃんは昔から人と共存してきたからね。
「ふむ。
そうですか……」
サリエルさんはモノクルに手をかけながら、じっとこちらを見ている。
ケルちゃんのことに気付いたりしてないよね?
「おや?
その制服は。
ミサ様は学院の生徒さんでしたか」
「え?
ああ、そうだよ。
今日はお休みだったからね。
ちょっとケ……騎獣に乗って散歩してたんだ」
「……なるほどなるほど」
え?
なに?サリエルさん。
その不敵な笑み。
なんだかどっかのミカエル先生みたいで怖いんだけど。
「おーい!
そろそろ行くぞ~!」
「……ふむ、そうですね」
カイルは飽きたのか、馬車から顔だけ出してサリエルさんに呼び掛けている。
さっきまで嫁だなんだと言っていたのに、ずいぶん軽薄な男みたいだね。
軟派男は好きじゃないんだよね。
「それでは、我々はこれで。
これも何かの縁。
またお会いすることがあれば、何卒、よろしくお願い致します」
「あ、はいはい。
ご丁寧にどうも」
サリエルさんは丁寧にお辞儀をすると、馬車に乗り込んでいった。
御者のおじさんは危機を乗りきって、ほっとした顔で馬車を走らせた。
「ミサー!
またなー!
嫁の件、考えといてくれよー!」
「心配しなくても、二度と会うこともないだろうね。
それなら、愛想ぐらい振り撒いとくかね」
あたしは小声でそう呟きながら、馬車から体を乗り出して手を振り、そんなアホなことを言うカイルに愛想笑いをしながら馬車を見送った。
「ミサ、もういいのです?」
「あ、ごめんごめん。
もう戻っていいよ」
「ふー!
小型化は疲れるのよねー!」
ちっちゃい蛇と蜘蛛の姿でケルちゃんのもふもふの中に隠れてた2人が人の姿になる。
『ミサー!
僕お腹すいたー!』
「そうだね、帰ったらご飯にしようね」
「「『やったー!』」」
そして、あたしたちはケルちゃんの背にのって家に帰っていった。