54.魔獣の森から出たんだよ
「ん?
おっ!
ミカエル先生発見だね!」
「やったー!
森抜けたよー!」
「はぁ。
なんだか疲れたな」
「皆さん、お疲れ様です」
「お疲れ、頑張ったな」
「ま、まあ、頑張っていたんじゃないか!?」
さあ!
みんな!
このセリフ、どれが誰のセリフか分かったかね!?
あたしは断然カクさんのセリフが好きだね。
ま、んなことはどうでもよくて、
あたしたちはどうやら無事に魔獣の森を抜けたみたいだよ。
「皆さん、お疲れ様です」
ミカエル先生があたしたちを出迎えてくれる。
あたしたちよりも先にゴールした生徒たちの姿もチラホラ見てとれる。
なんだか、みんな疲れ果ててるね。
「……森の外は眩しいのです」
「わー!
人間がいっぱいね!」
「ホントだ!
おいしそう!」
ちょいとケルちゃん。
「……彼らも連れてきたんですか?」
先生がやれやれとため息をつきながら尋ねてくる。
「あ、そういや、あんたたち森にいなくていいのかい?」
「いーのいーの!
僕はそもそもずっと森に帰ってなかったし!」
まあ、ケルちゃんはずっとウチで食っちゃ寝してたからね。
「へーきよ!
森はミカエルの結界で守られてるんだから!
森の中の魔獣もミカエルがうまいこと管理するでしょ!」
蜘蛛さん、それミカエル先生の負担ハンパないね。
先生ってば、白い顔がさらに青白くなってため息ついてるよ。
「長期間でなければ問題ないのです。
この度の演習で森を荒らす魔獣は大部分討伐されたから、新たな魔獣が湧くまで、まだだいぶ猶予があるのです」
「あ、そうなんだね」
蛇さん、あんただけが頼りだよ。
「はぁ。
それで?
あなた方は3人ともミサ君の元に行くつもりですか?」
あたしたちのやり取りを見てた先生が何度目か分からないため息をついてた。
「「「うん!」」」
おや、息ぴったり。
「はぁ~~~」
おや、先生ずいぶん長いため息。
いや、ほんと、お疲れ様です。
「……わかりました。
私が何とかしましょう」
先生……あたしゃ、先生の胃に穴が開かないか心配だよ。
「……誰のせいだと思ってるんですか」
あ、すんません。
「それに」
「ひゃうっ!?」
先生が急に近付いてきて、顎を持ち上げてきた。
いや、近いよ!
先生なんだか良い匂いするし!
近距離イケメンは目に毒だよ!
「あなたは私と魔獣が繋がっていたことを知りましたね?
これは一応、国家機密なんですよ。
他の子たちはあとでその部分の記憶を消しますが、あなたは同属性というのもあって抵抗力が高い。
だから記憶を消せない。
つまり……」
「つ、つまり?」
おでこがつきそうなぐらいの距離まで顔を近付けた先生がふっと笑みを見せる。
「私はこれから、あなたのことをしっかりと監視しておかないといけないということです。
私からは逃げられませんから、楽しみにしておいてくださいね」
「わ、わーい、た、楽しみだよー。
はははははー」
はは、もう笑うしかないね。
あはははは。
「こらー!
そこ!
何をしている!
距離が近いぞー!」
「ほら、あなたの婚約者のバカがお怒りですよ。
相手をしてあげなさい」
このドS教師め!
「死ねっ!」
「なにゆえっ!?」
あたしは不敵な笑みを浮かべる先生から離れ、やり場のない怒りを王子に向けて、ドロップキックをかました。
少しだけスッキリしたよ。
あ、そうそう。
「あ!
ジョンだ!
ミサ!
ジョンとシルバ先輩が帰ってきたよ!」
うん、忘れてた。
ジョンとシルバ先輩は大量の狂暴な魔獣に囲まれて、命からがら帰還したらしい。
しかも、それはどうやら、一堂に会した三大魔獣から逃げるようにして集まった魔獣たちらしい。
つまり、あたしたちのせいだね。
「……お、俺は、生きてる……。
生きてるぞ。
生きて……帰ってきたぞーーー!!!」
「ふふふふ、あはははは!
おばあさま!
蝶々よ!
キレイですわね~!」
その後、ジョンとシルバ先輩が元に戻るのにしばらくかかったんだ。
ホントごめんよ。
ちなみに、ジョンの課題なんだけど、ただ一言、
『がんばれ』
だったんだって。
ジョン。
ホントお疲れ。