53.白雪の花を肴に
「ここを抜けると、森の中心なのです」
「やっと着いたよ。
まあまあ長い道のりだったね」
あたしたちはおチビさん3人の案内で、魔獣の森の中心地に向かった。
人の手が入ってないから、それなりに険しい道のりもあったけど、そういう所は魔獣化した3人の背に乗せてもらって、あっという間だったよ。
ちなみに、クラリスは蜘蛛さんに乗るのは断固として拒否してたね。
昔から苦手なんだって。
蜘蛛さんがちょっと落ち込んでるのも、それをクラリスがフォローしてるのも、どっちもかわいかったから、あたしとしてはニヤニヤ見守るだけだったけどね。
重なりあった枝葉の先が光ってる。
白くぼんやりと光る、幻想的な光。
これは、なんだか期待しちゃうね。
「わぁっ!
きれー!」
「……すごいな」
「きれいだねぇ」
あ、分かってると思うけど、最後があたしだよ。
森の中心は、白い光に包まれてた。
木は生えてなくて、周りを囲う背の高い木々が枝を伸ばして、中心を覆い隠すように日の光を遮ってるから、余計にそう見えるんだと思う。
「これが全部白雪の花なんだね」
さらさらと揺れる草原のような地には一面に、白くぼんやりと光を放つタンポポの綿毛みたいな小さな花。
まるで、この森全部がここを守るためにあるかのような感じだね。
「ここは私たち魔獣からしても大事な場所。
基本的に私たち3人以外には立ち入りさせないし、私たちに認められた者じゃないと立ち入りを許さないのです」
白い振り袖姿に戻った蛇さんがそう語る。
「神聖な場所なんだね。
あたしたちも入れてくれてありがとね」
「……ん」
あたしが頭をナデナデしてあげると、蛇さんは顔を赤くして、こくっと頷いた。
「んで、この花をどうするんだっけ?」
持って帰るとかは、なんだか気が引けるね。
「いえ、ここに来ればいいのです。
ミカエル先生は我々の動向を常に管理しているので、足を踏み入れただけで中心にたどり着いた証明となります」
なるほどねー。
てか、先生って全生徒を1人で同時に管理してるのかい?
相変わらずとんでもない人だね。
「白雪の花は魔法薬の精製に効果的なんだが、王もミカエルもこの森は不可侵にしておきたいらしくて、演習と調査以外では基本的に立ち入りを禁止している。
……俺としても、ここはこのままの方がいい、と思う」
「王子……」
なんか意外だね。
あのとんでも王子なら、こんなとこ焼き尽くしてやるぜー!とか言いそうなのに。
「私たちも、人間の代表がここを穢さない代わりに、生徒たちの演習に協力してほしいと言ってきたから、それを了承したの。
人間にも魔獣の中にも、ここを手に入れようとする輩がいるから、それを王族やミカエルとともに、私たちが撃退してるのよ。
だから、演習で私たちがあなたたちに襲い掛かったのは演技なの。
私たち以外の魔獣は、ここを踏みにじろうとする魔獣を私たちが追い込んだものだから、退治しても構わない奴らなのよ」
「そうなんだね」
最初から、先生と蜘蛛さんたちはグルだったわけだ。
だから、カクさんも即死の蜘蛛さんの毒ですぐに殺されなかったのかね。
「ん?
でも、ケルちゃんはこの前、先生に封じられてたけど?」
「あ、あー、あれは、えっと……」
人型のケルちゃんがもじもじしてる。
動揺して、もふもふしっぽの数がどんどん増えてる。
「あれは、ケルベロスがミカエルが大事に取っておいたケーキを食べちゃったから、お仕置きされてたのです」
「……あ、そんなことだったんだね」
先生、ケーキ好きなのかね。
あんなクールぶってて、けっこうかわいいじゃないかい。
「なんか、食べ物の話聞いたら、お腹すいてきたー」
クラリスのお腹がきゅ~って言ってる。
お腹の音さえかわいいんだね。
あたしなんか、ぎゅるるるるなのに。
「あ、私、サンドイッチ作ってきたんだ。
食べる?」
クレアが持っていたリュックから包みを取り出す。
「あ、私はドーナツならありますよ」
スケさんもカバンからドーナツを取り出す。
「俺様はシュークリームだ!」
王子がどっから出したのか、大量のシュークリームをどさどさと置いていく。
なんか、スイーツ好きな男子が多いのかね。
「わーい!
ご飯いっぱいだー!」
「じゃあ、私たちも食糧持ってくるのです」
「そうね」
そして、ケルちゃんたちが仕留めてきた獲物やら果物やらも集まり、プチ宴会が始まった。
「いやー、幻想的な光景の中で仲間と飲み食いとか、最高だね!」
「そうだねー。
なんだかんだ、みんな無事に課題も達成できそうだし」
「ああ、みんな無事で良かった」
あたしとクラリスとクレアは膝で眠る蜘蛛さんと蛇さんの頭を撫でながら、お肉を取り合うケルちゃんと王子と、それをたしなめようとするスケさんカクさんを笑いながら眺めた。
「……ミサ、これからは私たちもミサのことを守るから安心してね」
「……クラリス」
「そうだな。
きっと、これからミサは大変かもしれないからな」
「クレア、あんまり脅さないどくれよ」
「はは、悪い悪い」
そうして、あたしたちの演習は無事に完了することになる。
「ん?
なんか忘れてるような気がするけど、ま、いっか」
「シルバせんぱーい!
ここどこなんですかー!?」
「ふふふ、おばあちゃんが、おばあちゃんが呼んでる」
「もうやだー!」




