52.あたしの課題は達成したみたいだよ
「ふ~!
美味しかったわ!
ごちそうさま!」
「お粗末様でした」
3人のなでなで大会が一段落すると、蜘蛛さんは再びお菓子を食べ始め、あっという間に平らげた。
「ん?
そういえば、蜘蛛の姿の時に火傷とかしてなかったかい?」
クレアの魔法でめちゃくちゃ燃えてた気がするんだけど。
「ん?
あー、なんか、ミサのお菓子食べたら治ったわ!」
たしかに、健康的な肌には火傷どころか、キズひとつないね。
あたしのお菓子、無敵だね。
「あ、と、悪かったね。
思いっきり火魔法をぶつけて」
「クレア」
クレアが申し訳なさそうに蜘蛛さんに謝る。
「ん?
あー大丈夫だよー。
お互い命の取り合いだったわけだし。
私はケガも治ってお腹も膨れて、そっちもその人が無事だったわけだし。
恨みっこなしね!」
カクさんを指差して、ニカッと笑う蜘蛛さん。
うんうん。
良い子だね。
「そ、そうか。
そうだな。
それなら、それでいい」
クレアも納得したみたいだね。
「……魔獣というのは、シンプルな考え方なんですね。
遺恨などという考え方はないようだ」
スケさんがメガネを押し上げながら感心してる。
研究者っぽいね。
「……私たちにも恨みはあるのです。
仲間や家族が殺されれば怒るし復讐もするのです。
でも、お互いに食うか食われるかだから、そこまで執着はしないのです。
執拗に追い回したり、不要に傷付けたり、末代まで虐げたりなんかはしないのです。
殺せるならすぐに殺す。
それだけなのです」
蛇さんが悟ったように呟く。
なんだか頭良さそうな子だね。
「……人間は、悲しい生き物だからな」
「王子?」
王子がなんだか物憂げな表情をしてる。
珍しいし、なんだか似合わないね。
まあ、一応は王子なんだし、いろいろと思うところがあるのかね。
ん?
そんなことを考えてると、あたしの胸元に入れた、課題が書かれた紙が光りだした。
「なんなんだい」
「ミ、ミサ!
どこに入れてるのよ!」
クラリスが焦ってツッコんできた。
どこって、谷間だけど?
1回やってみたかったんだよ。
前世ではそんなことできないような残念な代物だったからね。
「よいしょっ、と」
その紙を取り出すと、書かれた課題の文字の上に、赤い文字で大きく『達成!』と書かれてて、それを確認すると、紙はぼろぼろと崩れ、消えてしまった。
「ああ、ミサさんの課題が無事に達成されたんですね。
おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
スケさんに祝われて、反射的に頭を下げる。
どうやら、無事に課題が終わったらしいよ。
「そういえば、ミサの課題ってなんだったの?」
……なんだっけね。
「えっと、たしか、この森の主?だかになれ、みたいな?」
「闇魔法『従属』を使って、魔獣の森の主になること、だ」
「あ、そうそう、それそれ」
王子にため息混じりに言われた。
あたしが覚えてなかったから悪いんだけど、なんか釈然としないね。
「なるほど。
この森を支配していた3体の魔獣。
獄狼の王、盲目の蛇、即死の蜘蛛を懐柔したから、課題達成と見なされたというわけですね」
ふむふむ。
スケさん、分かりやすい解説ありがと。
「僕たち別に森を支配なんてしてたつもりないけどねー」
「そーねー。
好きに生きてただけだし」
「……好きに生きられるだけの力があったから、他の魔獣たちが私たちの牛後につくことを良しとし、結果的に支配的な地位につくことになったのだと思うのです」
お、おおう。
蛇ちゃんは難しい言葉を知ってるね。
「なるほど。
それは興味深い。
今度、私の研究室で詳しくお話しませんか?」
「……報酬は?」
「美味しいご飯でも食べながら、というのは?」
「のったのです」
なんか、スケさんと気が合ってるし。
「ま、とりあえずあたしは課題クリアってことだね。
そんじゃ、クラリスとクレアの課題もさっさとクリアしちゃお!」
「うん!」
「ああ!」
そうして、あたしたちは今度こそ森の中心地に行くことにした。
「そういえば、ジョンとシルバたちはどうしてるんだろうな?」
「……あ」
すっかり忘れてたよ。
カクさん、よく思い出したね。
その頃、ジョンたちは、
「も、もうヤダー!
もう帰りたい~!」
「なにを言っているんですの!
私たちの戦いは、これからだ!」
「決めポーズしてないで戦ってくださいよ~!」
大量の魔獣に囲まれて、必死で戦っていた。