51.蜘蛛さんもかわいいね。王子は気持ち悪いね
突然、魔方陣から現れたミカエル先生に、あたしも皆もびっくりだよ。
「シャッ!?」
そして、蜘蛛さんもびっくり。
そうだよね。
たしか、転移魔法って先生ぐらいしか使えないんだっけ?
「シャ、シャーー!!」
「……黙りなさい」
「(ビクッ)……」
おおう。
即死の蜘蛛さんとやらも、ミカエル先生の冷たい眼差しで黙りだよ。
さすがはミカエル大魔王だね。
「……ミサ君も、思考黙ってください」
いや、思考黙るって何!?
「やれやれ、出来れば私が出動することなく演習を終えたかったのですが……」
先生はそう言うと、手のひらを皆にかざして、魔力を集中させた。
黒い光が先生の手に集まる。
「お、おい、あんたまさか……」
王子は気付いたみたいだね。
これはあれだ。
皆の記憶を一部始終なかったことにしたりする魔法。
ミカエル先生だけのすんごい魔法だね。
「え!?
てかてか、皆の記憶、また消しちゃうの!?
どの辺!?」
「……ケルベロスがミサ君の飴玉を提案した辺りからですかね。
カーク君は私がやむを得ず現れ、治療したことにします」
つまり、あたしの飴玉になんだかすんごい効果があることが分かる前に戻すってことね。
「いや、ちょっと待て!
これは世界の在り方に関わる重要案件だぞ!
それを王子である俺様さえ除け者にするつもりか!」
「だ、か、ら、ですよ。
これは王と対応を相談した上で決定します」
食って掛かる王子を先生はあっさりとあしらう。
「では、」
先生の手のひらに集まった黒い魔力が輝きを増す。
「先生!
ちょっと待って!」
「……クラリス君?」
珍しくクラリスが割って入ってきて、先生は思わず魔法を止めたみたいだ。
「私たち、内緒にしてるよ!
誰にも言わない!
だから、記憶を消したりしないで!」
「いや、しかし……」
「それに、もしこのことでミサが危ない目に遭うかもしれないなら、事情を知ってる私たちがミサのことを守るから!
もし何も知らなければ、ミサを守ることさえできないんだよ!?」
クラリス、あたしのために必死になってくれて、なんてかわいい子。
結婚してほしい。
え?
てか、あたしって危ない目に遭うの?
「そうだよ。
私も、剣に誓って、ミサのことを守る」
クレア、剣をシャキーンってやっててカッコいい。
結婚して。
「そうだ!
俺も秘密は守ります!」
おお!
カクさんまで!
「……そうですね。
一応、ミサさんは王子の暫定的な婚約者な訳ですし、ミサさんを守るのは、引いては王子をお守りすることにも繋がりますからね」
スケさん!
なんかよくわかんないけど、あたしってまだこの王子の婚約者だったのかい!?
「そ、そうだ!
うん!
そういうことだ!」
……王子。
王子なんだから、そこは最後に良いこと言って決めとくれよ。
「……」
皆の言葉を聞いて、ミカエル先生は手のひらの魔力を、
「……まったく」
握り潰した。
「仕方ありませんね。
あなたたちの言うことも一理あります。
皆さんは人に無下に話す人でもないでしょう。
ただし、もし情報が漏れた時は、その時は問答無用ですべての人の記憶を消させていただきますよ」
「あ……ありがとうございます!!」
ため息をつく先生に、皆が頭を下げた。
あたしも何となくペコッと会釈しといたよ。
「それじゃあ、私は再び戻ります。
君たちは引き続き、演習を続けるように。
ああ、それとクレア君」
「あ、はい!」
ミカエル先生はそういえばと、クレアの方を向いた。
「カーク君は、どうやらケガを負っていないようですね。
引き続き、課題達成に向けて頑張ってください」
「え?
で、でも!」
「……サービスです。
次はありませんよ」
「あ、はい!
ありがとうございます!」
クレアの課題は『カクさんにケガさせないこと』らしい。
どうやら、ミカエル先生はカクさんのキズが治ったから、課題失敗をなかったことにしてくれたみたいだ。
なかなか良いとこあるんじゃないかい。
見直したよ!
「では」
ミカエル先生はそれだけ言って、再び魔方陣の中に消えていった。
「よかったね、クレア」
「ああ!」
あたしが声をかけると、クレアは輝くような笑顔を見せた。
ああ、尊い。
「シャギャーーー!!」
そして、ミカエル先生がいなくなった途端、再び元気よく威嚇をし始めた蜘蛛さん。
うん、ごめんね。
すっかり忘れてたよ。
『ミサ。
この子もお腹すいてるみたいなのです』
蛇さんがあたしにそう言ってきた。
「あ、そうなのかい?
そんならクッキーと飴ちゃんまだあるよ。
ケルちゃんと王子が食べまくるから残り少ないけど、あと全部あげるよ」
『え!?
もしかして、言葉わかってる!?』
あ、うん。
そのくだりはさっきやったんだ。
あたしと蛇さんは、あたしが皆の言葉が分かるってことを軽く説明してあげた。
『そ、そうなんだ。
そんな人間、初めて見た』
蜘蛛さんは驚いたような声でそういうと、蛇さんの時みたいに、しゅるしゅると体を縮めていった。
「おやまあ」
そしたら、真っ赤な長い髪が印象的な、元気そうな女の子に変身したよ。
瞳は黒。
フリルの襟がついた白の長袖シャツに、スカートは、えっと、こういうのなんて言うんだっけね。
膝ぐらいまでタイトめで、その先がフリルみたいにフワッとしてるの。
ほら、あれ、あれだよ。
あー、ダメだね。
全然出てこないよ。
なんか、そういうスカート履いてるよ。
蜘蛛の時は真っ黒な体に真っ赤な目だったけど、人の姿になると逆になるんだね。
「え、と、ミサだっけ?」
「あ、うん」
その子はあたしの前に歩いてくると、上目遣いで両手を差し出してきた。
「お菓子ちょーだい」
あらやだ!
この子もかわいいよ、ちょっと!
少しほっぺた赤くして!
おしゃまでおてんばな感じだけど、それもまたかわいい!
「どーぞどーぞ!
あんまりないけど、全部食べて良いからね!」
あたしはポッケに入ってたお菓子を全部手のひらにのせてあげた。
「やった!
ありがと!」
そしたら、パアッ!と顔を輝かせて、嬉しそうに飛び跳ねたよ!
え、なにこの子!
かわええやん!
「むぅ。
ミサ。
私も」
「ん?」
そのやり取りを見てた蛇さんが白い振り袖の女の子バージョンになって、あたしと蜘蛛さんの間に割り込んできた。
「……撫でてほしいのです」
え?
なに、嫉妬しちゃったの~!?
「いーよー!
ほれほれ~!」
「ふふ」
嬉しそうに目を細めちゃって。
大人ぶってても女の子なんだね~。
何歳か知らないけど。
「ずるーい!
ミサ!
僕も~!」
「あー、はいはい。
ケルちゃんもおいで」
同じく、男の子の姿になってゴロニャンするケルちゃん。
「わ、私も、撫でられてあげてもいいのよ?」
そして、ツンデレな蜘蛛さん。
「よっしゃ!
みんなまとめてなでなでしてやるよ!
おいで~!」
「ミ、ミサ!
俺様もっ!」
「よーしよーし!
みんなかわいいね~!」
「無視するなっ!」
「王子、それはさすがに……」
「お兄様。
さすがに気持ち悪いですよ」
「くそぉ~~!!」
うん、なんか後ろで言ってるけど、知らん知らん。




