50.飴ちゃんを作っただけなのに……
「ミ、ミサ!?」
「ギィ?」
うん、蜘蛛さんもちゃんと止まって首をかしげてくれるのかわいいよね。
「……お、王子」
「カーク!」
倒れているカクさんの姿を見て、王子が駆け寄る。
「ケルちゃん!
蜘蛛さんを牽制してて!」
『え!
僕、蜘蛛は嫌いだよ~』
そう言って、しっぽを足の間にしまって弱腰になるケルちゃん。
あ、そういえば、さっき移動中に三竦みがどうとかってスケさんが言ってたね。
『ケルベロスは昔、蜘蛛に全身を糸でぐるぐる巻きにされてから、苦手になったらしいのです』
「蛇さん」
蛇さんはそう言いながら、しゅるしゅると蜘蛛さんの前に立ちはだかる。
『ここは私が牽制してますから、どうぞなのです』
「わかった!
ありがと!」
蛇さんにお礼を言って、あたしたちはカクさんの元に走った。
クレアと、人化したケルちゃんも一緒に。
「おい!
カーク!
大丈夫か!」
「……王子、申し訳、ありません」
「王子、ちょっとどいてください」
カクさんを揺さぶる王子をスケさんがどかして、カクさんの状態を診てるみたいだね。
クレアやクラリスはちゃんと一歩離れて様子を見てるから、あたしもそれに倣うとするかね。
「ふむ、麻痺毒ですね。
即死毒じゃなくて良かった。
休眠期に起きてしまったから、保存食として巣穴に持っていくつもりだったのでしょう」
スケさんがカクさんに手をかざして、何か調べたみたいだ。
スケさんの手からは魔方陣みたいなのが出てる。
「スケイル!
治せるのか!?」
「難しいですね。
即死の蜘蛛の毒は最上級のものですので、私の水魔法でも中和しきれません」
王子に肩をつかまれても、スケさんはそれを振り払いながら冷静に答えた。
「くそっ!
クラリス!
光魔法で浄化できないか!」
「あ、私は、まだ浄化を覚えてないから……」
クラリスが申し訳なさそうに指をいじいじしてる。
こんな時でもかわいいクラリス、いい。
「ならば仕方ありません。
カークはこのまま運びましょう。
幸い、危険な魔獣はミサさんが何とかできるみたいですし、それ以外はクラリス殿下の《聖光》で寄せ付けずに行けるでしょうから」
「そんなっ!
でも、カーク先輩は苦しいのでしょう!?」
「……そうですね。
身動きが取れないだけでなく、呼吸器系も麻痺しているので、呼吸も苦しいはずです」
「そんなっ!」
クレアがスケさんにすがりつくが、スケさんは悔しそうに首を縦に振るだけだった。
それは可哀想だね。
何とかならないもんかね。
「それなら、ミサの飴玉あげればいーよ!」
「ケルちゃん?」
あたしたちが困っていたら、ケルちゃんがあたしを指差して、そんなことを言った。
『それがいいでしょう。
ミサさんの飴には状態異常回復の効果があります』
蛇さんが蜘蛛さんにシャー!って言いながら、ケルちゃんの言葉を補った。
「……バ、バカなっ!
ミサさん!
さっきの飴玉、まだありますかっ!?」
スケさんがそれを聞いた途端、顔色を変えてあたしに詰め寄ってきた。
「え、あ、あるけど」
おばさんは飴ちゃんを切らさないからね。
あたしはポッケから、手作りの飴ちゃんを出した。
まだ、あと5個はある。
「ちょっと失礼!」
スケさんはその内の1つをつかむと、包み紙をあけて、自分の口に放り込んだ。
ケルちゃんが、ずるーい!って言ってたけど、なんか真面目な話してるから今は大人しくしてようね。
「……こ、これはっ!」
しばらく口の中で飴玉をころころ転がしたスケさんは、自分の状態を確認して、驚きの声をあげた。
そして、あたしの手からもう1つ飴ちゃんを取ると、包み紙から取り出した飴ちゃんをカクさんの口に突っ込んだ。
「むがっ!」
「いいから舐めろ!
麻痺してても、少しなら動かせるだろ!」
突然、口に飴ちゃんを突っ込まれたカクさんは驚いてたけど、スケさんの勢いに負けて、素直に飴ちゃんを舐め始めた。
で、しばらくすると、
「……ん?」
カクさんが自分の腕を持ち上げて、指を動かし始めた。
「あ、う、動けるぞ」
そして、ゆっくりと体を動かして、立ち上がることが出来るようになった。
「……え?」
「……うそ!」
クレアやクラリスたちが驚いた顔をしてる。
「……スケイル。
どういうことだ」
王子が珍しく真面目な顔でスケさんに詰め寄ってる。
ちゃんとしてればイケメンなんだよね、この王子は。
「……ご覧の通りです。
ミサさんの作ったこの飴玉は、状態異常を回復させ、体力もある程度回復させる作用があるようです」
「そんなの、中級ポーションと同等の効果じゃない!」
スケさんの説明に、クラリスが声を上げて驚く。
「いや、即死の蜘蛛の毒を完全に浄化するなど、上級ポーションに匹敵する」
ポーションって、そういえば、なんかミカエル先生の戦術学で聞いたことあるね。
たしか、いろんなケガとか状態異常とかを治せるけど、作るのがすごい大変だってやつ。
「……上級ポーションは、水魔法と光魔法の使い手が数ヶ月かけて1本作るような代物だぞ」
え?
そだっけ?
「ミサ、これ、1日で作ったって言ってたよね?」
……正確には数時間だね。
冷ます時間をいれなきゃ、1時間とかかもね。
「……それを、10個ほど……」
……正確には30個だね。
途中から楽しくなっちゃって、調子にのっていっぱい作ったんだよ。
「……こんなの、医療も戦争も、根底から覆るぞ」
ちょっと王子。
なんか怖いこと言わないどくれよ。
というか、これあたし、またやっちゃったやつかね?
「はぁ。
やれやれ、あなたはどれだけやらかせば気が済むんですか」
「ミカエル先生!?」
なんだかザワザワし始めた所で、悪の大ボス、大魔王ミカエル先生が魔方陣から降臨せしめたよ。
「……ミサ君?」
あ、すんません。




