49.あ、なんか、真面目な話の所に来ちゃってごめんよ
「さて、じゃあ、このままクレアとカクさんを探そうかね」
子供2人とバカ1人のお菓子争奪戦が一段落してから、座っていたあたしはやれやれと腰を上げた。
「え?
クレアたちも探すの?」
クラリスがアゴに人差し指を当てて首をかしげる。
うん、安定のあざとさ。
「そうだねー。
こういう時は、クレアたちもピンチに陥ってるってのが、お決まりのパターンだからね」
「そういうものなのか?」
王子が首をかしげてる。
うん、あんたは別にかわいくないよ。
「そういうものなんだよ」
そうして、あたしたちはクレアたちを探すことにした。
クレアたちも森の中心地に向かっている可能性が高いってことで、クラリスの課題クリアも兼ねて、皆で森の中心に向かうことにしたんだ。
あたしと王子は犬化したケルちゃんの背にのって、クラリスとスケさんは蛇化した盲目の蛇にのせてもらって移動した。
蛇ちゃんの名前も考えなきゃね。
なにがいいかね。
「……そんなっ!
カーク先輩っ!」
ミサたちが森の中心地に移動を開始して、少しした頃、即死の蜘蛛の牙がかすったカークは体を横たえていた。
そこに、クレアが寄り添う。
「……クレア。
おまえは、逃げろ……」
「先輩っ!?
まだ生きて……!?」
即死の蜘蛛の毒にやれれば、即座にその命を落とす。
そう聞かされていたクレアは、まだ少しだけ体を動かせるカークに驚いていた。
「聞いた、ことが、ある」
カークは全身を震わせながら、懸命に口を開いた。
「即死の蜘蛛は、休眠に備えて、大量に、エサを摂取する。
その際、鮮度、を、保つために、自らの、巣まで、獲物を生きたまま、運ぶ、らしい」
「そうか!
だから、即死毒ではなく、体を動かなくさせる痺れ毒を先輩に!」
まだ猶予があることにクレアは安堵する。
「キシャァーーー!!」
「!」
だが、安心したのも束の間、蜘蛛はすぐそばに迫っていた。
「先輩!
逃げましょう!」
クレアはカークを背負って逃げようとする。
「……無理、だ。
体がぜんぜん、動かん。
俺を囮に、おまえだけでも、逃げろ……」
だが、肩に背負られたカークは力なく、再びその場に倒れてしまった。
「イヤだ!
そんなこと出来ない!」
倒れるカークの頬に、クレアの涙が落ちる。
「……騎士が、無闇に涙を流しては、いけない」
カークはふっと笑い、クレアの涙を震える手で拭った。
「せ、んぱい……」
クレアはその手をしっかりと握り、覚悟を決めたように立ち上がる。
「先輩。
私が間違ってました。
騎士は主を守るのに命をかけてはならないのですね。
なぜなら、そこで命を散らしたら、その先、主を守ることが出来ないから。
真なる騎士を目指すなら、最後まで生き残り、その生涯をかけて、忠誠を誓った主を守り抜く。
それこそが、騎士たる者の誇りだ!」
そう言って、クレアは剣を抜いた。
「……ふ。
正解だ」
カークは嬉しそうにクレアの騎士としての背中を眺めた。
「ならば、先輩をここで死なせるわけにはいかない。
先輩は真なる騎士たらねばならない。
私がその背を追うために、先輩には生きていてもらわなければならないのです」
そう言って、クレアは顔だけをカークに向け、意地悪そうに笑った。
「……やれやれ、先輩甲斐の、あるヤツだ」
カークは困ったような顔で笑うと、表情を引き締めた。
「……ヤツに、俺たちの相手をするのは、面倒だと思わせれば、いい。
森のことは、気にするな。
スケイルも、どこかにいる。
先生も、何とかしてくれる、はずだ。
思いきり、やればいい」
「はいっ!」
カークの言葉を受け、クレアは剣に魔力を集中させる。
だが、その魔力は集束しきれず、広範囲に散っていく。
「……くっ。
やはり、私はまだ未熟だ」
クレアは剣を諦めて鞘にしまい、両手を蜘蛛に向けた。
即死の蜘蛛はクレアの魔力を警戒して、様子を見ているようだった。
「……くらえ」
そして、魔力を集中させたクレアが火属性の魔法を放つ。
《バーストフレイム》!!
「ギィイイイィィィーーーッ!!」
クレアの両手から放たれた炎は蜘蛛も、周囲にある森も焼き払った。
「やった……!」
「……クレア!
まだだ!」
「……え?」
「ギィイイイィィィーーー!!」
だが、即死の蜘蛛は燃える体をそのままに、クレアに突っ込んできた。
「……あ」
「クレア!」
「ちょぉっと待ったぁぁーーー!!」
そしてそこに、ミサと愉快な仲間たちが現れるのだった。




