48.あ、蛇さん、あんたもなんだね
「ちょぉっと待ったぁぁーーー!!」
「はぁっ!?」
「ミサ!?」
「シャ、シャア!?」
よっしゃ!
間に合った~!
白い蛇さんも首を傾げてるの、ちょっとかわいいね。
あたしと王子はケルちゃんの背にのって、ピンチになっていたクラリスとスケさんの元にたどり着いた。
盲目の蛇とやらはケルちゃんに威嚇してもらっておいて、あたしと王子はクラリスたちの所へ。
「クラリス!
スケさん!
大丈夫!?」
あたしが駆け寄ると、クラリスは安心したように顔をほころばせた。
うん。
かわいい。
あたしを見て、ほっとするクラリス、かわいい。
「私は大丈夫よ!
盲目の蛇が向かってくる直前にミサたちが来てくれたから!
あ!
スケイルも大丈夫!?」
クラリスがハッと思い出したように、スケイルのそばに寄る。
「殿下。
心配ありません。
石化は完全に返しましたから」
そう言って、スケさんはクラリスをよしよしする。
私もよしよししたい!
じゃなくて。
なんか、2人の距離が縮まってないかい?
あたしが2人にニヤニヤしていると、ケルちゃんが盲目の蛇に向かって話し掛けていた。
『この人たちはミサの大切な人たちだから、食べたらダメなんだぞ!』
ケルちゃんの声はあたしの頭に直接響いてくる。
『だって、お腹がすいていたんですもの』
そして、それに返答する盲目の蛇。
「って、あんた喋れたのかい!?」
「ミサ、どうしたの?」
「へ?」
クラリスがきょとんとした顔であたしのことを見てくる。
え?
クラリスかわいい。
あ、しつこい?
すいませんね。
『ね、ねえ。
あの人の言ってることが明確に理解できるんですけど。
もしかして、私たちの言葉も理解してるのかしら?』
どうやら、盲目の蛇は女の子みたいだね。
『そーだよ!
ミサはすごいんだ!』
そして、誇らしげに胸を張って、7本ある尻尾をブンブン振るケルちゃん。
うんうん、獄狼の王?の威厳なんてあったもんじゃないね。
かわいいからいいけど。
『あ、ありえない……』
盲目の蛇はなんだか驚いてるみたいだね。
「そんなに珍しいのかい?」
『あわわわわ!』
あたしが話し掛けたら、なんだか怯えて、木の後ろに隠れちゃったよ。
隠れてるつもりなのかもしれないけど、頭しか隠れてないからね。
あんた、自分が蛇だってこと忘れてないかね。
「ね、ねえ、ミサ。
さっきからなに独り言言ってるの?」
「え?
あ、クラリスたちには、あの子たちの言ってることが分からないんだね」
「え!?
ミサ、魔獣の言葉が分かるの!?」
あれ、なんかまずかったかね。
王子もスケさんも驚いた顔してるけど。
『ミサ~。
普通は僕たちの言葉は判別できないんだよ』
「あ、そうなんだね」
きゅるるるるる~。
『ひゃあああー!』
「ん?」
あたしたちが話してると、隠れてた盲目の蛇の方からお腹の音が聞こえてきた。
「そういや、あんたお腹減ってるって言ってたね」
『そ、そうなのです。
だから獲物を探してて、そこにその人たちがいたからちょうどいいと思ったのです』
蛇はせっかく見つけた獲物を食べられなくて、しゅんとしていた。
なんだか可哀想だね。
「あ、そうだ。
おやつにって持ってきたんだけど、飴ちゃんとクッキー食べるかい?」
『え?
食べ物ですか?』
あたしがポケットから手作りのクッキーと飴を取り出すと、盲目の蛇はしゅるしゅると木の陰から出てきた。
「あ、でも、その大きさじゃ足りないかね」
10メートル以上はありそうな蛇さんには少ないかもしれないね。
『あ、それなら問題ありません』
「へ?」
盲目の蛇はそう言うと、しゅるしゅると小さくなっていき、真っ白な振り袖を身に纏った、小さな可愛らしい女の子に姿を変えた。
髪も真っ白で、腰の上あたりまである髪をハーフアップにして、上げた髪を頭の後ろでリボン結びみたいにしてる。
「ください」
女の子はあたしの前にすっと両手を出した。
目は閉じられてるけど、何がどこにあるかは分かってるみたいだ。
「あ、はいよ。
飴ちゃんは舐めるものだから、クッキーから食べな」
「はい、ありがとうございます」
女の子は丁寧にお辞儀をすると、クッキーを小さな口でついばむように食べ始めた。
「……おいしい」
「そりゃ良かった!」
あたしがその子の頭をぐりぐりと撫でてやると、女の子は口角を上げて、上品に微笑んだ。
ケルちゃんと同い年ぐらいだけど、なんだか大人っぽい子だね。
でも、笑うとかわいい!
「やっぱり笑顔の女の子はかわいいね!」
そう言って、ニカっと笑ってやると、女の子も恥ずかしそうに、
「ありがとう、ございます……」
と静かに微笑んだ。
「ずるいー!
僕もクッキー食べる~!」
女の子に癒されてると、ケルちゃんも男の子の姿になって駆け寄ってきた。
今度はちゃんと黒のタンクトップと、黒の短パンを身につけてた。
ちぇ。
「あー、はいはい。
いっぱいあるから、喧嘩しないで仲良く食べなさい!」
なんだか、子供会の子たちにお菓子を配ってた時のことを思い出すね。
「ま、魔獣の人化?
そんなの、相当高位の魔獣にしか出来ないですよ」
「ミ、ミサに懐くのはケルベロスだけなんだと思ってた……」
遠くで、スケさんとクラリスが驚いてるみたいだね。
やっぱり、魔獣が人の姿になるのは普通じゃないんだね。
あ、王子はどうしてるかって?
「こら!
ケルベロス!
それは俺様のクッキーだぞ!」
「へっへーん!
油断してるのが悪いんだーい!」
「……まったく、男はバカばっかなんだから」
うん。
バカやってるよ。