46.クラリスたちもピンチだったけど、そんなピンチにヒーローはやってくるんだよ!
「クラリス殿下。
足元にお気をつけて」
「あ、うん。
ありがと」
スケイルが足元にある木の根を避けるように、クラリスの手を引く。
「それにしても、《聖光》って便利ね。
まだ一度も魔獣に遭ってないわ」
クラリスが手のひらの上に浮かぶ光球を眺める。
「その光は浄化の光ですから、魔獣は本能的に忌避するのですよ」
スケイルがそれに穏やかに返す。
「そっか。
ところで、いつまでこの魔獣の森にいればいいの?
私の課題は、何かを達成するようなものではないけど」
「ああ、言い忘れてましたね。
目的や期限が定められていない課題を与えられた者は、森の中心にのみ咲く白雪の花を見て、再び入口まで戻るのです」
「つまり、私はその間、《聖光》を絶やさなければいいってことね」
「そういうことです」
スケイルがこくりと頷く。
「よーっし!
それなら、さっさと森の中心まで行きましょ!」
「あ、ちょっ!
走ったら危ないですよ、クラリス殿下!」
クラリスに手を引かれて、スケイルは慌ててクラリスについていった。
そんな2人の元に忍び寄るのは、盲目の蛇。
先ほど、ケルベロスに脅かされて敗走した蛇はイライラしていた。
さらには空腹も手伝って、蛇は獲物を見つけ次第、飛び掛かって一飲みにしようと企んでいた。
そして、盲目の蛇はクラリスたちを見つける。
蛇は、クラリスがなんだか嫌な光を持っている気がしたが、高位かつ盲目である蛇には、さほど脅威には感じなかった。
それよりも、2人とも美味そうな魔力を持っている。
そして、蛇は空腹に耐えかねて、2人に飛び掛かった。
「きゃああああー!」
突然、木々の影から飛び出してきた巨大な蛇に、クラリスが悲鳴を上げる。
「シャーーー!!!」
盲目の蛇が大きく口を開けて、クラリスを飲みにかかった。
しかし、
「……ふん。
《ウォーターシールド》」
「ギャウッ!」
スケイルが水の盾をクラリスの前に出現させ、蛇の突撃を防いだ。
蛇は突然現れた水の壁に怯んで、2人と距離をとる。
「……くそ。
盲目の蛇か」
「ス、スケイル……」
クラリスがスケイルの後ろに隠れる。
「殿下。
やつは盲目の蛇。
やつの額にある第3の目に見つめられると石化します。
私の後ろから出ないでくださいね」
「えっ!?
でも、スケイルはどうするの?」
スケイルの説明を聞いて、クラリスが慌てて尋ねる。
「私には対抗策があるので、大丈夫ですよ」
そう言って、スケイルはクラリスの頭に手を置き、ニコッと笑ってみせた。
「……気を付けてね」
スケイルは自分を見上げるように見つめるクラリスに愛おしさを感じたが、抱きしめたくなる衝動を抑え、盲目の蛇に向き直った。
「シャーーー!!」
すると、盲目の蛇の眉間に亀裂が入る。
「……いきなりですか」
そして、その亀裂が徐々に開いていき、中から第3の目が現れる。
「《ウォーターミラー》!」
スケイルが先ほどの水の盾に新たな魔法を加えると、水の表面が鏡のように磨かれた。
「ギャッ!」
そして、水鏡に反射して映った鏡像を第3の目で見た蛇の体の一部と、その後ろにあった森が一瞬にして石化した。
「や、やった、の?」
「いや、まだです」
スケイルの陰から覗こうとしたクラリスを、スケイルが制する。
「それに、いま襲ってこられたらマズいです」
「なんで?
その石化は跳ね返せるんでしょ?」
「はい。
ですが、このままでは反撃が出来ない。
《ウォーターミラー》を展開させたまま、他の攻撃魔法を使うのは負担が大きすぎます。
やつが第3の目を開いたまま、物量で襲いかかってくれば、それを止めるのは難しい」
「な、なら、私が光魔法で援護すれば!」
「それはダメです!」
《聖光》を消して、攻撃魔法を準備しようとしていたクラリスは、スケイルにそれを止められた。
「課題を放棄するのは最終手段です。
まずはこのままやつを牽制しながら、逃げられないか様子を見ましょう」
「……で、でも」
クラリスが不安に思って盲目の蛇の方を見ると、蛇が体をうねらせているのが見えた。
「ス、スケイル!」
「くそっ!
突進してくるつもりか!」
「シャーーー!!!」
蛇は第3の目を開いたまま、スケイルたちに向かって、その巨体を向かわせた。
「スケイル!
もう攻撃魔法使うよ!」
「……」
「スケイル!」
「……くそ」
「ちょぉっと待ったぁぁーーー!!」
「は?」
「ミサ!?」
「シャ、シャア?」
突然、聞き覚えのある声が聞こえてきて、スケイルとクラリス、そして盲目の蛇がそちらを見る。
ちなみに、蛇の第3の目は閉じられていた。
自分の縄張りを無闇に石化させたくはないようだ。
そして、そこには、獣化したケルベロスの背に乗るミサとシリウスの姿があった。




