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45/252

45.カクさんが大変だよ!

「クレア。

いいか、俺から離れるなよ」


「はい。

カーク先輩」


 クレアとカークは剣を手に、魔獣の森を慎重に進んでいた。


「『カーク(俺)に怪我をさせてはいけない』か。

ミカエル先生もなかなか難しい課題を出してきたな」


 カークがクレアに出された課題を復唱する。


「私は騎士志望ですから。

対象を守るという意味からすれば、妥当な課題なのかなと。

カーク先輩のことは、この命に代えてもお守りしてみせます!」


 クレアの言葉を受けて、カークがクレアの顔をちらりと見る。


「……もし、本当にそう思っているのなら、この課題をクリアするのは難しいだろうな」


「えっ?」


 首をかしげるクレアを置いて、カークは先へと歩いていった。


「先輩!

待ってください!」


 クレアは置いていかれないよう、焦ってそのあとを追った。










「あの、カーク先輩?」


 黙って歩き続けるカークに、何か気に障るようなことを言ったのかと、クレアは顔色を窺うように話し掛けるが、カークは返事を返さずに歩き続けた。


「あの!

カークせんぱ……んむ!」


「静かに!

様子がおかしい」


 クレアが思いきって尋ねようとしたところで、カークに口をふさがれる。

 クレアは自分の様子がおかしいと言われたのかと思ったが、カークが前方の木々の間を注視していることから、森に異変が起きているのだと気が付く。


「これは……、静かすぎる?」


 クレアもその異変の一端に気が付く。

 森は意外と音に溢れている。

 虫や鳥の声。

 葉が擦れる音。

 森を歩いていれば、普通はそんな喧騒の中を進むことになるのだが、今は森がしんと静まり返り、木々でさえ、音をたてるのを控えているように感じた。

 まるで、音をたてているのが自分たちの足音だけかのように。


「……何か来る!」


 カークが注視していた前方に剣を構える。

 クレアも同じように構えると、前方からガサガサという音が聞こえ始め、それが猛スピードでこちらに向かってきているのが分かった。


「来るぞっ!」


 そうして現れたのは、


「く、蜘蛛っ!?」


 巨大な蜘蛛だった。

 大きさは5メートルはあろうか。

 真っ黒な体はまるまると太く、8本ある足は、その1本がクレアの胴体並みに大きかった。

 蜘蛛は2人の前に姿を現すと、シャー!と口を大きく開けて、威嚇してみせた。


「……どうしますか?

カーク先輩……先輩?」


 クレアがカークに指示を仰ごうとすると、カークは信じられないといった顔で巨大蜘蛛を見つめていた。


「そ、即死の蜘蛛……」


「……え?」


 クレアは改めて、目の前の巨大蜘蛛を見る。

 たしかに、教科書で見た危険魔獣の1体である即死の蜘蛛に酷似していた。


「で、でも、この時期にはいないはずでは!」


「……分からない。

もしかしたら、休眠前の捕食が足らず、空腹で目が覚めたのかもしれない。

そして、今は手当たり次第に食糧を集めている……」


「そ、その食糧って……」


「まあ、俺たちだろうな」


 クレアはぞっとした。

 即死の蜘蛛は文字通り、致死性の毒を持っており、それは牙や爪がかすっただけで死に至るほどの強力な毒だった。


「ど、どうしましょう」


「……逃げるしかない」


 カークは一歩、後ろに下がった。

 クレアもそれに合わせて後退る。

 しかし、巨大蜘蛛もまた、じりじりと距離を縮めてきていた。

 2人が武器を持っているからか、蜘蛛も慎重になっているようだった。


「……おそらく、こいつには知性がある。

俺たちが、無傷で捕らえるのが難しい相手だと分かれば引いてくれるかもしれない。

クレア、おまえは火属性だったな?」


「……はい」


 カークたちは蜘蛛と対峙しながら、少しずつ後ろに下がっていた。


「剣に火を纏わせられるか?

もしくは、火球の類いでも構わない」


「え、と……」


 カークの問いに、クレアは顔を暗くする。


「すみません。

私、拡散放射系の火魔法が得意で、集束系の火はうまく扱えなくて、おそらく、魔法を使おうとすると、森ごと焼いてしまいます」


「……そうか」


 申し訳なさそうに俯くクレアの顔をちらりとだけ見て、カークはすぐに蜘蛛に目線を戻す。


「これからの課題が見つかったな」


「え?」


 カークの呟きに、クレアが顔を上げる。


「帰ったら特訓だ。

そのためにも、生きて帰るぞ!」


「あ、はい!」


 クレアはカークの言葉にぱっと顔を明るくして、元気よく返事を返した。


「……もはや演習などと言っていられまい。

俺が風の刃でヤツを怯ませる。

その隙に全力で逃げるんだ。

いいな」


「分かりました」


 カークが小声でクレアに指示を出すと、クレアはこくりと頷いた。

 カークは自分の属性である風魔法を発動するために、魔力を集束させた。


 が、


「……ぐはっ!」


「カーク先輩……ぐっ!」


 巨大蜘蛛が猛スピードで突進してきて、カークを吹き飛ばした。

 次いで、クレアを丸太のような足で薙いできて、クレアは吹き飛ばされた。


「く、そっ!

《ウィンド・エッジ》!」


『ギャウッ!』


 カークは何とか魔法の、風の刃を発生させ、蜘蛛を怯ませた。


「先輩っ!」


 クレアは体勢を立て直し、カークに駆け寄った。


「先輩、大丈夫ですか!?」


「ぐあっ!」


「せ、先輩、傷がっ!」


 クレアがカークに触れようとすると、カークは腕を抑えて苦しみ出した。


「ぶつかった時に、牙がかすったか……」


「そ、そんな……」


 カークの裂けた服の間から、ツーっと血が流れていた。




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