44.スケさん!そこ代わってよ!
「クラリス殿下、いいですか。
私の手を離してはいけませんよ」
「う、うん」
魔獣の森を進むクラリスとスケイルは手を繋ぎ、慎重に前へと進んでいた。
「そろそろ魔獣が出てくるエリアですね。
殿下、《聖光》を」
「あ、はい。
《聖光》」
スケイルに言われて、クラリスは右手から光の玉を出現させる。
「殿下の課題は、
『魔獣の森にいる間、《聖光》を絶やさないこと』
どんなことがあっても、その魔法を解除しないようにしてくださいね」
「わかったわ」
クラリスの右手に自然と力が入る。
スケイルと繋いだ左手にも無意識に力が入り、それに気付いたスケイルがふっと笑い、さりげなく自分もクラリスの手を握り返した。
「スケイル。
でも、《聖光》を使い続けるってことは、他の魔法は使えないってことよね?
もしも魔獣に遭っちゃったらどうするの?」
森の中を進みながら、クラリスがスケイルの方を向いて首を傾げる。
「《聖光》は魔獣避けの効果がありますから、基本的に発動させていれば、魔獣が近寄ってこないので問題ありません」
スケイルはクラリスを安心させるために、ゆっくりと、言い聞かせるように答える。
「なら、そもそも他の魔法を使う必要がないっことね!」
スケイルの答えに、クラリスは輝くような笑顔で喜んだ。
「そうですね。
基本的にはそれで問題ないかと」
しかし、スケイルの顔色は曇っていた。
「……どうしたの?
スケイル。
例外があるってこと?」
スケイルはその質問に黙ってコクリと頷く。
「あまりに高位の魔獣には、《聖光》は効きません。
そして、この森にはそんな魔獣が3体います」
スケイルの説明を聞いて、クラリスはあっと、何かを思い出したような顔をした。
「そういえば、聞いたことがある。
たしか、盲目の蛇と、即死の蜘蛛と、ええと、あとの1体はなんだったかしら?」
スケイルがそれに、ごくりと唾を飲み込みながら答える。
「獄狼の王です」
「え?
あ、それって、ケルベロス?」
「よくご存知ですね。
奴らは三竦みの状態で森の秩序を保ってます。
狼は蛇に強く、蛇は蜘蛛に強い。
そして、蜘蛛は狼に強いのです。
その均衡によって、森のパワーバランスを保っています。
蜘蛛は今の時期は眠っていていませんし、蛇は魔法を使えば何とかなります。
しかし、狼だけは、出会ってしまったら全力で逃げる他ありません」
スケイルが真剣に説明するなか、クラリスは拍子抜けしていた。
クラリスだけは、ミサがケルベロスを飼い慣らしたことを知っているから。
なので、実質、クラリスにとっての脅威は蛇だけだと言える。
「そっかそっか。
じゃあ、蛇と狼には気を付けなきゃね~」
スケイルの説明を聞いて、クラリスは陽気に歩きだした。
「あ、でも、もしその2体のどちらかに出会ってしまったらどうするの?」
クラリスが再びスケイルに目を向けると、スケイルは握っていた手をぎゅっと強く握りしめた。
「その時は、私が命にかえても殿下をお守りします。
なので、殿下は安心して演習に臨んでください」
「っ!」
スケイルの真剣な眼差しに、クラリスは顔を紅潮させ、焦って前を向いた。
そして、ミサのために、という名目で、ケルベロスの脅威がないことは言わないでおこうと思ったのだった。
クラリスとスケイルが青春を送っている時、クレアとカークはピンチに陥っていた。
「な、なぜ、この時期に即死の蜘蛛がいるんだ!」
「くそっ!
クレア!
立てっ!逃げるぞ!」
「……さて、どうなりますかね」
そして、生徒たちの様子を、手に持つ水晶で眺めるミカエルがポツリと呟くのだった。




