41.ま、こうなる気はしてたよ
「いいか!
ミサ・フォン・クールベルト!
戦闘というのはな!
ズワーンとやって、ドバーンと走って、ズシャァーで、スグドワーンだ!」
「いや、全然わかんないよ!」
ある日の放課後、生徒会の仕事が一段落したからってことで、王子が稽古をつけてくれることになったんだけど……、
「だから!
ズバードワーシャキーンだと何度も言っているだろう!
なぜ分からない!」
「さっきと違うじゃないか!
絶対適当に言ってるんだろ!」
説明が下手くそすぎて全然伝わらないよ!
なんなんだい!
この感覚小僧は!
そりゃあさ、初めはちょっと期待したよ。
こう見えても、この王子は王国一の剣と魔法の使い手らしいし、いろいろ参考になるかなぁって思いはあったよ。
でも、その結果がこれよ。
「ええい!
なぜ分からん!
そんなんでは、優勝できないぞ!」
あ、ここにもバカがいた。
「演習に優勝とかはないでしょ」
「そんなことはない!
早く!華麗に!優秀に!
誰よりも完璧に課題をこなせば、それは間違いなく優勝だ!」
……あんた、シルバ先輩と気が合いそうだね。
「まあ、それはそれとして、課題は当日まで分からないんだろう?
それなのに、こんなに戦闘訓練をする必要はあるのかい?
もう帰りたいんだけど」
実は、もうかれこれ3時間は訓練してるんだよ。
もうあたしは気力も体力も魔力もへとへとさね。
というか、もう真っ暗で全然見えないんだけど。
「いや!まだだ!
貴様の属性は闇だろう!」
あ、そっか。
ミカエル先生が演習で必要だからって、コレにはあたしの属性を教えたんだっけね。
「それに、貴様はいまだに自分の属性魔法をろくに使えんらしいじゃないか!」
「うっ!
お、仰る通り……」
「ならば、闇の魔力が濃くなる時間帯に修練することが、闇属性修得の近道なのではないのか!」
がーん!
な、なんてこったい。
まさか、この王子に感心させられる時が来るなんて!
「く、悔しいけど、その通りだよ」
「うむ!
そうだろうそうだろう!」
その態度はかなりムカつくけどね。
「よし!
では、特訓を再開だ!
ミサ・フォン・クールベルト!」
「……仕方ないね。
わかったよ!」
「うむ!
……ところで、ひとつ聞きたいことがあるのだがな!」
「な、なんだい?」
「俺様たちは、いまどこにいるんだ?」
「……あんたがついてこいって行ったんだろ?」
「……うむ!
迷ったな!」
「ちょっと~~!!!」
このあと、あたしたちは呆れ顔のミカエル先生に回収されて、無事に家に帰ることができたんだ。
やれやれ。
その夜。
ミサの寝室にて。
ぐっすりと眠るミサの寝顔を見ているのは人化したケルベロス。
短髪の黒髪に赤い瞳を持つ、少年のような容姿。
黒い耳をピコピコと揺らし、ふさふさの黒いしっぽをふりふりさせている。
「ミサ、最近、帰るの遅い。
僕、寂しい」
ケルベロスは拙い言葉を紡ぎながら、ミサの頬を撫でる。
「それに、ミサ、最近疲れてる。
学校で、ミサをイジめてるヤツ、いるのか?」
「う~ん。
うるさいよ、バカ王子……」
ミサの寝言を聞いて、ケルベロスは目の色を変えた。
「王子……。
僕の耳を切ったヤツ。
ミサをイジめるヤツ。
許さない……。
僕も学校行く。
ミサをイジめるヤツ、やっつける!」
ケルベロスの鋭い牙と赤い瞳が、月夜に照らされた部屋でギラリと輝いた。
「……むにゃむにゃ、おかわり~」