4.完全にやっちまったみたいだよ
「ひ、ひひゃい!」
バカ王子がようやく殴られたことに気付いた様子で、自分の頬を押さえている。
そう、あたしは思いっきり王子のほっぺたをぶん殴ったんだ。グーで。
いやー、やっちまったよ。
でもねえ。
あんな酷いことを見てることなんてあたしには出来ないよっ!
「貴様っ!
王子になんてことをっ!」
「無礼なっ!」
おやおや、これまたイケメンなお付きの者のご登場だよ。
スケさんカクさんみたいだねえ。
2人はバカ王子を庇うように前に出てきた。
2人ともものすごい怖い顔してるねえ。
せっかくのイケメンが台無しだよ。
1人はがっしりした短髪長身イケメンで、無愛想な感じだね。あんたはカクさんにしよう。
もう1人は細めのメガネをかけた、細っこいイケメンだ。あんたはスケさんね。
どっちもなかなかタイプだよ。
あ、いや、あたしは旦那一筋だよ。
これは、ほら、あれだよ。
韓流ドラマの俳優とかに感じる、あれだよ。
分かるだろ?
「貴様っ!
何とか言ったらどうだ!」
カクさんが黙っているあたしを怒鳴り付けてきた。
あたしったら、すっかり見とれて、何も言ってなかったね。
これじゃあ、ただ突然王子を殴りに来た不審者じゃないか。
「ナントカ」
「はぁっ?」
「ナントカって言ってやったんだよ、金魚のふんめ!」
「お、おのれ~~!!」
いけない。
思わずケンカ売っちまったよ。
まあ、売り言葉に買い言葉ってやつさね。
もう引っ込みつかないよねえ。
「まったく!
あんたたちいったいいくつだい!
高校生にもなって、僕の親はスゴいんだぞー!僕はスゴいんだぞー!って、お子ちゃまじゃないかい!」
「なっ!」
バカ王子がショックを受けた顔をしている。
新入生たちがクスクスと笑っているのが聞こえる。
「いいかい!
自分に力があるんなら、その力で人を助けるんだよ!
手を貸してやるんだよ!
王子様だってんなら、それぐらいやってみせな!」
「な、なななな!
なに、を!」
「言い訳しない!」
「ひっ!」
「まったく!
王様はとっても良い人なのに、どうしてこんなダメダメ王子に育っちゃったかね」
「ち、父上と比べるなっ!」
「その父上の威光を笠に着てるのはどこのどいつだい!」
「うぐっ」
「お父様と比べられたくないなら、自分が優秀になればいいだろう!
むしろ、お父様よりも自分の方が優秀だと言われるぐらい努力すればいい!
なんの努力もしないで、権力だけに頼って卑屈になるようじゃ、文句を言う資格なんてないんだよっ!」
「ぐううぅぅっ」
決まったね!
「貴様ぁ、言わせておけばぁ」
「……許さん」
あ、いや、やり過ぎたかね。
カクさんスケさんが今にも襲い掛かってきそうだよ。
「やめろっ!」
おや?
「王子?」
「大丈夫ですか?」
「…………貴様、名は?」
「…………ミサ。
ミサ・フォン・クールベルト」
「クールベルト家の女か。
ミサ、ミサだな。
貴様の名前、覚えたぞ。
我が名はシリウス・アルベルト・ディオスだ!」
知ってるよ。
「俺様に歯向かったらどうなるか、思い知らせてやるぞ!
覚えておけ!」
「あー、はいはい。
怖い怖い。
勘弁してください、王子さま~」
「ぐぬぬぬぬぬっ」
王子様?
お顔がタコみたいに真っ赤ですわよ。
「いくぞっ!
おまえらっ!」
「あ、はい!」
「ま、待ってください、王子!」
あたふたしてるとこを見ると、スケさんカクさんも子供に見えてくるねえ。
「…………ウ」
「ん?」
「ウオオオオオオーーーーー!!」
「な、なんだい!」
「すげー!」
「あの王子たちを撃退したぞ!」
「誰だっ!
あのすげー美少女はっ!」
「好きだー!」
「救世主だー!」
「ハ、ハハ」
お母様。
申し訳ありません。
あたしはやっぱりやっちまったみたいだよ。
キハ様作