39.かげろうお銀だね
「あ、クラリスのペアはスケさんなんだね」
「う、うん」
校外演習に向けた訓練中、あたしたちは学院の敷地で各々、自主連に励んでいた。
「んで、クレアのペアはカクさんか」
「そうだ!」
クレアさん、嬉しそうだね。
クラリスも照れてて、安定のかわゆさだね。
「ジョンは~?」
今日は実践武術と実践魔法の組が合同で練習を行っているため、あたしはいつものメンバーで集まって練習していた。
「……」
「ジョン?」
話し掛けても、ジョンは聞こえていない様子で、一心不乱に剣を振っていた。
「どったの?
あれ」
あたしがクラリスに尋ねると、クラリスは困ったような顔をした。
……うん、かわいい。
「実はね、ジョンのペアの相手は、あのシルバ・ヒートヘイズ侯爵令嬢らしいわ」
「な、なんだって~~~!?」
「ね、大変よね」
「……ごめん、誰それ」
知ったかぶって驚いてみたけど、全然知らないわ。
「……シルバ様は、その、大変苛烈な方らしい」
クレアが言いにくそうにしながら説明してくれた。
「苛烈?
人に厳しいのかい?」
「いや、正確には、自分にも他人にも、かな」
「だから、きっと演習でも、魔の森の奥地に行こうとすると思うわ」
「あ~、それで、あんなに訓練に精を出してるんだね」
ジョンはもう500を越える数を数えながら素振りをしてる。
まあ、そんな厳しい先輩についていこうと頑張るところが、ジョンの良いところさね。
ま、悪いところでもあるけど。
そして、そこに、噂のシルバ先輩が現れる。
「やあ!
君がジョン君ね!」
「あ!
シルバ先輩!
お疲れ様です!」
ジョンが素振りをやめて、びしっと立ち直して、深くお辞儀をした。
「あ、シルバ先輩って、女の人なんだね」
名前からして、男の人だと思ってたよ。
クレアみたいに凛々しい感じだけど、なんだか、すごく快活な雰囲気だね。
「はじめましてね!
このワタクシのペアになれたことを誇りに思いなさい!
それとともに、ワタクシに並び立てるように、演習当日まで、せいぜい訓練するのですね!」
「はい!
頑張ります!」
なんだか嫌味な言い方だけど、まっすぐなジョンには通じないんだね。
あれ?
なんか、シルバ先輩こっち来たよ?
「あなたがミサさんね?」
「……いえ、違います」
「嘘おっしゃい!」
なんだろうね。
なんだか、関わるとすごくめんどくさい予感がするよ。
「あのシリウス王子とペアで、今演習の優勝候補と言われているあなたたちのことだから、あなたもたいそう素晴らしいのでしょうね!
ですが、勝つのはワタクシたちですわ!」
シルバ先輩は銀色の長い髪をファッサァ~ってやりながら、手に持つ扇子?みたいなのをこっちにビシッ!って向けてきた。
「……クラリス。
演習って、優勝とかあるの?」
「ううん、それぞれに課せられた課題をクリアするだけで、特に順位を競うものじゃないけど」
「そんなことはどうでもいいのです!」
いや、それ、どうやって勝負するんだい?
「とにかく、優勝するのはワタクシたちでしてよ!
ジョン君!
演習までにしっかり訓練するんですわよ!」
「はいっ!」
そして、シルバ先輩は高笑いをしながら、優雅に去っていったよ。
「……なんて言うか、残念な人なんだね。
黙ってれば、すごい美人なのに」
「「ミサには言われたくないだろうね」」
ハモられた!
まあ、ともあれ、なんだか大変なことになりそうだね。
ただでさえ、あの王子とペアで大変だってのに。
あたしはジョンが頑張りすぎて無茶しちゃわないか心配だね。
そう思ってジョンを見ると、さっきよりも素振りに精を出して、何度も剣を振り下ろしていた。




