38.悪魔の策略
王子からの絡みがよりいっそうめんどくさくなって数日が経った頃。
「校外演習?
なんだい、それ?」
「ミサったら、またミカエル先生の話を聞いてなかったの~?」
食堂でいつものメンバーで話していると、クラリスがふいに話題を投げかけてきた。
うん、今日もかわいい!
「それ、いつ言ってたんだい?」
「いや、さっきも言ってただろう……」
クレアがサラダにフォークを刺しながら、呆れた顔を見せた。
うん、今日も麗しい!
「あ~、そん時はお腹すいてたからね。
お腹の音が鳴らないように全神経を集中させてたから、聞いてなかったのかも」
「……おまえってホント、俺よりも食い意地張ってるよな」
ジョンがお皿いっぱいのステーキを頬張りながら、バカにしたような視線を送る。
うん、あんたも、今日もカッコかわいいよ。
またあとで、頭わふわふしてあげるから、覚悟しときな!
「演習ねぇ」
校外での授業ってのは初めてだから、ちょっと楽しみだね。
「このあとの選択科目で詳しい説明するみたいだよ」
「なんでも、ツーマンセルでやるらしいな」
「あー、言ってたな~」
「ツーマンセル?
なにそれ?」
あたしが首をかしげると、クラリスが説明してくれた。
「二人一組ってこと。
誰かとペアを組んで、校外演習を進めていくみたい。
ペアはランダムで、それもこのあと発表されるんだって」
「ふ~ん」
ペアねえ。
まあ、誰でも構わないけど、出来れば知ってる人ならありがたいね。
こう見えて人見知りなんだよ、あたしは。
え?
誰か、んなわけあるかい!って言ったかい?
なに言ってんだい、こんな美少女つかまえて!
こんな、可憐で、か弱い、繊細な美少女を!
あ、おばちゃん、ステーキおかわり~!
「ミサ君!
君の相手はシリウス王子です!」
……うん、ミカエル先生、楽しそうだね。
そんなニッコニコな先生、初めて見たよ。
うん、言ったよ?
知ってる人ならありがたいねって。
たしかに言ったんだけどさ。
え?
そんなのアリ?
普通、同学年だと思うじゃん。
なんで、先輩とペアを組むことになるわけ?
「ミサ君は腹の虫を我慢してて聞いてなかったかもしれないので、再び説明してあげましょう」
……バレてーら。
「今回の校外演習は、魔獣が犇めく魔の森で行われます。
当然、危険も伴うため、1年生は後学のためにも、3年の上級生と行動を共にしてもらいます。
彼らの言うことをよく聞いて、よく見て、よく学ぶように。
いいですね」
皆がは~いと返事を返す。
あたしはそろ~っと手を挙げて、少ない希望にすがってみた。
「ちなみに、ペアの相手の変更は~?」
「100%確実に、絶対に不可能な決定事項です!」
わーい。
ミカエル先生に期待したあたしがバカでした~。
「……ミサ君?」
ふんだ!
悪口を察知したって知らないよ!
「……まあ、いいでしょう。
せいぜい、王子とのペアを楽しんでください」
ちょっと!
口元隠してるけど、笑ってるのバレてるからね!
数日前。
「シリウス王子。
今度の校外演習、ミサ君とペアを組んでいただきます」
生徒会室で事務仕事をしているシリウスに、ミカエルが話す。
「……ほう。
わかった」
シリウスは冷静に書類にサインをしながら、短く返事を返した。
「……現地ではお任せしますが、彼女の闇魔法の安定した顕現が目標です。
よろしくお願いしますね」
「ああ」
「……話はそれだけです。
それでは」
ミカエルはそれだけ言うと、さっと身を翻して、生徒会室を出ていった。
ミカエルが退室し、1人だけとなった部屋で、シリウスの手がだんだんと震えていく。
「……ふ」
そして、シリウスはそっと、手に持つペンを机に置いた。
「……ふははははは!
やった!
やったぞ!
はははははは!」
「ああ、そうそう。
シリウス王子」
バン!
ドンガラガッシャン!
ガターン!
「……」
「……」
「……」
「……なんだ?」
「い、いえ、今回はあくまでも1年生が主役なので、くれぐれも、良い所を見せようとして、魔獣を全部自分で倒したりしないように気を付けてくださいね」
ミカエルは笑いをこらえすぎて歪んだ顔をなんとか整えながら、それだけ伝えて、再び退室した。
「……ああ、当然だ」
その後、ミカエルはしばらくドアにもたれかかって、生徒会室から発せられる奇声に耳を傾けていたのだった。




