35.あれ?なんでそうなっちゃうかね?
「やれやれ。
あの子には困ったものです」
王の執務室で、王とミカエルが2人で話している。
ミカエルは頭を抱え、深い深いため息を吐いていた。
「はっはっはっ!
まあ、そう言うな。
あれぐらいの胆力がなければ、王族の伴侶は務まらんよ」
対して、王は気にした様子もなく、むしろ、ミサのことを気に入った様子だった。
「しかも、貴重な闇属性持ち。
これは、ますます逃がすわけにはいかなくなったな」
そう言って、王は老獪な笑みを見せた。
「……王よ。
言っておきますが……」
「分かっておるよ。
あの娘には余計な手出しはせぬ。
お主を敵には回したくないからな」
「……ならば、良いのですが」
言いたいことを先に言われ、ミカエルは言葉を飲むしかなかった。
「しかし、シリウスには困ったものだ。
おとなしくしておれば、話はまとまっていただろうに」
王は、ミサの情に訴えかけて、王子との縁談をまとめようとしていた。
力ばかりが強く、精神的に未熟で扱いに困っていたシリウスを上手く諌め、なおかつ、貴重な闇属性を持つミサを国に留める。
王はその2つを同時にまとめるために、ミサを王子の婚約者にしようとしているのである。
「……」
もう少し息子の話も聞いてやれば。
ミカエルはその言葉を言えずにいた。
「やっちまったぁ~!!」
お城を出て、適当に走り回って、川に渡された石造りの橋の上で、大声で叫ぶあたし。
あかん、完全にやっちまったよ。
王様にケンカ売った上に、王の命令を断固拒否して出てきちゃったよ。
え?
これ、あたしどうなるの?
不敬罪で打ち首とか?
いやいや、落ち着け、あたし。
まだ、まだチャンスはある。
ていうか、そもそも王様があんなむちゃくちゃなお願いをするのがいけないんだよ。
なんだい、あの王子の婚約者って。
ありえない。
いや、ありえない。
そもそも、美少女に転生してても、あたしの心はあたしなわけで。
それなら、あたしの生涯の伴侶はやっぱり旦那なんだよ。
異世界転生とか、あんまり深く考えなかったけど、一度、操を捧げたからには、あたしはたとえ2度目の人生だろうと、あたしがあたしである限り、旦那一筋でいくんだよ!
と、元気良くガッツポーズをしてみる。
「……やっぱり、打ち首かね」
だけど、そう言葉に出すと、はぁ~とため息が漏れて、あたしは再び手すりにもたれかかった。
で、お父様とお母様になんて説明しようか悩んでいると、そこに、ヤツが現れた。
「おい!
ミサ・フォン・クールベルト!」
「げっ!
ご本人様ご登場!」
事の元凶。
シリウス・なんとか、なんとか!
「ええい!」
「なっ!まてっ!」
あたしはメンドいから逃げようとしたけど、腕をつかまれて逃げることが出来なかった。
「ちょっ!
離しとくれ!」
「まて!
話を聞け!」
「もう!
痛いよ!」
「あっ!
すまん!」
腕を握る手に力が入って、あたしがそれを痛がると、王子は意外にも、パッとその手を離してくれた。
「……」
「……」
でも、そのあとは、なんだかもじもじしちゃって、なかなか話そうとしない。
なに急にしおらしくなっちゃって。
気持ち悪いね。
「なに急にしおらしくなっちゃって。
気持ち悪いよ」
「き、貴様!
思ったことをそのまま言っただろう!」
「悪いかね?
そういう性分なんでね」
あたしがそう言うと、王子は急にそっぽを向き始めた。
「い、いや、今まで、俺様に本気の本音を言ってきた者は、妹のクラリス以外いなかった。
だから、どいつも信用ならなかった。
でも、貴様は言いたいことを言って、やりたいことをやってくる。
その態度は、悪くない」
ん?
どした?
なんか、ぼそぼそ言っててよく分かんないんだけど。
「え?
なに?
キモいよ?」
「キ、キモいとはなんだ!」
「気持ち悪いよ?」
「わざわざ言い直すな!
き、気持ち悪くなどない!
俺様は、決して気持ち悪くなどないぞ!
ひ、人に、そんな悪口言ったら、ダメなんだぞ!」
……子供かね。
てか、おまえが言うなだよ。
「あー、そうだねー。
良い子の教育上、よろしくないもんねー。
こりゃ、ごめんねー」
「き、き、貴様!
俺様をバカにしているな!」
「え?
ああ、まあね」
「頷くなぁ~!!」
王子は、あたしを指差しながら、体をわなわなと震わせてる。
「お、おのれ~!
俺様は、貴様とのこ、こ、こ、婚約など、断じて認めないからなぁ~!」
……やれやれ、仕方ないね。
「……その言葉を、王様に直接言えばいいじゃないかい」
「なっ!
い、いや、それは、だな……」
ごにょごにょ言うんじゃないよ!
女々しいね!
「な~にを遠慮してんだい!
親子だろ!
父親だろ!
たまには本音でぶつかってみな!
王様だとか王子だとか関係ないんだよ!
親子なんだから、きちんと腹割って話すんだよ!」
あたしは、それが出来なかったことを後悔してるんだから。
「う……」
もう一押しかね。
「ま!
もし、あんたが王様に自分の気持ちを包み隠さずに言うことが出来たら、そんときは、あんたとの婚約?とやらも、考えてやらないこともないかもね」
「なっ!」
おや?
真っ赤な顔して、案外、かわいいとこあるじゃないか。
「そ、その言葉、忘れるなよ!
目に物見せてやる!」
そんな捨てゼリフを残して、王子はものすごい勢いで走って消えていった。
ん?
いや、てっきり、そんなバカな提案にのるわけがない!とか言われるかと思ったんだけど。
ほら、売り言葉に買い言葉ってやつでさ。
え~と、あれ?
これ、あたしまたやっちまったかね?