33.王様はわりと良い人なのかね?
「面を上げよ」
あ、はいよ。
謁見の間に入り、玉座の前まで足を震わせながら歩いて、ミカエル先生に続いて、跪いて頭を下げてたら、しばらくしてから、王様のダンディな声が聞こえた。
「私がリグザルト・アルベルト・ディオスだ。
そなたがミサ・フォン・クールベルト嬢だな」
リ……なんだって?
あんまり長い片仮名は覚えられないんだよ。
あっちの時も、新しいアイドルグループの名前が全然覚えられなくて、姪っ子に怒られてたからね。
ミカエル先生をチラッと見ると、小さく頷いてくれた。
返事をしろってことらしい。
あたしは片膝をついたままの体勢で口上を述べる。
この国は男女での差をなるべく出さないようにしてるみたいで、志願すれば女性でも騎士や軍に、特に障害なく従事できるし、大臣にも女性がいる。
王様に跪く時も、男女問わず騎士みたいに片膝をついて頭を垂れるから、あたしのドレスもスカートの丈が長く広く取られてて、足を曲げやすくなってる。
「お初にお目にかかります。
わたくしがミサ・フォン・クールベルトでございます。
陛下のご尊顔を拝謁賜り、恐悦至極にござる!」
……うん、噛んだね。
ミカエル先生?
下向いてるのをいいことに笑ってるでしょ。
肩震えてるのバレてるよ。
ん?王様?
「……ふっ」
ふ?
「ふははははっ!
ござ!
ござるって!
なんだねそれは!」
いや、王様爆笑しとる~!
「ふははははっ!
ふはっ!
はっ!
はははははっ!」
「いやっ!
笑いすぎだよ!」
あ!しまった!
おもいっきり指差しちゃったよ。
「はーっはーっ。
いや、すまんな。
ずいぶん緊張しているから、何をやらかしてくれるかと楽しみにしていたものでな」
おや?
お許しいただけた?
ていうか、嫌な期待だね。
「君の噂は聞いているよ。
入学式の日に、うちのバカ息子をぶん殴ったそうだね」
え?知ってんのかい!?
ヤバいよ。
これ、不敬罪とやらで打ち首なんじゃないのかい?
「い、いやー、何のことを仰っているのやら~。
皆目、見当もつきませんな~」
とりあえず、明後日の方向を向いて鳴らない口笛を吹く作戦でいってみるよ。
「いや、誤魔化さんで良い。
ミカエルから詳細は聞いておるからな」
あたしが先生の方を見ると、先生はさっきのあたしと同じように、そっぽ向いて鳴らない口笛を吹いていた。
裏切り者めっ!
真似すんなっ!
「私はね、正直、嬉しかったんだ」
え?
「あのバカ息子は、第2王子という立場上、私があまり関わってやれなかったからなのか、極端な育ち方をしてしまってね」
この国では、王は皇太子である第1王子以外には、寵愛を授けないようにしているらしい。
なんでも、昔にそれでトラブルがあったらしく、余計な誤解を生むようなことはしないようにしたんだって。
「あいつのことは、母である、今は亡き王妃がよく面倒を見ていたんだが、妻が亡くなってからは一般的な教育はしていたが、肝心の心の部分を育ててやれなかった。
その結果、ああなってしまって」
そうだね。
うん。
なってしまったね。
残念な感じに。
「とはいえ、あれはあいつなりに国を良くしようと思ってやっていること。
無下にはすまいと対処が遅れてしまった。
いつかは、誰かが叱ってやらねばとは思っていたのだ」
「王よ。
本来ならば、師である私の役目。
まともに務めること能わず、申し訳ありません」
「良いのだ、ミカエル。
ただでさえ多忙なお主に、そこまで手を回すのは難しかろう」
そうだね、ミカエル先生いっつも忙しそうだもんね。
「そこを、ミサ。
そなたがぶっ壊してくれたのだよ」
王様。
ぶっ壊すだなんて……いや、たしかにぶっ叩きはしたね。
「そんなそなたに願いが……いや、王からの請願があるのだ」
「はぁ」
いや、それってもう断れないやつだよね?
どんな内容でも、謹んでお受け致さないといけないやつだよね?
「実はな……」
「父上!」
「あ!
バカ王子!」
王様が口を開こうとした矢先、噂の王子が扉をバーン!って開けて登場したんだよ。