32.残念ながら、ヤツ編に突入だよ
「では、そのように取りはかるように」
「し、しかし、それはあまりにも!」
「……ミカエル。
これは決定であり、決まった以上は王命だ。
逆らうことは許さぬ」
「……わかりました」
「いやー、なんとかなって良かったよ~」
「ミサったら、気合いで《黒玉》出してたでしょ!
真っ赤な顔して、すごい声出てて、もうおかしくって」
クラリスがその時のことを思い出したのか、けたけたと笑っている。
うんうん。
今日も安定のかわいさだね。
でも、その記憶はもう忘れてくれるかい?
ミカエル先生に記憶操作の魔法を教えてもらおうかね。
皆もう忘れてるかと思うけど、《黒玉》ってのは、あたしに出された課題魔法だよ。
手のひらから黒い玉みたいなのを出すやつ。
ちなみに、他の属性だとその魔法は初歩の初歩。
一番最初にやるようなやつね。
でも、闇属性にもかかわらず、他の属性魔法に闇の要素を混ぜ込むことが出来なかった私は、まずはその初歩の初歩から始めることにしたんだよ。
で、全神経を集中させて、思いっきり力んでやったら、数秒間だけ、《黒玉》を出すことが出来るようになったんだよ。
それ以上は無理。
いくら若くなったからって、頭の血管爆発しちゃうさね。
あ、ちなみに、クラリスは速攻課題魔法をクリアした上に、クラスでトップだったよ。
さすがは私のクラリスだね。
で、今は放課後で、クラリスとこれから帰ろうって所なんだけど……。
「ミ、ミサ君!」
「あ、ミカエル先生。
どうしたんだい?
そんな血相変えて」
いつも氷みたいに冷静で冷たいアイスマン先生が息を切らして、なんだってんだい?
「ま、まだ帰ってなくて良かった。
ちょっと、私とともに来てください」
おや?
いつもは先生の悪口を考えると察知されるんだけど、そんな余裕もない感じだね。
いったいどうしたんだろうね。
やーい、この鉄仮面教師~。
「クラリス君はこのまままっすぐ城に帰りなさい。
いいですね」
「あ、はい。
分かりました。
じゃあ、またね、ミサ」
「あ、うん」
クラリスは先生に圧強めで言われて、そそくさと帰っていった。
ホントになんなのかね。
嫌な予感しかしないんだけど。
やーい、この悪魔ー。
「では、ミサ君は私に掴まって。
転移で移動します」
「あ、は、はい」
これはただ事ではないみたいだね。
ふざけてごめんよ。
腹黒先生。
そうして、あたしと先生は転移魔法で移動することになった。
転移する瞬間。
「ミサ君。
君が普段から私にどんな思いを抱いていたか、よおく分かりました。
これが終わったら、楽しみにしていてください」
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!」
余裕はなさそうだったけど、その時の先生はとっても良い笑顔だったよ。
「う、ここは?」
先生と転移したあたしは、なんだかとっても豪華な部屋にいた。
広くて、でっかいシャンデリアがぶら下がってて、ふかふかの絨毯が敷かれてて。
そして、ものすごい量のドレスと、大量のメイドさん。
え?
何が始まるんだい?
「皆さん、お待たせしました。
まずはお風呂からですね。
私は別部屋で待機してますので、着替えまで終わりましたら、またお呼びください」
ミカエル先生が微笑みながら一礼すると、メイドさんたちが蕩けそうな顔で、色っぽく返事をした。
ていうか、先生。
1人にしないでよ。
お風呂ってどういうことだい!
「さあ。
ミサ様。
お服ぬぎぬぎしましょーねー」
「え?なに?
ちょっ、やだ。
待っとくれ……
ひゃぁぁぁぁぁーーー!!!」
そして、あたしはメイドさんたちにあっという間にひんむかれて、お風呂で入念に体を洗われ、髪を整えられた。
お風呂が終わってからはお化粧とドレス選び地獄が待ってたよ。
ずらっと並ぶドレスを順番に当てながら、メイドさんたちがああでもないこうでもないって言い合いしてて、なんだかちょっと怖かったね。
で、
小一時間かけて、ようやくあたしが完成した。
ミカエル先生が呼ばれて、あたしを見るなり驚いた顔してたよ。
「ふむ。
さすがは王宮のメイド。
素晴らしい仕上がりです」
「「「ありがとうございます!!」」」
うん。一糸乱れぬお返事。
軍隊のような仕上がりです。
「ん?てか、王宮?」
「あ、言ってなかったですか。
ミサ君には、これから王に謁見してもらいます」
「いや、聞いてないから~~~!!!」




