31.クレア編は、まあ、一段落なのかね
「で?で?で?
あのあと救護室でどうなったの?」
「ほら!
さっさと吐け!吐くんだよ!」
「ちょ、ちょっと、クラリスもミサも落ち着いて。
ちゃんと話すから」
翌日のお昼休み。
あたしたちは食堂でクレアを囲っていた。
ジョンとスケさんも一緒だよ。
「え、と」
クレアが思い出すように話し始める。
ホントはバッチリ覚えてるくせに!
焦らすんじゃないよ!このこの!
え?うるさい?
うるさいって方がうるさいんだよ!
「まず、先輩に抱えられて、そのまま救護室のベッドに寝かせてもらって」
「きゃー!
お姫様だっこ!」
あ、このリアクションはクラリスね。
「で、救護の先生がいなかったから、先輩に一応、全身を診てもらって、手当てしてもらって」
「おお。全身」
これはジョンね。
「で、叱られた。
自分を置いていけだなんて2度と言うなって」
「ふむふむ」
これはスケさんだね。
「俺は、俺の大切な人たちが傷付くのを見たくはない。
そして、クレア。
すでにもう、おまえにもそれは適用される。
だって」
「ウヒョォーーー!!」
あ、これはあたしだよ。
「待って待って!
それはまだ、どう意味か分からないわ!
そのくくりだと、友達とか仲間もその範疇よ!」
そうだね、クラリス。
まだ油断はできないよ。
「えっと、それで、
『おまえがいま死ぬと言うのなら、俺の命も今で終わりでいい。
だが、おまえが明日も明後日も生きていてくれるのなら、俺もまた、ともに永遠を歩もう』
だってさ……」
「「「「ウヒャヒョーーー!!!」」」」
あ、これは全員のリアクションだよ。
「え?え?
これはそういうこと?」
「いや、そりゃあそうでしょ!」
「だよなぁ!
じゃなきゃ、そんなこと言わないよな!」
「いやまさか、あのカークからそんな言葉が……」
スケさんも驚いてるよ。
そりゃあそうだよね。
これはもうプロポーズだよ。
結婚だよ。
いやー、いくつになっても、この手の話題は盛り上がるねぇ。
「みんなして、ここで何してるんだ?」
「ご本人降臨!」
「なんだ?」
「あ、いや、なんでもないよ」
まさかのここでカクさん見参!
クレア!
真っ赤な顔しちゃって!
かわいいよ!
「そうだ、クレア。
次の演習でクロスイーターを含めた魔獣対策を考察したい。
魔獣の候補選出を手伝ってくれ」
「はい!
先輩!」
うんうん。
嬉しそうに立ち上がっちゃって。
「気楽に相談できる後輩ができて助かるよ」
ん?
「いえ!
私も、カーク先輩とともに騎士道を精進できること、嬉しく思います!」
んんん?
「ちょちょちょ、ちょっと、クレアさん?」
あたしは思わずクレアを引っ張り戻した。
「どうした、ミサ?」
クレアはきょとんとした顔で首をかしげてる。
そんな顔も綺麗かわいいんだね、あんたは。
「え?
カクさんとラブラブになったんだよね?
ラブゲッチューしたんだよね?」
言い方の古さには触れないどくれ。
「ん?
なんの話だ?
私は先輩とともに騎士道を邁進すると約束したんだ。
ともに切磋琢磨し、いつかは並び立てるように精進するとな」
いや、そんなキラキラした目で語られても、ただかわいいだけだよ。
「まあ、そんなことだろうと思いましたよ」
あ、スケさんがため息ついてる。
そういう感じなのね。
2人とも騎士道おバカさん街道まっしぐらなのね。
「おい!クレア!
いくぞー!」
「はい!
ただいま!」
クレアは嬉しそうに返事をしてカクさんの元に駆けていった。
「本当に、みんなのおかげだ!
ありがとう!」
振り返ったクレアの笑顔を見たら、もうそれで良くなっちゃったよ。
「なんの話だ?」
「いえ、なんでもありません!」
うんうん。
あんたたちはそのまま隣を歩きなよ。
いつかその気持ちに気付くまで……。
あ、なんか、良い感じにまとめたね、あたし。
なんて、呑気なことを考えていたあたしは、ヤツの最大級のやらかしに巻き込まれることになるんだけど、この時のあたしには知る由もなかったんだ。




