29.騎士様が颯爽と登場したよ
「はぁ」
クレアが折れ曲がった(ように見える)左腕を持ち上げる。
「なんだか、大事になってしまったな」
もともとはカークと元の関係性に戻れればいいと思っていたクレアだったが、あれよあれよと言ううちに、こんなことになってしまった。
「魔獣が出ても、カーク先輩だけでも逃げてくれればいいんだが」
クレアはハァと溜め息を吐く。
「立ち向かうんだろうなぁ、きっと。
私を守るために」
カーク先輩はそういう人だ、とクレアは改めて考える。
そもそも、初めはただ単純に憧れだった。
それが、いつしか隣に並び立ちたいという思いに変わっていったのだ。
「……」
クレアはカークを待つ間、カークのことを考え、自分の思いを固めた。
「……だ!
どこだ!
クレア!」
カークの声が聞こえてくる。
ーー落ち着け。大丈夫。平常心平常心ーー
「先輩!
ここです!」
「そこか!」
森を飛び回り、カークがクレアの元で着地する。
「大丈夫かっ!
ひどいケガじゃないか!」
カークが傷付いたクレアの姿に驚いて近付いてくる。
「ちょっと、崖から落ちてしまいまして」
クレアがイテテと言いながら、上を見やる。
カークもつられてそこを見ると、8メートルほどの高さの崖がそこにあった。
「なっ!
こんな高さから落ちたのか!」
ーーーミサ、やっぱりこの高さはリアリティに欠けるよーーー
「まあ、ともあれ、ケガはあっても無事で良かった。
いま応急手当をしよう」
そう言って、カークはクレアのキズを消毒し包帯を巻いてくれた。
「左腕は折れていそうだな。
木の枝だが、添え木にはなるだろう」
「すみません」
恐縮するクレアの頭に、カークがぽんと手をのせる。
「謝る必要はない。
仲間の救出は当然のことだ。
おまえがするべきは反省だ。
同じことを繰り返さないようにすることが何よりも大事だ。
帰ったら反省会だぞ」
「は、はい」
ニッと笑うカークに、クレアは頬が紅くなっていることがバレないようにうつむいた。
てか、カクさんヒュー!
あ、いきなりナレーションに登場しちゃってごめんよ。
もう我慢できなくてさ!
ちょっとカクさんおっとこまえすぎないかい!
あんなん言われたらあたしゃイチコロだよ!
え?うるさい?
あ、ごめんよ。
『さあ、そろそろ行きますよ』
そして、クレアの手当てが終わった頃を見計らって、ミカエル先生が懐から黒い水晶を取り出した。
『召喚と同時に転送します。
大丈夫。
言うことを守るように、よぉく言い聞かせておきましたから』
……先生。
顔が怖いよ。
先生が水晶に魔力を込めると、水晶は小さな光を放ちながら浮き上がり、だんだんとヒビが入っていった。
そして、それが割れると同時に大きな何かが現れた気がしたけど、それはすぐにシュンと姿を消してしまった。
《な、なんだこれは!》
《きゅ、急に現れたぞ!》
クレアたちの声が聞こえてくる。
クラリスの魔法の応用で、風魔法が得意なスケさんが補助をして、現場の声がここまで届くようにしたらしい。
《バ、バカなっ!
クロスイーター、だと!
なぜこんなレベルの魔獣が学院の演習場に!》
『ちょっと!
こんなのが出てくるなんて聞いてないんだけど!』
カークさんは驚いていて、クレアはお怒りを念話で伝えてきたよ。
「え、と、クロスイーターってなんだっけ?」
あたしが首をかしげると、ミカエル先生が溜め息を吐き、ジョンが教えてくれた。
「クロスイーターは文字通り、旅人の服だけを好んで食べる偏食の魔獣だ。
ぶよぶよした巨大な体は剣を通しにくいから、火の類いがないと厄介な相手だ。
森だからあまり大きな火魔法も使えないしな」
ああ、思い出した。
あたしはかなり苦手なやつだよ。
だって、見た目は完全にでっかいカエルなんだもの。
3メートルぐらい。
しかも、人をまるごと口の中に含んで、べろべろなめ回された挙げ句、素っ裸で唾液まみれで外に放り出されるんだから、ホントに勘弁してほしいよ。
ん?
ていうか、それって、アレな展開なんじゃあ……
いや、先生。
ぐっ!じゃないよ!
良い仕事してないから!
お巡りさーん!
汚い大人がここにいますよー!
「大丈夫。
咥えられる前に助けますよ」
ホントかね。
「それに、カーク君のことをナメてもらっちゃ困ります」
カエルだけに?
「ミサ君?」
あ、すいません。
「ま、見ていなさい。
在学中に武術過程を修了し、騎士資格を取得した者の実力をね」