26.クレアがかわいいんだよ
ーーいーい!作戦はこうよ!ーー
「クラリス。
不安しかないんだが……」
クレアは森の中に身を隠しながら、クラリスから伝えられた作戦を反芻して、不安に感じていた。
その数時間前。
「で?
そのラブラブ大作戦ってのは、なんなんだい?」
そんなの、あたしが子供の頃の漫画でもあんまり聞かなかったよ。
クラリスは人差し指を立てて、得意げに説明し始めた。
「ふふん!
やっぱりねー、女の子はピンチの時に、男の子に王子様みたいに助けられたいものなのよ!」
ずいぶん古典的なので来たね。
「クラリス殿下。
うちの王子様はシリウスですよ」
「あ、ごめん。
王子様はなしね」
従者と妹が言っちゃったよ。
「じゃー、クレアにピンチになってもらって、それをカーク先輩が助けるってことか?」
「そーゆーこと!」
ジョンがまとめてくれたけど、少し表情が暗くないかい?
「でも、あのクレアがピンチになってる図がイメージできないんだけど」
「あー、たしかにね」
クレアはわりと完璧超人だ。
勉強も運動もできるし、騎士志望とはいえ貴族令嬢だから、礼儀作法なんかも一通りできるし、歌なんてもう、宝塚の男役張りのイケメンボイスさ!
わざとハメようにも、ハメられる要素がなさすぎるんだよ。
まあ、だからこそ、恋愛面においては奥手なのかもしれないけどね。
「まーねー。
ていうか、クレアってけっこうモテるよね?」
クラリスが食堂のテーブルに突っ伏しながら、上目遣いでクレアを見てる。
うん。
あんたもたいがいだよ。
「いや、私は特にそういったことは……」
あら、クレアさん赤くなっちゃって。
普段イケメンな分、こういかわいいギャップにおばちゃんはやられちゃうのよ。
「あー、クレアはたしかにモテるよ。
おもに女子に」
「ジョ、ジョン!
余計なことを言うな!」
「「「え!なになに!?」」」
いっせいに食い付く3人。
スケさん、もはや楽しんでるでしょ。
まあ、あたしもだけど。
「いや、この前さー、実践武術の時に、やたらとクレアと打ち合いとかしたがるヤツがいて、気に入られてんなーって思ったら、校舎の陰でコクられててさー」
「女子に!?」
「そー」
うんうん。
あたしはその子の気持ちがよく分かるよ。
あたしも学生時代にクレアみたいな子がいたら、きっとホレてたね。
あ、いまも学生だった。
「まあ、それも1つの愛の形と言えるでしょう」
おや?
スケさんは理解があるんだね。
彼女がそういう本を見ててもいいってタイプかな。
それはまた違うか。
スケさんとカクさんのペアとかで妄想されたら、さすがに嫌だよね。
まあ、それも悪くないとか言われたら、今度はこっちが引いちゃうけどね。
「……クレア、真っ赤」
「ん?
あ、ホントだ」
クラリスが、うつむいたまま、耳まで真っ赤になっているクレアに気付いて、ニマニマしてる。
たぶん、あたしも同じ顔してるよ。
クレアがかわいすぎて、今すぐ抱きしめたいところだよ。
「おまえ、ホントにそういう話ダメなんだな」
「うるさいなー」
ジョンに呆れられてるが、クレアはそう言うのが精一杯のようだった。
「まあ、お遊びはその辺にして。
そろそろちゃんと作戦について話し合いましょう」
スケさんがクレアをからかうクラリスとジョンの間に入ってくれた。
「はーい、そうだねー」
「お、お遊びだったのか」
うん。
あたしも普通に作戦に必要な話なんだと思ってたよ。
遊ばれてたらしいよ。クレア。
「で、具体的な作戦はこうよ!」
クラリスが気を取り直して、懐から学院の演習場の地図を取り出した。
ちょっと待って!
いまどっから取り出したぁ!!
そんなけしからん所に入れてたのかぁ!
ちょっとその地図よこしなさい!
え?話が進まない?
あ、はい。
すいません。
ごめんよ。
あたしが引き延ばしたせいで、作戦内容は次回に持ち越しだよ。




