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LEP(ラストエピソード).『最強おばさんは美少女転生して王妃になっても、やっぱり最強なのでした。まだなってないけど』

「……トワくん、かわいかったなー」


「ああ、そうだな」


 マウロ王国から帰ってきたあたしたちはお城の一室でのんびりしてた。

 お仕事でもしようかと思ったら、スケさんとフィーナにここに押し込まれて「少しは休め」と言われたのよ。

 言われてみれば、あたしもシリウスもお祭りが終わってからあんまり休んだ記憶がないかも?

 なんか、お仕事って探したらなくなることがないんだよね。

 あそこの村が~、あそこの河が~、みたいなのに対応してたら永遠にやることあってさ。魔法を使えば何とかなるけど、そんな魔法使うだけの魔力はないよ~みたいな案件は魔力と元気だけは有り余ってるあたしが役に立つのよ。

 あたし自身が魔法使えなくても、スケさんとかシリウスとかがあたしの魔力を借りて何とかしてくれるからさ。

 ま、そんなこんなをしてて、お祭りが終わっても忙しくしてたわけ。

 そんで、ようやく時間ができたと思ったら2人でマウロ王国に表敬訪問に行っちゃうしね。

 そりゃ、心配もするかね。


 あ、ちなみにフィーナはお父様たちに許可をもらってあたしについてきたんだ。

 お兄様はアルベルト王国に置いてね。

 フィーナはお兄様よりあたしを選んだわけだ。どんまいお兄様。

 ま、アルベルト王国とこの国の国境にいるお兄様にたまにフィーナが会いに行ってるのは知ってるけどね、ふっふっふ。


「あ、そーいやさー」


「なんだ?」


 2人で、ソファーで向かい合わせに座ってだらけながら、気になっていたことを尋ねてみる。

 いざ休めって言われるとやることないよね。今は別に眠くないし。


「この国の名前。あれで良かったのかい?」


「ん? ああ……」


 帝国からリニューアルしたこの国に新しく名前をつけるってなった時、シリウスがこの名前を提案して、それに決まったわけだけど。


「バラケルーシ王国。

 バラキエル、ケルベロス、ルーシアの名前を入れた国。

 あんたのことだから自己顕示欲満載のシリウススーパーカッコイイ王国とかにすると思ったのに」


「……なんだそれは」


 ま、そんなんはあたしとかスケさんとかに全力で止められてただろうけどね。


「……いいんだよ。

 バラキエルは戦犯だが、その根底はこの世界を破滅から救うことだ。やり方を間違えただけで、ともすれば英雄となっていたかもしれない。

 我々はそれを忘れてはならない。

 再び破滅の悲劇を繰り返してはならない。

 これは全世界に対する楔だ。

 我が王国の名を口にする度に自身を振り返り、過ちを繰り返さぬようにするのだ」


「なるほどねー。あんたにしてはなかなか凝ったことするじゃないかい」


 賛否両論ありそうではあるけど。


「じゃー、ケルちゃんルーちゃんのは?」


「この国は俺だけの力で興せたわけではないし、俺だけで治めているわけではない。

 これからは魔獣の長と敵対するのではなく、ともに手を取り歩んでいきたい。

 その意向と感謝を込めて、国名に入れさせてもらった。

 長が代わっても、初代の意向を継いでほしいという願いも込めて。

 俺が王として立たせてもらっているのだから、それ以外の所で彼らを立たせようと思ったのだ」


「なーるほどねー」


 あんたにしちゃ、ずいぶん殊勝な態度じゃないかい。


「これからも、俺は尊大な王ではなく、民とともに歩み、民の声を聴く王でありたい。

 民の望む国の姿でありたい。

 民の横に並び、ともに前に進む王でいようと思うのだ」


「ふーん……」


 まあ、いいと思うよ。

 いいとは思うんだけどさ。


「ていっ」


 ソファーから体を起こして、身を乗り出してシリウスにチョップする。


「あだっ。

 な、なぜ突然チョップをする!?」


「なーんか、あんたらしくないのよ」


「……俺、らしくない?」


 そーねー。


「あんま殊勝すぎてもつまんないのよ」


「お、面白いかどうかは政治に関係ないだろう」


「そんな王様に皆はついていきたいと思うかなって話」


「……」


 そう。王様なのよ。

 あたしの世界の政治家じゃないのよ、あーたは。


「皆が惚れたあんたは、皆の先頭に立って自らの力で未来を切り開いていくあんたなんだよ。

 べつに力ずくで他国を攻撃して、とかそういうことじゃないよ?

 たださ、王様なんだから。

 皆と横並びになるんじゃなくて、皆の先頭に立って堂々と前に進んでけばいいのよ。

 皆はそれについてくから」


「……」


「大丈夫。

 ちゃんと皆ついてくよ。

 誰より体を張って、頑張って頭ひねって、ここまで国を作ってきた姿を皆見てるから」


「……そう、かな」


「そうだよ!

 他の誰でもない、あたしが断言したる!」


「……はは。頼もしい限りだな」


 だしょ?


「それにね、不安になったら隣を見てみるといいよ」


「隣?」


 シリウスの隣に移動して、ソファーの上に正座する。お行儀悪いかもだけど許してね、お母様。


「しょうがないから、あたしも一緒に先頭に立って、あんたの隣を歩いてあげるからさ。

 だから、なーんの心配もいらんよ。

 このミサ様が隣で一緒なんだからね!」


「ミサ……っ」


 シリウスの手を握る。

 ごつごつとした、傷がいっぱいの手。

 頑張ってる人の手。


「それに、もしあんたが見当違いの方向に行こうとしてたら、あたしとスケさんがぶん殴ってでも戻してあげるからさ、物理的に」


 拳で!


「ははっ! それは気を付けないとな」


 ようやくいつもの笑顔。

 柄にもなく、王様としての在り方にいろいろ悩んでたみたいだね。

 ま、自身の身の振り方を考えられる王様は良い王様だと思うよ。


「……まったく、ミサには敵わないな」


「あたしは最強だからね!」


 いろんな意味で!


「……ミサ。ありがとう」


「……うん。いーい国に、しようね」


「そうだな……」


 優しく微笑むシリウス。

 その吸い込まれそうなほどに碧い瞳には優しさしか感じない。


「……ミサ」


「へ? わっ!」


 握っていた手をぐいと引かれる。

 正座していたあたしはシリウスの胸に倒れるように飛び込んでいく。


「ミサがいてくれて、ミサと出会えて本当に良かった。

 ここまで、心から大事にしたいと思える人に出会えるとは思わなかった」


「お、おお……」


 顔をあげれば綺麗な造形美を全力発揮した顔がすぐ近くにあった。

 あかん。なんかめっちゃ照れる。


「ミサ。愛している。

 ミサにしか言わない言葉だ。

 これから一生、ミサだけを愛し続ける」


「……うん。あたしもだよ。

 あたしも、あんたを愛してる」


 シリウスにアゴを持ち上げられ、吸い込まれるようにあたしたちの唇は重なった。




「……ふぅ」


「……」



 唇が離れると、途端に照れくささがフルスイングで殴ってくる。

 でも、もうちょっと、って気持ちが溢れてくるのも確かで。



「……どうする?

 いっそこのまま子作りと洒落込んでみるかい?」


「んなっ!?」



 などと言ってしまいたくなってみたり。

 ふざけて言ってるけど、べつに本気にしてくれても構わないと思ってみたり……。


 あと、顔をあげてんのにさらにアゴを持ち上げられて首が悲鳴をあげてるのを実は我慢していたり、ぐぎぎぎぎ。



「そ、そ、そ、そういうことは! きちんと式を挙げて! 正式に夫婦になってからするもので!

 い、今のだって、その、あの、ホントはフライングで!」


「……」



 だよね。

 知ってる。

 あんたはそういう奴だよ。



「……ぷっ」


「わ、笑うなー!」


「あはは。ごめんごめん」



 そういう根は真面目な奴だからこそ、あたしはあんたが好きなんだ。



「シリウス陛下! ……っと失礼」


「な、なんだっ!?」


「おわっ!」



 そんな良い雰囲気をぶち壊してスケさん登場。いや、ノックぐらいせんかい。魔導天使。


「あ、お寛ぎの所申し訳ありません。

 西の山脈地帯で大型の魔獣が現れまして。おそらく突然変異体かと。

 ケルベロスが応戦に向かいましたが、場合によっては応援が必要かもしれません」


「分かった。すぐ行く」


「あ、あたしも行くよ」


 魔獣案件ならあたしもいた方が役に立つだろうし。


「助かります」


 3人で準備をしてから急いで現場に向かう。


「ミサのことは俺が必ず守るから安心しろ」


「なーに言ってんだい。あたしがあんたのことを守ってやんのよ」


「え?」


「まあ、確かに魔獣相手ならそうかもしれませんね」


「だしょ?」


「ぬぐっ」


 スケさんからの援護射撃でタジタジな王様。


「……ところで、さっきは部屋で2人で何をされていたのですか?」


 スケさん、あんたホントいい性格してるよ。


「ギクッ!」


 で、あんたのそのリアクションはなに?


「ん? イチャイチャしてたのさ」


「イチャっ!?」


「はは。それは仲睦まじいことで」


 もうバカ王はこのままリアクションさせとこ。


「スケさんも、早くクラリスとイチャイチャできるといいねー」


「うぐっ! そ、そうですね」


 ふふ。一矢報いたぞ。


「だ、ダメだ。こいつらの話についていけん」


 うんうん。あんたはそれでいいのよ。


「……ねえ、シリウス」


「な、なんだ?」


 スケさんに聴かれないようにシリウスの耳に顔を寄せる。


「これが終わって帰ったら、もっかいさっきみたいのしよーね」


「な! ななななななっ!?」


 耳まで真っ赤な王様。うん、かわええ。


「嫌かい?」


「い、い、い、い、嫌なわけあるか!!」


 あ、そこは正直なんだ。


「じゃー、決まり!」


「わっ!」


 シリウスの手を引いて走る。

 シリウスはびっくりしながらも手をしっかり握り返してくれた。


「そうとなったら早く行こー!

 調子に乗った突然変異体をぶっ飛ばすぞー!」


「お、おー!」


「やれやれ。お熱いことで」


「あははははっ!」



 突然に訪れた二度目の人生だけど、ドタバタしながらも今はこうして笑っていられる。

 隣におバカな相方もいて。

 それは、とっても幸せなことなんじゃないかね。

 だから、こうして掴んだこの手をあたしは離さない。

 これからも皆とドタバタしながら、あたしはこの世界を生きていく。


 そのついでに世界も救っちゃうんだから、やっぱりあたしは最強なんじゃないかね。




「お、おい!

 そんな走ると転ぶぞっ!」


「へーきへーき! あははははっ! へぶっ!!」


「言わんこっちゃない」


「す、すまぬ」


「ほら。いくぞ」


「へーい」




 ま、そんなバカみたいなことを言っていられる世界に、これからも私たちの手でしていけばいいよね。

 やっぱり、皆が笑ってる世界が好きだから。

 そんな世界が、最強だと思うから。




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