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EP.4『君の名を決めるセンスが絶望的にないあたしたちはいつかあんたに殴られる覚悟を決めよう』

「久しぶりだな、ミサ! シリウス!」


「ああ、そうだな」


「お祭りん時にゃ、ちゃんと挨拶できなかったもんね!」


「あのときはすぐに帰ってしまって申し訳ありませんでした。産んだばかりの我が子をあまり置いておくことが出来なくて」


「いーんよフェリス様。やっぱ子供は大事にしなきゃー」


「ありがとうございます」


 ここはマウロ王国。

 お祭りを無事に? 終えたあたしとシリウスは片付けなんかを終えて国が落ち着いた所で、ふたりでマウロ王国に来ていた。

 新たに王になったカイルとフェリス様との間に王太子が生まれたことに対する表敬訪問のために。


「改めて、出産おめでとう。フェリス様」


「ありがとうございます」


 あ、形式的なちゃんとしたご挨拶はもう終わったのよ。

 玉座に座ってるカイルたちにあたしたちが畏まった口上を述べるやつね。

 あれさ、あたしってば、なんか真面目すぎておかしくなってきちゃうのよね。

 普段あんなんなシリウスとカイルが真面目な顔して王様してんのとか、なんかコントみたいでさ。

 あれをガチで出来るのはすごいよ。やっぱり子供のときからそういう教育受けてる人は違うわ。

 フェリス様も、まさに王妃様って感じの穏やかな笑みを浮かべてさ。あたしだけよ、ニヤつくの堪えながら微笑んでんの。

 どこの限界オタクよって感じ。

 これは頑張って練習しなきゃだね。これからそういう機会が増えるだろうし。

 いっそフェリス様に弟子入りしよかな。


「んで? そのフェリス様の御腕に抱えられた可愛いの塊みたいのが?」


 で、今はあたしたち4人だけでのんびりほっこりお話モードな感じ。場所も寛げるお部屋を用意してもらって。メイドさんの淹れてくれる美味しいお茶とマウロ王国のお菓子を嗜みながら。

 あ、失礼。4人じゃなかったね。


「はい。カイルと私の子です」


 そう言ってフェリス様は腕に抱いた赤ちゃんを見せてくれた。


「きゃわわわわっ!!」


 あかん! これはあかん!

 カイルもフェリス様も顔面整ってる系の人種だから、その子供とか、もう尊い確定演出やん!

 そんで、その期待を裏切らないかわゆさ!


「息子さんをあたしにください!」


「え!? ダメです!」


「しょぼん!」


「……ミサ。リアクションが気持ち悪いぞ」


 はい! すいません!


「はっはっはっ! ミサは相変わらずだな!」


 いや、すんませんね、お義父様。

 あまりの可愛さに結婚を申し込んじゃったよ。自分の婚前に他の男(赤子)に結婚申し込むなんて、あたしゃだいぶキモいね。うん、自覚あるよ。


「いや、それにしても、ホントに可愛い子だね~」


「ありがとうございます」


 カイル譲りの褐色の肌。凛々しい眉。

 フェリス様譲りのおっきなお目め。可愛らしく結ばれた唇。髪は、栗毛混じりの黒、かな。

 こりゃ、カイル顔負けの女泣かせになるよ。


「あ、あー」


「ん?」


 その子が、こっちに手を伸ばしてなんか言っとる。え、尊い……。


「あら。ミサさんに抱っこしてもらいたいの?」


「だ、だだ、だだだだだ、抱っこですと!?」


「……ミサ。そのリアクションはなんなんだ? なぜ席を立って後ずさる?」


 あ、すまんね。これは昭和なオーバーリアクションって言ってだね。特にツッコむ必要のないやつなんだよ。


「あー、あ、あー……」


「ぶほぁっ!」


「……すまん。なんかミサが終始気持ち悪くて」


 あ、うん。ホントすんません。

 前世で子宝に恵まれなかったもんで、赤子なるものが可愛すぎて仕方ないんよ。


「ミサさん。この子を、抱っこしていただけますか?」


「はひっ! 喜んで!!」


 こんなあたしに抱っこさせるとか、フェリス様、あんたは女神様かい!?


「……いいのか?」


「フェリスが言っているのだからいいんだろ」


 旦那連中は傍観の構えだね。ま、こういう時って奥さん同士がやたらと盛り上がって旦那は「お互い大変ですな」みたいなスタンスよね。ま、こちとらそんなん気にしてないけどね!


「え、と? こ、これはどうやって持ったら……」


 あかん。テンパる!

 こんなちっこい生き物どうしたらええねん!

 犬猫の抱っことはまた違った怖さ!


「ここをこうして、背中を包むようにして、そうそう、で、首を支えてあげてください」


「お、おぉ」


 フェリス様が優しく教えてくれて、ようやくあたしの手に収まる御子。


「な、なんかぐにゃぐにゃなんだけど!? 首ぐわんぐわんで不安なんだけど!?

 大丈夫? これ大丈夫? あたし大丈夫!?」


「……いや、ミサは大丈夫じゃなさそうだな」


 うん! だよね!


「ミサさん。大丈夫だから落ち着いてくださいね」


「そ、そだね。ひーひーふーひーひーふー」


 あ、こりゃ産むときか。


「あー……」


「ん?」


 手元で呼ばれて下を向いてみれば。


「キャッキャッ!」


「ごぶふっ!」


 天使がおりましたとさ!!


「ふふ。笑ってますね。

 ミサさんに抱かれて喜んでるみたい」


「ああ。この年から美人に抱かれて喜ぶとは、我が息子ながら末恐ろしいな」


 なんかカイルさんの観点が違う気がするけど、とりあえず天使が降臨されてるからどうでもいい!





「はーはー……」


「ミサ。大丈夫?」


「あ、へい。大丈夫でふ。おーるおっけー」


 フェリス様に赤様をご返還。

 あぶないあぶない。もう少しで鼻血出るとこだったよ。


「ふふふ。他人(ひと)の子でこれでは、ご自分の子を抱いたときの喜びは大変なことになりそうですね」


「そうだな」


 フェリス様が穏やかに微笑みながら子供をメイドに任せる。乳母さんかね。


「あたしの子かー。ぜんぜん想像できないねー。

 前世でも子供はいなかったからさー」


 あっちの旦那とは、子供は出来ても出来なくても、みたいなスタンスだったからさ。

 ま、ふたりでも幸せに過ごせてたからいーんだけどね。


「でもま、なんだろ。なんか、他人(ひと)の子とはまた違う感覚になる気がするね。

 自分がこの子を育てていかなきゃ、守っていかなきゃ、みたい方が強くなっちゃう気がする」


 ま、愛でるは愛でるんだろうけどね。

 でも逆に、そういうのから解放されたジジババが孫を可愛がるのが分かる気がするよ。


「……ミサさんは、良い母親になりそうですね」


「そうだな……」


「そうかねー。子供にナメられる気しかしないけどねー」


 もしくはアルちゃんみたいに暴れる両親をたしなめるみたいな?


「それもまた家族の形ですよ」


「そんなもんかねー」


 ま、反面教師ってことでいいかね。


「ん? シリウスさんお静かだけど、どったの?」


 あんた人見知りするタイプじゃないし、カイルたちにもいつもガンガンバカ全開やん。


「い、いや、な、なんでもないぞ」


「あん?」


「はっはっはっ。シリウスはミサとの間に子をなすということに照れてるんだろ?」


「バッ! 何をバカなことをっ!」


「あー、そういう感じ?」


 前世では子供は出来たらいいねって感じだったけど、王様となったらそうはいかない。

 世継ぎは絶対に必要だし、男の子が望ましい。

 あたしは別に女王でも良くね? って思うけど、世間ではまだ男が王になるっていう社会通念があるみたい。

 ま、あたしは男でも女でも変わらず愛する自信あるけどね!


「あんたは王様だろ?

 だったら子供は絶対作んなきゃじゃん。

 王族なんだし、そういうふうに言われて教育されたでしょ?」


 貴族にとって子をなすってそういうことなんだと思ってたけど、案外ピュアな感じなのかね。


「い、いや、そうだが。そうなんだが……」


「まあ、ずっと想っていた相手と結ばれて、急にそんな話になったら、そりゃ照れるよな。

 シリウスはただでさえ、今までそういう遊びをしてこなかったわけだしな」


「あなたは経験豊富ですものね~」


「あ、いや、そういうことではなく……」


 怖い。フェリス様が怖いよ。


 まあでも、そっか。

 このバカはこれまで皆から恐れられてきたんだし、そういう色恋沙汰とは無縁だったのかもね。


「べつに今すぐにってわけじゃないんだし、気長にいこーよ。

 そういうのって、なんかこう、自然とそうなるもんじゃん?」


 焦ったって仕方ない仕方ない。


「あ、ああ。そうだな」


「ははっ。こりゃーかかあ天下になりそうだな」


「ホントですね」


 尻に敷いちゃうぞい!






「あ、そうそう。カイル」


「ん? ああ、そうだ」


「ん?」


 その後も他愛のない話を続けていると、フェリス様が思い出したようにカイルに声をかけた。


「じつはな、ふたりにお願いがあるんだ」


「お願い?」


「なんだ?」


 改まって、なんのお願いが?


「じつは、俺たちの子にまだ名前をつけていなくてな。

 その名を、ふたりにつけて欲しいんだ」


「うえええっ!?」


 あの天使様の!?


「いや、それはさすがに。

 いくらなんでも、他国の王太子の名を俺たちがつけるわけにはいかないだろう」


 だよね?

 これでもこちとら王様たちなわけで、それが他の国の王様の子供の名付け親になるとか。なんかいろいろ問題ある気がする。


「これは王としてではない。

 恩人としての、友としての願いだ」


「で、でもさー」


「それに、これはフェリスのたっての願いなんだ」


「フェリス様の?」


 国とか王とかは関係ないってことかい?


「……私は、ミサさんに救われました。

 ミサさんの魔力で回復することも出来ましたし、その力があったから、人化の術を使ったままの、人としての出産にも耐えられたのです」


「そうだったんだ」


 本来の魔獣の姿ではない状態での出産はやっぱり大変なんだね。

 ま、その助けになれたんなら何よりだよ。


「それに、私がミサさんに協力しなければ世界は帝国の手に落ちていたでしょうし、世界は滅びていたかもしれない。

 間接的に、私が世界を滅ぼすことになっていたかもしれないのです。

 ミサさんが私を従えてくれたから、私は世界を滅ぼさずに済んだのです」


「いや、それはさすがに考えすぎよ」


 なんなら、帝国との戦いのあと、フェリス(アナスタシア)の能力でケガ人をいっぱい治してくれたから被害が大きすぎずに済んだまであるからね。


「ともかく、私はミサさんたちに感謝してるのです。カイルのことも助けてくださいましたし」


「もちろん俺も感謝しているぞ!」


 ま、あたしはカイルと一緒に寝てただけだけどね。


「んー、おけ。分かったよ」


 ま、そこまで言われちゃーね。


「ありがとうございます」


 んでも、名前かー。


「シリウス。なんか思い付くのある?」


 せっかくならいい名前にしたいよね。


「そうだな。

 ライトニングギガスパーク・マウロなんてどうだ?」


「……え? 必殺技?」


「カッコいいだろう!」


「そ、それはさすがに……」


「……子供の名前だぞ?」


 ですよねー。


「あかん。あんたにゃ任せておけん」


 ここはあたしが何とかせな。

 せっかくカイルたちが信頼して任せてくれたんだし。


「……えーとね。

 ポチ……いや、タマ・マウロはどうだい?」


「……犬や猫だろ、それは」


「か、かわいいはかわいいのですが」


「だから子供の名前だって」


 ダメかー。昔ウチで飼ってたワンコとにゃんこの名前だったんだけど。かわゆさ的にさ。いいかなって。


「ふむ。では、『暗黒の眠りから目覚めし殲滅龍』はどうだ!」


「いんや! 超絶激可愛無敵天使だね!」


「スペシャルセイントダークネスフォーエバーフォースラストブリザードハリケーンだ!」


「ラブラブゲッチューフォーエバー天使!」


「え、えーと……」


「だから子供の名前だと言ってるだろーが!!」





 カイルのぶちギレで一旦休憩。


「はぁはぁ。あかん。あたしたちにゃ絶望的に名付けセンスがないみたいだね」


「はぁはぁ。そ、そうだな。

 俺様は今までカッコいい必殺技の名前しか考えてこなかったからな」


 あたしなんて最初はペットの名前つけようとしてたし。途中からもうなんか大喜利だったし。


「……おまえらの子供のことが心配になってきたよ、俺は」


 さーせん。カイル様。


「……」


「フェリス様?」


 黙ってどしたん?

 絶望的なセンスに絶望したん?

 将来的にあたしたちはおふたりの子に名付けの恨みで戦争仕掛けられるかもしれんね。


「……おふたりが挙げた名前の中に、どちらも永遠という言葉がありました」


「あ、フォーエバーね」


「ここはその両方を採用して、『トワ』というのはいかがでしょう」


「トワ君! いーじゃん! カッコいい!」


「うむ! マウロの風潮とも合っているな!」


「……決まりだな」


 かくして、ふたりの子供の名前はトワになった。

 結局はフェリス様が決めたけど、あたしらの案を採用したってことでオッケーさね。

 フォーエバーが永遠で、トワって読むとかこの世界の言語展開はどうなってんだろって思うけど、たぶんあたしの脳がそうやって認識してるだけなんだろね。


「……でも、トワ、か。

 永遠を生きるフェリス様にぴったりかもね」


 不老不死の不死鳥の魔獣であるフェリス様。

 その子供に与える名前に合ってるよ。


「……ミサさん。そのことなのですが……」


「うん?」


「……私は、カイルとともに人として生き、その生涯を終えようと考えています」


「え!? どゆことっ!?」


 わざと死んじゃうってこと?


「……このまま人化の術を完結させるのです。

 具体的な方法は長くなるので割愛しますが、そうすることで私は人間と同等の存在となり、その寿命もまた、人間と同じになります」


「そっかー。じゃあ、カイルと一緒に年をとっていけるようになるんだね」


「……そう、ですね」


「いいんじゃない? あたしは賛成だよ」


「……ミサさんなら、そう言ってくださると思っていました」


 だしょー? あたしゃ寛容だからね!


「……俺は正直嬉しいが、歴代の為政者が欲してやまなかった不老不死を自ら手放すとはな……」


 カイルはちょっと複雑そうな顔をしてるみたい。


「なーに言ってんだい! そんなのを手放してまであんたと添い遂げたいってんだよ!

 これほど素敵なことはないじゃないか!」


「……そうか。そうだな。

 そんな相手に選んでもらえて、これほど名誉なことはないな」


 うむ。分かれば宜しい。

 

「……それにね、あたしにはフェリス様の気持ちが分かるんだよ。

 あたしもさ、ほら、このまま闇属性の膨大な魔力を扱える状態でいたら、とんでもなく長生きするらしいじゃん?」


 まあそれはお祭りで放出して減らしていくことで解決するみたいだけど。


「そんときにさ、考えたのよ。

 あたしの周りにいる皆が、あたしを残して先に逝っちゃったらさ。それはそれは、とっても寂しいことだなって」


「……ミサさん」


「それこそ、バラキエルさんが言うように血迷って世界を滅ぼすぐらいしちゃうかもなって」


「……」


「だから、自分が持ってる力を手放すだけで皆と同じになれるなら、それは安いもんだと思うんだよ」


「……はい。私も、同じ考えです」


「んねー」


「……シリウス。俺たちは良い女に愛されたな」


「……もったいないぐらいにな」


 だしょ?


「逃がしたら承知しないぜ!」


「ふふふ」






「そういえば、マウロの魔獣の長はどうするんだ?」


「あ、そか」


 フェリス様が人として生きるなら、新しく長を決めないといけないのかな?


「……一応、私が存命のうちは長としての役割を全うするつもりです。

 ですが、魔獣の長というのは一朝一夕で生まれるものでも育つものでもないのです」


「そーなんだ」


 たしかに、リヴァイさんとかフェリス様はずっと長やってるんだろうし、タマちゃんとこの先代も長かったみたいだしね。

 アルベルト王国に3体も同時期にいたのは奇跡みたいなことだったんだね。


「長がいないと魔導天使が一時的にその役割を担うのですが、さすがにこれ以上の負担をかけるわけにもいきませんから……」


「あー、あの人たちもいろいろ忙しそうだもんねー」


 王の隣人であり指導者であり敵対者でもある魔導天使。

 彼らはいろんな仕事を担ってる。

 王の政務の手伝いや為政のアドバイス。他国の魔導天使との会談や魔獣の長とのやり取り。あとは世界の魔力バランスの調整とか?

 とりま、世界全体のバランスを観るのがあの人たちの仕事みたい。

 そんな忙しい人たちにこれ以上お仕事をやってもらうのは忍びないよね。


「……世の中がちゃんと平和になって落ち着いたら、あの人たちの仕事を少しずつあたしたちも出来るようになれたらいいかもね」


 てか、本来はそうなんだもんね。

 一度、失敗して滅びちゃったから、天使さんたちの力を借りて何とかかんとかここまでやってきてるけど、いつかはその手を離れて自分たちだけでやっていけるようにしないと。

 今は、その第一歩を踏み出してるとこなのかもね。


「そうですね……」


「あ、んで、ここの長はどうすんだっけ」


 ちょっち脱線しちゃったけど。


「あ、はい。何度も申し訳ないのですが、それに関しても、おふたりにお願いがございまして」


「……というより、お願いを伝えて欲しい、が正確だな」


「お願いを伝える?」


 誰に? 何を?


「はい。私の死後、そちらの国の魔獣の長であるケルベロスかルーシアに、この国の魔獣の長を務めていただきたいのです」


「え!? ケルちゃんかルーちゃんに!?」


「……たしかに、数十年後までに新たな長となる魔獣が生まれる、あるいは育つ可能性が低いのならば、現存する者を動かすのが妥当だな」


「そういうことだ」


「あー、なるほどねー」


 今いる長の中で、一国にふたりの長がいるのはウチだけ。

 動かすならそこって訳だね。


「今はふたりで長を務めていますが、私が死ぬまでにはどちらも一人前の長となっていることでしょう。

 数十年後ではまだ早いというようなら、それまでに私がいろいろ教えてもいいですし」


「そっかー。何十年後とかって話だもんね」


 魔獣の長ってのは寿命が長いから、彼らにとってはすぐなのかな。

 逆に言えば、それだけの年月がたっても新たな長となる魔獣が現れる可能性は低いんだもんね。


「おけ、わかった。

 ケルちゃんたちに伝えとくよ。

 本人たちがどっちも渋ったらどうするんだい?」


 本人が行きたくないなら行かないってのが魔獣なんだろうし。


「それは仕方ありません。

 そのときはまた他の手段を考えます」


「そかそか」


 無理やりとかは嫌だし、向こうも従う必要はないもんね。


「ですが、我々は長としての役割を各々自覚しています。

 きっと、色好い返事を聞けることと思います」


「そーなんだ。ま、とりあえず聞いてみるよ」


「ありがとうございます。宜しくお願い致します」





 その後、私たちは下らない話をだらだらして、もう一回トワ君の顔見てあたしが悶絶してから国に戻った。


 自分たちの国に戻って早速ケルちゃんとルーちゃんに長の話をしたら、


「あ、じゃあ私が行くわよ」


 と、あっさりルーちゃんが立候補してくれた。


「暑いのは嫌いじゃないし、砂漠に毒蜘蛛って雰囲気あるじゃない?」


「僕は暑いの嫌ーい」


「でしょうね」


 だって。

 たしかに、前はルーちゃんは寒い時期は冬眠とかしてたみたいだしね。

 てか、そんな軽いノリでオッケーなんだね。


「それに、一国に一人前の長がふたりは確かにバランスが悪い。

 今はまだ私とケルが一人で長をこなしてないからいいけど、長相当の実力を持つ魔獣が同じ場所に複数体いると、強い魔獣が生まれすぎる可能性があるのよ。

 アルベルト王国のときはアルが力をつけつつあったから、ある意味タイミング的にちょうど良かったのよね」


「あーそうだねー。たしかに、ちょっと面倒な奴らが出てきつつあったもんねー」


「そーなんだ」


 魔導天使にしろ魔獣の長にしろ、彼らはバランスをとにかく気にする。

 それが原因で世界が一度滅びたからなんだろうけど、ケルちゃんもルーちゃんもそれをきちんと分かってるみたい。


「まー、とはいえ、アナスタシアの寿命はまだ数十年後でしょ?

 それまでに一人で長をやれるようにケルとうまいことやってくわよ」


「やってくー」


「そかそか、ありがとね」


「ミサの子孫を守っていく役はケルに譲ったげるわ。その代わり、それまでの間ミサとたっぷり遊ぶのよ!」


「ずるーい! 僕もー!」


「わっぷぷ!」


 ふたりが胸に飛び込んでくる。


「心配せんでも、ふたりまとめて甘やかしたるわー!」


「きゃー!」


「わーい!」


 普通の人と同じ寿命になるあたしはふたりより確実に先に死ぬ。

 ふたりはそれを分かった上で、あたしの子孫をも守ってくれるつもりでいる。

 なら、一緒にいられる今のうちにいっぱい大事にしてあげないとね。

 もちろんアルちゃんも。




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