244.儀式は無事に成功!?と思ってたらぁぁぁぁーーー!!
「森羅万象に満ちる闇なる魔力よ。
我が呼び声に応え、その姿を現せ。
我はミサ・クールベルト。
集い集いて、束ね束ねよ……」
目を閉じ、両手を広げて、空に、大地に、世界に呼び掛けるように祝詞を紡いでいく。
「ミサ様……」
「素敵……」
「うちゅくちぃ!」
皆の息が漏れるような声が聞こえる。なんか変なのもいるけど。
だしょ?
素敵だしょ?
「……我が求むる姿を捧げよ……」
「キレイ……」
「カッコいい!」
「ちゅき!」
うんうん。
皆が尊敬の目で見てるのが伝わってくるよ。
『グアアアアァァァーーッ!!』
『ワォーーッン!』
『シャギャウ!』
『……ふしゅるる』
『キュワワンッ!』
『……ケ、ケーン……』
「おお! ミサ様の詠唱に魔獣の長たちも呼応しているぞ!」
「すごい! さすがはミサ様だ!」
「お、お、お、おでと結婚だべ!」
……うん。観てる皆が魔獣の言葉を理解してなくて良かったよ。
↓ 今の通訳ね。
『おい! まだか! メシはまだか! ワシはハラヘリだぞ! メーシ! メーシ!』
『ねー。僕もお腹すいてきた~』
『あんた、さっきまで屋台で死ぬほど食べてたじゃない』
『……まったくなのです』
『俺はもう飽きたぞ! イノス! もう帰っていいか!』
『……み、皆さん、ちょっと静かにしましょうよ……』
……うん。ホントに、言葉が分かんなくて良かった。
「日の元には影。影には闇。光がありゃるりて闇があり……」
あ、あとさ。
さっきからあたしがなんかカッチョいい呪文みたいの、あ、祝詞つってたっけ? を唱えてんじゃん。
ぶっちゃけ、これ、なんの意味もないからね、うん。
べつにそんなめんどいこと言わなくても魔力なんて集められるし。
なんなら覚えたセリフを思い出しつつ喋りながら魔力を集めるために集中しないといけないなら、余計な手間なだけだし。
なんなら、さっきちょっと噛んだしね。
それでも気にせず続けちゃう。皆、この厳かな雰囲気に包まれてて気付いてないから。きっとミカエル先生はすんごい顔でこっち見てるんだろうけど、目つぶってるし怖いから知らぬ。
なんでこんなことしてるかって?
そりゃ、っぽいからだよ。
やっぱり形式って大事じゃん?
厳かな感じを出して儀式に重要性を持たせるのです。ばーいミカエル。
あ、ちなみにこの文言はあたしとミカエル先生とシリウスで考えたのよ。
シリウスの奴がこういうの考えるの大好きみたいで、ちょうどいいアレな感じのセリフを組み立ててくれたのよ。
「……その証を刻み、闇なる力を顕現し、今ここに捧げん!」
うん。時間ぴったり。
詠唱が終わると同時にあたしの中で闇属性の魔力を集め終わる。
練習通りだね。
あとは、集めた魔力を外に放出して、球状に留める。
じつはこれがいっちゃんムズい。
形を保って、その状態を維持するって大変なのよ。
放出するときにそのまま霧散させちゃうときもあるし、最悪なのは形にできてもそれを維持できなくなって爆散するやつね。
そのときの爆発はたぶん、この場にいる全員をバラバラにしてもお釣りが来るのよ。ってグロいわ!
まあ、実際は魔導天使の皆さんが何とかしてくれるだろうし、魔獣の長の皆は自分で防御できるだろうから、たぶんバラバラになるのはあたしだけ。わーお。
先生たちは、たぶんそのために今回だけは様子を見に集まってくれたんだと思う。
「……」
広げていた両手を一回下げて、右手だけを天にかざす。
目は閉じたまま。
イメージが大事。
あたしの中に溜め込んだ魔力を掌から出して、おっきなボールにして空中に留めるイメージ。
「……ふー」
大丈夫。
何度も練習したからね。先生に叩かれながら。あの人、修行のときはホント鬼なのよ。
……ま、そのおかげで成長はしたんだけどね。
大丈夫。
心配しなさんな。
あたしはやるよ。
だって、あたしだからね。
「……ふんぬっ!!」
あ、気合いの声ぐらい許してね。
ほら。ひねり出すのには力むやん?
それと一緒よ。
「おおっ!」
「出たっ!」
「すごい! 大きい!」
「ミサたんの中からあんなおっきいのが!」
……うん。なんかひねり出すとか言ったから、皆の感想がアカン感じに聞こえる。
いや、べつにあたし便秘やないからね。
やれやれ。結局、最後までこんなんかね。
「……ま、できたからいっか」
目を開けて上を見上げる。
真っ黒なおっきい魔力の塊がゆっくりと回転してる。
うん。状態も安定してる。
黒い太陽みたいだね。
おっきさは、どんぐらいだろ。工事現場でビルとかドッカーンやる鉄球の4倍ぐらい? え、分かんない?
『うおー! きたー! 早く! 早く喰わせろー!』
リヴァイさんテンションマックス。
いや、ヨダレよ。最古の魔獣さん。威厳よ。
「はいはい。どーぞ」
あたしはその黒い太陽をリヴァイさんの方に放る。
右手の手首をちょいと返せば、それはスウッとリヴァイさんの方に向かっていった。
うん。コントロールも問題なし。
修行中はなぜか目標と反対方向に飛んで先生に直撃させたことあるからね。あのときの教育的指導は酷かった。
『ゥグンアーーーグッ!!』
「うわーお。ひとくち」
リヴァイさんは大口を開けたかと思ったら、とんでもない大きさの魔力の塊をひと呑みにした。
いやいや、明らかにリヴァイさんの口の直径よりおっきかったんだけど。どうなっとんねん。
『美味! ひたすらに美味!』
ま、ご満足いただけたなら良かった。
「お腹いっぱいになったかい?」
『うむ! これでまた1年はやっていけるぞ!』
「そら良かった」
また来年もよろしくね。
「……ふう」
ちょっと疲れたね。
さすがにあの規模の魔力を集めたのは初めてだしね。
「すごい!」
「わーわー!」
「ミサ様~!!」
「リヴァイアサンかっこいい!」
「……はは」
皆が喜んでる。
笑ってる。
楽しんでくれてる。
それだけで、頑張った甲斐があったってものだね。
この光景を守っていくためにも、毎年このお祭りは続けていかないと。
あたしの大事な人たち。大事な、この世界のために。
「ミサ。お疲れ」
「あ、シリウス」
儀式が終わり、シリウスとスケさんが壇上に戻ってくる。スケさんの隣にさりげなくクラリスも。
このあとは儀式の終わりを告げて解散。
お祭りは続き、夜まで騒ぎ通すことになってる。
「……ミサ。少し、待っててくれ」
「あん?」
シリウスはあたしの頭をポンとすると、マイクに向かった。
あれ? スケさんが締めて終わりなんじゃなかったっけ?
「……あーあー。皆、少し聞いてくれ」
シリウスがマイクに向かって話し始めると、歓声をあげてた皆は静かになる。
「……俺は、去年のこの頃にミサにプロポーズをしたんだ」
「は!?」
いや、こいつはなぜこのタイミングでその話を?
空気読め空気を。
「答えは保留になった。
ミサには大きな役目があったからだ。
そして、俺にもこの国を復興させるという大任があった。
お互い、やるべきことが重大だったのだ」
いや、まあ、まだ終わってないけどね。むしろこれからでもあるよ。
「……だが、こうしてそれが無事に一段落した今、俺は再びミサにぶつかってみたい」
あ、うん。なんか非常に嫌な予感。
あんたまさか、こんな大観衆の前で言わないよね?
え? まさかこの数の人たちが一斉にフラッシュモブし始めないよね? 踊り出さないよね?
それはちょっと怖すぎるよ?
「……ミサ」
「へ、へい……」
「もう一度言う。
愛してる。俺と結婚してくれ。
誰よりも幸せにすると誓おう」
い、言いやがったで、このバカ王がぁ~!!