243.さて、じゃあ始めようかね
「さあ! 魔獣の長が出揃った所で、さっそく今回の祭りのメインイベント。奉納の儀に移ろうと思う!」
皆の紹介が終わると、シリウスが話を進めた。
奉納の儀ってのはあたしが決めた儀式の名前ね。そういうの全然詳しくないけど、なんかぽいと思ってさ。意味違ってたらごめんね。異世界だから許してちょんまげ。
『おい! ワシの紹介はー!?』
あ、忘れてた。
「……ミサ。なんだかリヴァイアサンがうるさいんだが」
「あー、うん。まー気にしないでいーよ」
「そ、そうか?」
『おい! 気にせんか!』
なんかもうめんどいし、そんな空気じゃないやん? もうさっさと次のパートに行きたいのよ。
『あー、早く儀式を始めれば、早く魔力をいっぱい食べれるのになぁ~』
『……何をしとる! 早く儀式とやらを始めるんだ!』
……ふっ。ちょろいぜ。
「もう準備万端だから早く始めてくれって」
「わ、分かった」
皆が魔獣の言葉を分かんなくてホント良かったね。
魔導天使さんたちは分かるみたいだけど、今はここにいないしね。
あ、そうそう。ミカエル先生たち魔導天使は自分の国でお留守番なのよ。
王様やら王太子やら魔獣の長やら、各国のすごい人たちがここに集まるから、先生たちは国の防衛に回るみたい。
もうそんな良からぬことを考える人はいなそうだけど、システムの穴はない方がいいんだって。あれば、いつか必ずそこに付け入ろうとする輩が現れるからって。
んで、この国に来た主要人物は皆、スケさんの結界で護られてる。来賓扱いの王公貴族の人たちだね。その人たち全員に個別に結界張るとか超人すぎるよね。
ついこの前まで学生だったスケさんにそんなこと出来んの? って思うけど、どうやら魔導天使になった時にミカエル先生が何かしたらしい。ようはドーピングよドーピング。嫌がるスケさんに先生が無理やり……ふふふ。
あ、なんかスケさんがすごい顔してこっち見てる。先生がいないから代わりにスケさんがツッコミ役してるみたい。
ちなみに、その結界には位置管理の役割もあるみたいよ。ようは監視だよね。
護ってやるから余計なことはするなよってことみたい。
ま、なんにせよ、スケさんが立派に魔導天使しててスゴいよね。
今は他の魔導天使はそのままだけど、いつかはスケさんみたいに、ミカエル先生たちも人にその地位を明け渡すんだって。あ、これはあたししか聞いてないんだけどね。
世界が正常軌道に戻れば天使は元の場所に戻るんだって。そもそもそれが堕天使たちの贖罪条件だって先生が言ってた。
ま、少なくともあと50年はかかるから、それはまだまだ先のことなんだけど、皆少しずつ先生みたいに弟子ポジションになりそうな人を探そうとしてるみたい。
「よし! それでは奉納の儀を執り行う!」
「!」
おっと。考え事してたらもうスタートする時間になってた。
「ミサあとは頼んだぞ」
「ん。オッケーだよ」
「頑張れ!」
「ははっ! うん!」
シリウスとスケさんが壇上から降りる。
ステージにはあたしと魔獣の姿の皆だけ。
「……」
下を見下ろせば、クラクラするぐらいの大観衆があたしを見つめてる。
緊張してないかと言われれば嘘になる。
いや、むしろ大緊張しとる。
でも、それは観てる皆を大観衆だと思うからで、その一人ひとりを見てみれば、それはけっこう知ってる人ばっかで。
あ、ジョンてば、隣のお腹を抱えたシルバ先輩を支えてあげてる。
カクさんはクレアと周囲の警戒。背中合わせで。
イノスは優しくこっちを見守ってくれてる。
ハイドはヒナちゃんと何やらお喋りしてる。こっち見ろよリア充め。
カイルは、あたしじゃなくて壇上のフェリス様見てるでしょ。
「……あ」
んで、ステージ下にいるスケさん。その隣にはクラリスの姿が。こっちに手ぇ振ってる。かわええ。
その振ってない方の手がスケさんの手と繋がってるのをあたしは見逃してないよ。
……うまくいってるんだね。
「……ん?」
あ。建物の屋根の上。
下からは見えない位置に魔導天使の皆さんが。
ミカエル先生にサリエルさん。サマエルさんにアザゼルさん。
さては先生の転移魔法で覗きに来たね。
他の国の王様も、アルベルト王国のお兄ちゃん王子もいる。お父様とお母様、お兄様も。
そして……、
『頑張れ!』
「……ふふ」
シンプルで真っ直ぐな応援。
スケさんたちの隣で、真っ直ぐにこっちを見てる。
あれは何の心配もないって顔だね。
完全に信頼しきってる顔。
「……そんなに頼りにされちゃ、失敗なんて出来ないじゃないか」
万が一に備えて、このステージにはスケさんが強力な結界を張ってる。
あたしが集めた闇属性の魔力がコントロールしきれずに暴走して大爆発した時のために。
本当にそうなったらそんな結界じゃ防げないんだけど、あたしの心を少しでも軽くするための配慮みたい。
「やれやれ。心配させちゃってるね」
世界の命運をかけた儀式。
どこまでも手厚くしたくなる気持ちは分かる。
ま、あのバカ王はそんな心配してないみたいだけど。
『ミサ』
「!」
アルちゃんに声をかけられて振り返ると、魔獣の長の皆が。
おっきなステージが狭く感じるぐらいにおっきな皆。
ケルちゃん、アルちゃん、ルーちゃん。
タマちゃん、フェリス様。
リヴァイさんだけはステージの奥でうねうね。
『ミサ。私は……いえ、私たちは貴女に出会えて良かったのです』
「!」
『今ここに立っているのが、ミサで良かった』
『アルちゃん……』
そんなこと……。
『こちらこそすぎるよ。
皆がいなきゃ、今日という日を迎えることはできてない。
皆がいたから、世界は救われる。
ホントに、あたしと出会ってくれてありがと』
『……うん!』
あたしは恵まれてるよ、ホント。
「……ふぅ」
大観衆に背を向けて、アルちゃんたちの方を向いたまま目を閉じる。
意識を集中して、世界に満ちる膨大な魔力を感じる。
「……森羅万象に満ちる闇なる魔力よ……」
そうして、あたしは祝詞を唱え始めたんだ……。