240.そうして1年後パティーン。で、さらにそのパティーンね
てなわけで、1年後にワープ! な今日この頃なわけですが、今日は約束のお祭りの日。
新しい国のアピールのためにも、今回はシリウス国王主催での開催と相成ったわけよ。
どうやら毎年、各国が順番にお祭りの主催をやることにしたみたい。皆の友好とか平和とかを示すために。
まあ、実際問題として、経費もかかるけど費用対効果は凄まじいわけで。経済効果としては戦争なんかするよりよっぽど儲かるみたい。そういう各国の打算も視野に入れてるのはさすがだよね。
んで、ずっとアルベルト王国で鬼先生に修行させられてたあたしは久しぶりにアルちゃんと一緒に元帝国、この新しい国に足を踏み入れたってわけ。
ま、今はもう結界もないし、国境にある関所で必要書類見せて手続きするだけで行けるんだけどね。あ、ちなみにアルベルト側の関所の責任者はお兄様だよ。
「うぇーい! 祭りじゃ祭りじゃー!」
んで、国に入って整備された街道を通ると、もう国中はお祭りモードなわけで。アルベルト王国との国境でもある元帝国側の森は一部を切り開いて街道にしてあるんだ。交易とかもやりやすくなるしね。ちゃんとシリウスがケルちゃんとルーちゃんと交渉したらしいよ。魔獣側の参謀としてアルちゃんも同席して。
「……ミサ。おすわりなのです」
「わふん!?」
んで、あたしってば懐かしいお祭りの賑やかさにテンションマックスではしゃぎ倒そうと思ってたら、いきなりアルちゃんに地面に叩きつけられたわけで。
アルちゃん。重力魔法はアカンて。
いつそんなん覚えたん?
てか、なんだかこの1年でアルちゃんにだいぶ躾られた気がするのですが?
「ミサ? なんで地面にへばりついてんだ? 趣味?」
「……いや、ジョンさんや。さすがに趣味ではないやろ」
あたしが地面さんと熱い抱擁をしてると、あたしたちを迎えに来たジョンがきょとんとした顔で現れたのよ。
「ああ。アルビナスか。悪いが、ミサは一応今回の主役だから解放してやってくれないか?
どうせミサがやらかそうとしたんだろうけど、警備的にも絵面的にもよくないから」
「むう。仕方ないのです」
「わふっ」
ジョンに言われてしぶしぶ重力魔法を解除するアルちゃん。あたしはようやく愛しき地面ちゃんの抱擁から解放されるのでした。
てかジョンさん。あたしが元凶決め撃ちは酷くないかい? 正解だけど……。
「久しぶりだな、ミサ」
無事に解放されたあたしにジョンは手を差し出してくれた。
「うん。そだね」
その手を掴んで体を起こす。地面さん、またね。
「……その格好。今日のお祭りの警備かい?」
改めてジョンの格好を見てみると、軽鎧を身に付けて帯剣していた。肩にはこの国の新しい国旗と同じ紋章が刻まれてる。
「ああ。一応、今回の警備隊長を任せてもらってるからな。主役であるミサの護衛のために、俺がミサにつかせてもらう」
「あ、そなんだ!」
1年前。
シルバ先輩と一緒に学院を中退し、シリウスの国に移住したジョンは無事に騎士に任命された。
騎士団長は帝国時代に、船で海上に逃れていた民の護衛としてついていた騎士の人がなったけど、その人のもとで1年間みっちり仕事を頑張って、今回見事に警備隊長を任せてもらえたみたい。
なんだか顔つきも立派な騎士って感じだね。
帝国の人たちは最初は戸惑ってたけど、わりとあっさり新しい王と国を受け入れたみたい。なんとなく、いつかはそうなる気はしてたのかね。
「そういや、シルバ先輩とは結婚したんだよね?」
「ん? ああ、まあな」
そうそう。なんでも、この国に移住した途端にシルバ先輩の方からプロポーズしてきたんだとか。まあ、そのつもりで2人で移住したんだから当然ではあるんだけど、相変わらずアグレッシブな人だね。
「じつは今、シルバのお腹には新たな命が宿ってる」
「ええっ!? ベイビーちゃんかい!?」
「そういうことだ」
うわーお。
「そりゃおめでとう!!」
「ありがとう」
うんうん。喜びを噛みしめるような表情。幸せのお裾分けあざます!
「そっかー。ジョンもパパさんだ。
んじゃあ、ますますお仕事頑張んなきゃだね」
「ああ。シルバと生まれてくる子のためにも、この国を安全で安心できる国にしないといけない。
俺の剣は護る剣だ。
国を護る騎士の剣として、俺は俺の力を振るう」
ジョンはそう言うと、腰に差した剣をスラリと抜いた。
「この剣に懸けて誓う。
俺はこの国を護るために全力を尽くすと」
「……そっか。頑張ってね」
「ああ」
ホント、立派になったねぇ。
「……ミサ」
「んあ?」
「出来ることなら、ミサもこの剣で護るべき存在になってくれたら嬉しい。そもそも、最初はそのためにこの国に来たわけだしな」
「……」
「……もう、答えは出したんだろ?」
「……まあ、ね」
そういうことね。
シリウスの想いにどんな答えを出すにせよ、あたしはこの国に来るつもりだ。
でも、ジョンは騎士として、王妃たるあたしを正式に護っていきたいと思ってるってことだね。
「……いま答えを聞くのはナンセンスだな」
ジョンはふっと薄く笑うと、剣を再び鞘に戻した。
「この国に来るのは久しぶりだろ?
皆の復興の成果をぜひ見てくれ。そして、今日の祭りを盛大に楽しんでほしい」
「うむ! そうしよう!」
まずは楽しむ! あたしたちが楽しんでないと皆も楽しめないからね!
うぇーいうぇーい!
「……ミサ。おすわり」
「わふぅ……」
「やれやれ」
え? さっきもこんなシーン見たって?
そうだよ。はしゃぎすぎたあたしがまたアルちゃんに躾られてるんだよ。
いやさ、食べたいものいっぱいすぎて手当たり次第に買って食べたわけよ。
お祭りっていえば縁日やん? あたしが前世の記憶を全開にして皆に焼きそばとかたこ焼きとかいろいろな知識を提供しまくってさ。見事にお祭りになったわけよ。ま、それはそれで先生に手酷い折檻を受けたんだけど。
で、その成果を存分に味わって、ついでに幸せそうなカッポーに絡んで、酔っぱらって暴れてるおっさんをとっちめて、なぜかそのおっさんと仲良くなって皆で酒盛りになって。あ、この世界では16ぐらいからアルコールオッケーなのよ。
んで、途中からなんかよく分かんなくなって、気付いたらあたしは再びアルちゃんによって地面さんと熱い抱擁をすることになったのよ。
「ったく。こうなると思ったよ」
「ご丁寧に闇魔法で私たちを撒くなんて、修行の成果の無駄遣いなのです」
「くぅ~ん」
ごめんちゃい。もうおとなしくするから解放してあげて、あたしを。
「ふう。えらい目に遭った」
「こっちのセリフなのです」
「右に同じ」
アルちゃんに酔い醒ましの魔法をかけてもらって、ようやく復活。
「ミサ」
「ん? あ! カクさん! クレア!」
復活したところでカクさんクレアカッポーが合流。
2人とも軽鎧を身に付けて帯剣してる。
「2人は今日は警備のお手伝いかい?」
「ああ。シリウス国王から正式に協力要請を受けたからな。ゼン殿下の采配でクレアも一緒に任につけていただけた」
「ま、私はアルバイトだな」
「そっかそっか」
カクさんは学院をきちんと卒業して騎士になった。クレアはまだ学生だけど、バイトとしてカクさんの仕事を手伝ってるみたい。
カクさんは正式に騎士になっても、孤児院の方にもちょくちょく顔を出してる。やっぱり騎士の出入りが頻繁にあると悪巧みしようとする大人も来ないみたい。
『ゼン殿下から、今後も孤児院には足を運ぶようにと言われたからな』
ってことらしい。
ま、カクさん自身もクレアと一緒にいられるし、子供たちと過ごすのは好きみたいだからウィンウィンだね。良いパパになるよ、ホント。
「俺たちは本番まで巡回警備だ。ミサも、羽目を外しすぎない程度に楽しんでくれ」
「うぐっ」
「……その様子だと、もうやってしまってアルビナスにお仕置きされたみたいだね」
おっしゃる通りです、クレア姐さん。
2人は忙しいみたいで、そのあと軽く話すとまたお仕事に戻っていった。
「ミサミサミサミサミサミサっ!!」
んで、またしばらく街を練り歩いてると、なぜか突然バカ王が登場したのよ。
「なぜいる!?」
「ミサのいるところに俺様がいる!
そこに理由などない!」
「キモす!」
「ぷぎゃぽけっ!?」
顔面に拳をめり込ませると、バカ王はお付きの騎士たちに連行されていった。
どうやら無理やりやって来たらしい。
いやいや、あんたは普通最後に現れるパティーンやろ。普通に街を楽しむシーンで現れんな。
ロマンチックの欠片もない奴だね、ホント。スケさんを見習ってほしいよ。
ま、1年間アルベルト王国で修行してたからって言っても、あのバカはちょいちょいあたしに会いに来てたからまったく久しぶり感はないんだけどね。
「……ミサ」
「あ! イノス!!」
バカが消えて、またしばらく街を散策してると、今度はスノーフォレスト王国のイノスが現れた。真っ白で、相変わらず無垢な美しさよ。
「むう?」
「な、なんじゃい」
イノスと対面したら、でっかい鎧男があたしの前に立ちふさがった。
あ、てか、この人知っとるわ。捕まって寝てるときに視た映像でいた。
「あ、タマちゃんか」
「なんだ、バレていたか」
全身甲冑の鎧男がフルフェイスの兜を取る。
中身は北の魔獣の長のタマちゃん、の人間バージョン。
「せっかく驚かせようとしたのに、つまらんの」
「タマモ。お小遣いあげるからこれで好きなものを食べてくるといい」
「おっ! さすがはイノス! 分かっとるの!」
イノスからお小遣いをもらうと、タマちゃんはこちらを見向きもせずに雑踏に消えていった。
「彼がいると話が進まないからね」
「見事にあしらってるねぇ」
タマちゃんはスノーフォレストの王様のことはあんま好きじゃないみたいだけど、イノスにはけっこう懐いてて仲良いみたい。
「でも、護衛のタマちゃんをどっかやって良かったのかい?」
他に護衛は連れてなさそうだし。
「問題ないさ。サマエルの動物たちが必ずどこかで監視してるし、タマモもそう遠くには行かないだろう。僕に危害を加えようとする輩がいても、その手が僕に届く前にタマモや動物たちが僕を守る」
「うーむ。安定の過保護っぷりだね」
もはやイノスが開き直ってそれを利用してるまであるよ。
「……僕は帝国との戦いで自身の兵器としての価値を世に知らしめてしまったからね。本当はあんなこと、ミサの膨大な魔力をタマモを経由して拝借しないと不可能だけど、それを理解しない者もいるだろうから。ある程度の過保護は我慢しないと」
「あー、そっか」
イノスてば、帝国中に隕石ぶち落としてボコボコにしたもんね。ようは、それを悪用しようっていうアホに変なことされないように過保護してるわけね。まあ、サマエルさんは元からだけど。
「あ、それよりさ。イノス今度王様になるんでしょ? おめでと!」
「ん? ああ。ありがとう」
そーそー。イノスてば、お父さんがもう引退するからってことで、新しくスノーフォレストの王様になるのよ。
「父からしたら、今回のことは王位継承のための戦果としては十分だという判断になったのだろう。星雪祭もひとりで儀式を行ったし。
あの人はさっさと引退して母とゆっくりしたいとずっと言っていたからね」
「あ、そなんだ」
イノスのパパママとは1回しか会ってないけど、穏やかな見た目に反してけっこうな策略家なイメージだったけど、無理してそうしてたのかもね。
ま、イノスならタマちゃんとも仲良いし大丈夫でしょ。
「頑張ってね!
また星雪祭に行くの楽しみにしてるから!」
「ああ。まずはその前にミサが頑張らないとだけどね。今日の儀式、楽しみにしてる」
「そ、そやね」
なんかそう言われると緊張してきたわ。
「てか、王様になるならイノスもそろそろ結婚しなきゃなんじゃないの?」
後継ぎとか必要やん?
「……そうだね。僕自身はあまり興味ないんだけど、王としてそうはいかないから」
たしかにイノスってあんまそういうイメージないかも。
「……本当は、ミサがそうなってくれれば……」
「ん? なんて?」
ぱーどん?
「……いや、なんでもないよ」
「そすか?」
「ま、それは気長に探すよ」
「ん。それでいいんじゃないかね」
結婚なんてもんは無理してするもんじゃないからねぇ。
「じゃあ、僕はもう行くよ。そろそろタマモのお小遣いが底をつくだろうから」
「早くね?」
イノスはそう言うと静かに去っていった。
「!」
その後ろを猫ちゃんとか鳥さんとかがついていくのが分かった。新しい王様を頼んだぜ、皆。
……てか、もしかしてこれ、皆と会うイベントやる感じ?
1年たって成長した皆との再会をしながら現状報告するぜ的な?
「あ、ミサ」
「おおう。ハイド氏」
あ、そのパティーンだ。




