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234.お母様とお父様の前世の話を聞いたら運命感じた件

「……私はね、前世では普通の大学生だったのよ」


「え、若っ!?」


 お母様そんなキャピキャピルンルンだったん!?

 てか、逆に言えばそんな若くして亡くなったのかい? ん? てか、あたしって死んじゃってこっちの世界に来たんだよね? 転生ってそういうことだよね?


「ん? でも、永遠の愛を誓ったって、彼氏さんとかってことかい?」


 いや、べつに若さがどうこうとかってわけじゃないんだけどさ。結婚してたとか、そういうことじゃないってことかね。


「いいえ、旦那よ。学生結婚してたの」

 

「ほ、ほほう」


「子供もいたわ。女の子。デキ婚ってやつね」


「うわーお」


 お母様、イケイケゴーゴーだったのね。

 それは果たして普通の大学生だったと言うのかね。


「……でも、結婚して2年目。子供が1歳半の時に、私は死んだわ」


「……そっか」


 あたしが転生したように、お母様たちもそうだったんだもんね。

 あたしは旦那にも先立たれてたし子供もいなかったから、そこまで前世のことに執着があるわけじゃなかったけど、お母様はそんな若い時に、しかも子供もまだちっちゃかったのにこっちに来ることになっちゃったんだね……。


「……私たちはこちらの世界に同じ時間、同じ場所に降り立ったんだけどね。

 彼女は当時、その事実をしばらく受け入れられなかったんだよ」


「……そりゃそうだよね」


 いきなり知らない世界に、しかも自分じゃない姿で転生させられて、おまけに向こうに旦那と子供を残してたら、そりゃもうこの世界で生きていく、なんてどうでもいいし考えられないよね。

 そういや、あたしはこの世界に来たときどんなんだったっけ? なんか、そっからが濃すぎてスタートをもう忘れてるんだけど。

 でも、それはたぶんこっちの世界に来てすぐにお父様とお母様が私を助けてくれたからなんだろうね。

 もしもそうじゃなかったら、あたしは身分も何もない状態で1人で生きていけないといけなかったわけだし。


「……私はね、事故だったのよ。

 家で旦那に子供の面倒見てもらってる間に買い物しに出掛けてて、それで、帰り道で川で溺れてた女の子を助けようとして……。

 なんだかその子が、ウチの子が成長した姿と重なってね。そう思ったら、勝手に体が動いてたわ。そんなに泳ぎは得意じゃなかったのにね」


 お母様は困ったように笑ってた。

 こんな顔のお母様は始めてだね。お母様はいつも凛々しくて、しっかりしてて、カッコよくて。

 まるで、あたしが憧れた人みたいで。


「そこで私の意識は途切れちゃって、気付いたらこっちの世界にいたわ。

 だから湖で自分の姿を見ても現実を受け入れられなくて、これは夢なんだって何度も自分に言い聞かせたわ」


「……何度も崖から飛び降りようとする君を止めるのは大変だったよ」


「ふふ。あのときはごめんなさいね」


「いや、いいんだよ……」


 ……そうだよね。

 夢なら覚めてよって自暴自棄になる気持ちは分かるよ。

 家で愛する旦那と子供が待ってるんだもんね。

 早く帰らないと心配しちゃうもんね。


「……結局、私はそこで死んじゃったから、助けようとした子が無事だったかどうかも分からないままなんだけどね。

 せめて、その子だけでも無事だったらいいんだけど……」


「……そっか」


 自分がそんなことになっても、助けようとした子のことを心配しちゃうのがお母様らしいよね。

 自分はもう、愛した家族には会えないって言うのに……。


 あ、そういや。


「そういえば、あたしもね、ちっちゃい頃に川で溺れたことがあってね。その時に女の人に助けてもらったことがあるんだよ」


「あら、そうなの?」


「うん。その人はあたしを抱えたまま岸まで頑張ってたどり着いたんだけど、あたしが溺れないように懸命に持ち上げてくれた代わりに自分がお水をいっぱい飲んじゃって、残念ながら亡くなっちゃっんだ……」


「……そうなのね」


「うん。

 でね。あとでその人の旦那さんとお子さんに会ったんだけど、その人は泳ぐのが得意じゃないのに川に飛び込んだんだって。

 だからあたしはね、我が身を省みずに無我夢中で飛び込んで救ってもらったこの命を、その人を見習って生きていこうと決めたんだ。

 あたしのこの命は誰かを助けるためにある。

 あたしを助けてくれたその人の分まで、あたしは誰かを助けていこうって、その時に、あたしは胸に決めたんだよ」


「……今のミサのルーツになる出来事だったのね」


 その人の写真を見せてもらったけど、すごい綺麗でカッコいい人だったのは覚えてる。

 お母様もおんなじようなことをしてたなんて、なんか運命みたいだね。


「……てかさ」


「ん? どったのお兄様?」


「それ、お母様が助けたのってミサなんじゃない?」


「……へ?」


「……え?」


 お兄様の爆弾投下にあたしもお母様もポカン。


「私もそれは思った」


 あ、お父様もですかい?


「……え? そゆこと? どゆこと?」


「……ミ、ミサ。あなたが溺れた川って、もしかして……」


 お母様が聞き覚えのある川の名前を口にする。


「……そだね。バッチリそこやね」


「……ウソ」


「そんなことある?」


 いや、だとしたらそれはきっと私たちをここに導いた誰かの意思なのかね。


「……待って。旦那と子供に会ったって言ったわよね?」


「あ、うん。あたしが入院してるときにね……わっ!」


「教えて! 2人は、2人はどうだったの!?」


 お母様が突然、あたしの肩をつかんでぐわんぐわんしてきた。

 話す。話すからぐわんぐわんやめて!


「落ち着きなさい。それではミサも話せないよ」


「あ、ご、ごめんなさい」


 せんきゅーパピィ。 

 でも気になる気持ちは分かるよ。


「えっとね。女の子の方は、たぶんまだよく分かってなかったみたいだね。

 なんでここにいるの? この人だれ? みたいな感じで」


「……そう、よね」


「旦那さんの方は、けっこう憔悴してたかも。まあ、いきなり奧さんが死んじゃったんだからそうだよね」


「……そっか」


「でもね」


「?」


「旦那さん。一度もあたしを責めたりしなかった。あたしを助けようとしたせいで奧さんが死んじゃったのに。

『君が無事で本当に良かった』

 なんつって涙ぐむんだよ。

 あたしももう号泣よ。

 申し訳なさと、改めて助かって良かったってのと、その人が死んじゃったのと。いろんな感情がごちゃ混ぜになってね」


「……そう。あの人らしい、わね」


 お母様は少しだけ優しく微笑んだ。

 あたしの話が、少しでもお母様の心を軽くできれば。


「……んでね。そのあとも、あたしは2人とはよく会ってたんだ」


「え?」


 お母様は驚いたような顔をした。


「あたしを助けてくれた人にお線香あげたりしたかったし、旦那さんにも、良かったらあたしの成長していく姿を見せてやってほしいって言われてね。

 何かあるたびに2人が暮らす家にお邪魔したんだ」


「そうだったのね……」


「んでね、お子さんが大きくなるにつれて、あたしとまるで姉妹みたいに仲良くしてもらって、よくあたしの家族とそっちの家族とで遊んだりもしたんだ。

 で、お子さんがある程度物事を理解できるようになった頃に、お母さんがあたしを助けようとして亡くなったことを説明したんだ」


「……わざわざ言わなくてもいいのに」


「隠し事はしたくなかったからさ」


「まあ、ミサらしいけどさ」


 おかげさまでね。


「そしたらね。

『お姉ちゃんが無事で良かった』

 なんつーわけよ。

 もうあたしもお父さんも号泣よ。

 ホント、良い子に育ってくれて」


「……良かった」


 お父さんとお母さんのおかげだよね。


「……でね。2人とも、私がこっちに来るまでちゃんと幸せに生きてたよ。きっと、今もね。

 旦那さんの方は再婚とかはしてない。毎日欠かさず仏壇にお線香あげてたみたい。

 で、お子さんは成長して結婚して、子供もできて、お父さんと同居してて、皆で幸せに暮らしてるよ。

 あたしとは親友みたいな関係かな」


 ちなみに、ちょいちょい出てきた姪っ子ってのはここの子供ね。

 ホントは血は繋がってないけど、あたしにとっては家族みたいなもんだから。


「……そう……そっかぁ。

 うん、うん。そっか……良かった。

 うん。良かったわ」


 お母様は何度も良かった良かったって頷きながら涙を流した。

 ずっと気がかりだったんだろうね。


「……ところで、なんでミサは川で溺れてたんだい?」


 おお。お兄様。

 突然空気読まずにぶっ込んできたね。そういうとこだよ。


「……えーとね」


 やっとお母様の懸念点がなくなって感動の展開中に、そもそもの部分に突っ込まれて答えづらいね。


「……猫を、ね」


「猫?」


 そう。キャット。

 食肉目ネコ科ネコ属のイエネコさん。


「猫が溺れてたのを助けようとして。飛び込んでから自分が泳げないことを思い出してね。

 ま、その猫さんはあたしが飛び込んだことにビックリして自力で川から脱出してたんだけどね」


 いや、ホント情けない限りよ。


「……ふふふ。私とおんなじじゃない」


「あー、たしかに」


「ミサも母さんも、人助けはほどほどにしてよね」


「そうだな。それで自分が死んでしまったら元も子もない」


「「面目ない」」


 上手にハモったあたしとお母様は顔を見合わせて笑った。

 あたしのせいでお母様は死んじゃったんだから、あたしを責めたっていいのに。

 でも、そんなことはしないお母様だからこそ、旦那さんもあの子も、あんなに優しいんだろうね。


「……しかし、猫か」


「お父様?」


「いや、私は道路に飛び出した猫を助けようとしてトラックにはねられてしまって、こちらの世界に来たんだ」


「まさかのトラック転生かい」


 んなラノベの異世界転生の定番みたいなことしてたのね。


「もしかしたら、そのときの猫がミサの助けようとした猫だったのかもな、なーんて」


「やだわ。そんなまさかー」


「だよな。はっはっはっ!」


 いやー、なんかもはや、それさえまさかって言えないのが怖いよね。

 なんなら、その猫さんがもうそういう存在で、あたしたちを導いてたんじゃないかとさえ思っちゃうよね。え? どうなんだい? 怪しいメイドさんよ?


「てか、お父様の方はどんなんだったの?

 なんか話的に、お父様の方はわりと転生のことを受け入れてる感じだけど」


 動揺してるお母様を頑張って宥めてたみたいだし。


「ん? 私はまあ普通だよ。

 私は普通の社会人だったんだ。年齢は二十代後半だね」


「……2人ともけっこう若いよね」


 あたしよりバッチリ年下なんだけど。


「勤め先はいわゆるブラック企業ってやつでね。朝から晩まで働いて、帰れないことなんてしょっちゅうで。

 当然、結婚はおろか、恋人もいたことなんてなかったよ」


 ……なんか、ご苦労様です、ホント。


「その日は久しぶりの帰宅でね。

 心身ともに疲れてて、早く帰って寝ようと思ってたんだ。

 でも、ふと気付いたら道路の真ん中で猫が震えてて、で、そこにトラックが突っ込んできてて、考えるよりも先に体が飛び出しててね。

 猫を突き飛ばしたところで私の意識は途絶えたんだ」


 なんか、お父様は定番のラノベ主人公みたいな人生だったんやね。

 それ、転生したらチート能力でハーレムで無双でウハウハのパターンのやつやん。


「まあ、そんな人生だったから、正直転生したって分かった時は心が躍ったよ。

 そういう小説とか大好きだったからね」


 うん。気持ちは分かるよ。


「でも、隣にいた美少女はなんだかうちひしがれた様子でね。それどころじゃなかったんだ」


「そのときは本当に、迷惑かけたわね」


「いやいや。いいんだよ」


 そっか。お父様たちは本当に同じタイミングで転生したんだね。

 2人セットでこの世界を救うために転生した、みたいな話だったもんね。


「それで話すうちにどうやら2人とも転生したんだってことが分かって、湖で自分たちの姿を確認して、さてこれからどうしようかってところで……」


「私が湖に身投げしたのよね」


「そうそう」


「おおう」


 なに普通に思い出話みたいにしてんの?

 重さが重すぎてこちとら沈みそうなんだけど。


「あの時は焦ったよ。

 慌てて飛び込んで助けてね」


「私は夢なら早く覚めてよって思ってたもの。水の冷たさも苦しさも本物なのに、それを信じないで。

 で、なんで邪魔するのって、この人を思いっきりぶん殴って」


「あれは痛かったなー」


 ……なんか、どっかで聞いた展開だね。

 どっかで、転生した誰かもどっかのバカ王子をぶん殴ったりしたことあったよね。


「そのあとも、私は何度も飛び降りようとしてね」


「そのたびに私が止めて、君に殴られてね」


 いや、重いのよ。

 気持ちは分かるけど、バイオレンスあんどヘヴィーなのよ。


「で、まあ、これはこのままじゃこの人は本当に危ういって思ってね。

 私が人生をかけてこの人を支えていかなきゃと思うようになるのに、そう時間はかからなかった」


「そっか」


 なんか、皆いい人よね。

 あ。あたしも含めてね。なんならあたしが一番いい人だから。そうでしょ? そうだよね? 文句ある?


「でもさ。前世にそんな大事な家族がいるお母様が、どうしてお父様と一緒になろうと思ったんだい?」


 それはなんだか、今のあたしと少し似てるよね。


「あー、それはだね~……」


「ん?」


 その話題になると、お父様はとたんに歯切れが悪くなった。

 なんだか気恥ずかしいみたいな、照れてるみたいな感じで。


「ふふふ。この人ったら、とにかく毎日私に愛を伝えて求婚してきたのよ」


「おお。情熱的」


「最初は鬱陶しくて何度もぶん殴って撃退したわ」


 うん。あたしでもする。


「それでもね、この人は諦めなくて。

 何度も何度も私に『好きだ。愛してる。一生大切にする。俺が君を守る』って」


 ……あっちの世界じゃ捕まっとるよ、お父様。


「それでね。根負け、って言うのかな。

 なんか途中から、それが可愛く思えてきちゃって」


「……そうする以外に想いを伝える方法を知らなかったんだよ。前世じゃ恋人どころか告白さえしたことなかったんだから」


 ……たしかにそれはちょっと可愛いかも。


「でも、決め手はあれかな。


『あっちの世界に誰よりも何よりも愛する人がいても構わない。俺はこっちの世界でもあっちの世界でも、誰よりも君が好きだ。

 あっちの世界で愛すると決めた人を今でも愛し続けるような君も大好きだ。

 そんな君も含めて、俺は君の全部を愛してみせる』


 そんなことを、真面目な顔して言うのよ?

 私は、それでこの人に完全にやられちゃったわね」


「仕方ないだろう。本音なんだから」


「ふふふ。そういうところよ」


「ど、どういうところ?」


「そーゆーところ」


「???」


 あー、その続きはあたしたちの見てないところでやってちょうだい。


「ミサ」


「ん?」


 お父様の腕に絡み付いたお母様が優しくこっちを見る。


「これは私が出した答え。

 あなたはあなたで考えるといいわ。

 あなたにはあなたの愛し方があるでしょうから。

 でも、私はこっちでお父様と一緒になったことを後悔してないわ。

 あっちに残した家族のことは気がかりではあったけど、それもミサのおかげですっきりしたし。

 私的にはあっちの旦那が再婚してても全然構わなかったわ。むしろそれで幸せになってくれるなら良かった。

 まあでも、そうじゃなくても幸せでいてくれるならいいんだけどね」


「……うん。幸せだと思う」


「ならいいわ。

 愛する人には幸せでいてほしい。

 そこに自分がいられないなら、なおさらね。

 私には死者の代弁なんてできないけど、少なくとも私はそう思うわ」


「……うん」


 一回死んじゃって、向こうに家族を残したまま転生したお母様だからこそ言えることだよね。

 あたしの旦那も、なんだかそんなことを言いそうな気がするよ。

 俺のことなんて気にするな、なんて。

 そういう人だってことは、あたしが一番分かってる。


 ……でも。


「だからこそ、その気持ちを大切にしたい、と思うのよね」


「!」


「他の誰かを愛して、永遠の愛を誓った人を忘れるのが怖い、って」


「……そう、だね」


 お母様はあたしが考えてることを的確に言葉にしてくれた。

 そう。あたしは怖いんだと思う。

 ただでさえ、この姿になって前の世界でのことが自分のことのように感じなくなってるのに、この世界でそういう人ができて、向こうで愛した人のことも忘れてしまうんじゃないかってことが。


「大丈夫よ。忘れたりなんてしないから。

 あの人のことも、我が子のことも、いつまでもずっと、私のここで輝いてるもの」


 お母様はそう言って自分の胸に優しく手を置いた。


「だからね。

 一度、そういうのを全部抜きにして、あなたに愛を向けてくれる人のことを見てあげてみてもいいと思うわ。話を、ちゃんと聞いてあげてみるといい。

 その上で、あなたがどんな答えを出そうとも、私はそれを支持するわ」


「私もだよ」


「俺もだ!」


「……皆……ありがとね」


 そうだね。

 いつまでも逃げ回ってても仕方ない。

 それに、そんなのはあたしの柄じゃない。


「……うん。あたし、ヤツにぶつかってみるよ!」


 勢いつけるために握り拳を掲げてみる。


「……ミ、ミサ。拳は振り上げちゃダメよ。殴ったら痛いわよ」


 うん。お母様に言われたくはないね!




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