231.五国の誓い、ってなんかカッコいいよね
「終わったか?」
「あ! お兄ちゃん王子!」
バラキエルさんがツユちゃんに連れられて消えると、お兄ちゃん王子がやってきた。
え? タイミング良すぎん?
もしかして家政婦みたいに覗いてた?
まあっ! ってやつ? それともミタさんの方?
「兄上……」
「ん?」
ウチとこの王子が、バラキエルさんが海上に帝国の民と魔獣を逃がしたことを伝える。
お兄ちゃん王子は少し驚いた様子だったけど、
「……そうか」
って言ってすぐに動いてくれた。
同行してた兵士さんたちに伝えて回収、保護するみたい。
バラキエルさんに頼まれてたし、悪いようにはしないんだろうね。
「彼らは大事な民だ。くれぐれも丁重に扱え。
……クラリス。スケイル。おまえたちも同行しろ。王族がいた方が説得力がある」
「わかりました」
「承知しました」
お兄ちゃん王子は兵士さんたちに念押ししたあと、クラリスとスケさんもそれについていくように告げた。
2人もすぐに返事したから納得してるみたい。
愛しのクラリスたんを連れてかれちゃうけど、お兄ちゃん王子にとって憎っくきスケさんを同行させるぐらいだから、きっと戦略上必要なことなんだろうね。
クラリスたちは兵士さんたちに続いて部屋を飛び出していった。
「おっと!」
「きゃ! あ、すみません」
「わー。すごい所だね」
部屋を出るとき、クラリスが誰かにぶつかったけど急いでたから軽く謝ってすぐに走ってっちゃった。あたしもクラリスたんにぶつかりたい(小声)。
「て、え? イノスとハイドじゃん」
「やあ。久しぶり」
「俺たちもゼン殿下に呼ばれて来たんだ」
「お兄ちゃん王子に?」
クラリスたちとすれ違いで部屋に入ってきたのはスノーフォレスト王国とリヴァイスシー王国の王太子であるイノスとハイドだった。
「各国の主要人物が一堂に会する機会などそうないからな。
ちょうどいいから今ここで決めてしまおうと思ったんだ。
俺は父上からその裁量権も奪……与えられてきている」
「決める?」
何を?
てか、今絶対奪ってきたって言おうとしたよね。
なんか絶対重要な決め事を王様抜きで決めようとしてるよね。
「ああ。帝国のあったこの地を、誰がどうやって治めていくか、だ」
「ああ、そっか」
皇帝さんがいなくなって、バラキエルさんもいなくなって、ここはもう帝国じゃなくなるんだね。
だから、その代わりに誰かがここを復興させないといけないわけだ。
「でもそういうのって、まずは連合軍で復興させるんじゃないのかい?」
利権とかいろいろ絡んでくるだろうし。
「その通りだ。
ミサ嬢は意外と分かっている時もあるんだな」
だしょ?
あたしゃ出来る女だからね。
てか、意外とってどゆこと?
「まずは連合軍の手で損壊した街を修復。ライフラインの復興。
魔獣を森に放って生態系の回復。
国としての再建は、そもそもこの地の全体的な地図を作るところから始めなければならない。
海上に避難していた民たちへの簡易住居や当面の食糧の確保。名簿の作成。正式な居住地の割り当てや仕事の割り振りなどなど、やることは膨大だ」
「なかなか頭が痛くなるね」
一から国を作っていくようなもんだね。
「そのためにもまずはリーダーを決める必要がある。言うなれば初代国王だ。
この地を暫定的な王国としてまとめあげるためにな。
でないと治安の維持も難しくなる。
法がなければ人はすぐに道を外れるからな」
「なるほどねー」
たしかに、道しるべがないとどうしていいか分かんないもんね。
それでアカン方に進もうとする人が出てもおかしくないよね。
「てか、お兄ちゃん王子がやれば良くない?
一番ちゃっちゃとやりそうじゃん。
連合軍の大将だったんだし」
有無を言わせずにがんがん進めそうだけど、それぐらいの方がいいのかも。
「俺はアルベルト王国の王太子だ。
自国を長く離れるわけにはいかないし、それではこの暫定王国がアルベルト王国の属国扱いになる。
それでは他の三国が納得しない」
「そっかー。いろいろ絡むと難しいんだね」
てか、そうなるとカイルもイノスもハイドも皆ダメやん。
ミカエル先生は……魔導天使だしね。
え? どするん?
「つまり、シリウス王子にやってもらうということか」
「カイル?」
え? さっきまで黙ってたのに急にどしたん?
ん? てか、あーた今なんつった?
「そういうことだ」
「そういうことなの!?」
お兄ちゃん王子もなに当たり前みたいに頷いてんの!?
「まあ、そうなるね」
「俺もそれでいいよ」
「ちょちょい! 王子様諸君!」
なに勝手にとんとんとんとんトンカツ拍子に進めてんだい!
「いやいや、あのバカよ?
ウチとこのバカに国を任せるて!
しかもアルベルト王国の王子よ?
お兄ちゃん王子はまだしも、カイルたちもいいの!?」
「……ミサ。自分の婚約者をどれだけバカバカ言ってるんだ」
あ、カイルさんが呆れてる。
でも、だって、コレだよ?
「……どうなんだ? シリウス」
「……」
そういや、さっきから当の本人は黙りやん!
お兄ちゃん王子が急に言うからビックリしてるやん!
「……まあ、そんな気はしていた」
「ホントに!?」
急に言われたからってカッコつけて適当に言ってない!?
「……ミサ。ちょっと、1回黙ってるのです」
「アルちゃんにたしなめられた!?」
まさかのアルちゃんに黙ってろ言われたんすけど。え? あたしそんなうるさかった? あ、イエス? そう? それはすまんね。
「状況的にも立場的にも、俺が適任なんだろうな。連合軍を現場で率いていたという実績もある。
兄上は、始めからそのつもりで俺に連合軍を任せたんだろう?」
「まあな」
そうなん!?
まあでも、冷静に考えてみればたしかにこの王子がそのままリーダーになるのが妥当なのかな?
よくあるもんね。革命軍のリーダーがそのまま王様になる、みたいなの。
「……正直、俺は兄上の片腕としてアルベルト王国を支える存在になれればそれでいいと思っていた。
だから、王として国を治める覚悟なんて持ち合わせてなかった」
「……」
お兄ちゃん王子は弟の話をしっかり聞いてあげてる。
最初こそすれ違いがあったけど、結局は2人とも王国を守りたいって気持ちはおんなじだったんだもんね。
でもそっか。
お兄ちゃん王子は、弟にアルベルト王国は任せろって、おまえはおまえで新たな自分の国を守っていけって言ってるのかな。
それに対して、ウチとこのバカ王子がなんて答えるかだよね。
「……けれど、今回の王太子たちや皆の働きを見て思ったんだ。
自らの力だけで場を切り開き、目の前の敵を倒すことだけが守るということではないと」
「……ふむ。それで?」
「今回、俺はただ戦うだけだった。
王国最強の剣士などと持ち上げられて、ただ剣を振るうことしかしてこなかった。自分は強いんだなどと思い上がって、力で民を抑制して。
それだけで世界を、国を……ミサを守れると、思っていた。
だから、俺はただ強くなりたかったんだ」
「!」
……おやまあ。
「けど、その鍛え上げた力は、より強い力にてんで敵わなかった。
手も足も出なかった。
……民を、ミサを守れなかった……」
拳を握りしめて……悔しいんだね。
でもね、あたしはちゃんとあんたが頑張ってたとこも、皆を犠牲にしてでも自分が生き残らないといけないことに葛藤してたことも、あたしが貶されたときに一番に怒ってくれたことも、全部ちゃんと観てたよ。
まあ、見てたことを教えてなんてやんないけど。今はね……。
「だから、俺はもっと違う力で皆を守ろうと思う。鍛え上げた個の力なんて到底及ばない、国という力で。
この地の王として、国を復興し、民をまとめ、世界を、国を、民を、そして俺の大切な人たちを、未来永劫守っていけるようになりたいと思う」
「……」
あのバカ王子が、こんなことを言うようになるなんてね。
「でも、俺は王として、指導者として、統率者としては、未熟とさえ言えないぐらいに稚拙だ。
だから、兄上」
「ああ」
「カイル殿下」
「ふむ」
「イノス殿下」
「うん」
「ハイド殿下」
「あ、うん」
「どうか、俺に力を貸して欲しい。知恵を貸して欲しい。王としての在り方を教えて欲しい。
……お願い、します」
……こんなにしっかりと深く頭を下げるシリウスを見るのは初めてだね。
「……ふっ」
「?」
お兄ちゃん王子は弟の下げた頭に優しく手を置いた。
「もちろんだ。ただし、俺の指導は優しくないぞ。覚悟しておけ」
「あ、兄上」
頭を上げたシリウスのもとに、他の3人の王太子も集まってきた。
「俺は助けてもらった身。もとよりこの地の復興には助力を惜しまないつもりだった。
できる限り早く復興させ、民を安心させてやろう」
「カイル殿下」
「うん。僕も協力するよ。
スノーフォレストは寒冷地だから医療にも強くてね。まずは治癒士を派遣しよう」
「イノス殿下」
「あ、俺も!
当面の食糧はうちの海で取れたのを提供するよ。あとは魔法の使えない人でも使えるような復興用のものを開発しよう」
「ハイド殿下。
……皆、本当にありが……!」
シリウスが再び頭を下げようとする。
だけど、お兄ちゃん王子がそれを止めた。
「さっそくだが、王たるもの簡単に頭を下げるな。
俺たちはもはや同列……いや、王となるのだからお前の方が一足飛びに位階は上になる。
王は感謝はしてもへりくだってはならない。それは国や民の格をも下げることになるからだ」
「……まったく。兄上はやっぱり兄上だ」
シリウスは軽く目元を拭いながら、下げかけた頭を上げる。
皮肉を言いながらも、なんだか少し嬉しそうだった。
「……皆の支援、心より感謝する」
シリウスは頭を下げる代わりに拳を前に突き出した。
皆もそれにならって拳を出す。
円上に立つ5人の拳が真ん中で突き合わされて、中心に丸い円が生まれる。
それはまるで、世界を5人が守ってるみたいだった。
「……これは俺たちが守っていく世界だ。
誰ひとり欠けてもいけない。
これからの世界を守っていくのは俺たちだ。
俺たちの拳を合わせてできる世界を、未来永劫守っていく。
今日が、その最初の一歩だ」
「ふっ」
「なかなかポエミーだね」
「僕はわりと好きだよ、そういうの」
「うん!」
あたしもけっこう好きよ、そういう熱いの。
あ、そうそう。
のちにこの日の出来事は『五国の誓い』として語り継がれることになるんだよ。
まあ、それはまたずいぶん先のことになるんだけどね。
「……ミサ」
「……あん?」
いや、今いい感じに締まって終わるとこだったやん。
王子様たちでこれから頑張ってこーぜイエー! みたいな感じで青春感じてたやん。
あたしも締めみたいなコメント刻んでたやん。
そこでなんであたしに振る?
「俺はこの地の王になる」
「あ、うん。そーね。聞いてたよ」
「……お前は俺の婚約者だ」
「……あ、お、おん。そーね。一応そうよね」
え? 何が言いたいん?
「これからは、俺の生涯の伴侶として、俺の后として、俺の隣に居てほしい」
「……え、と?」
それはつまり?
「……だから、俺の婚約者は終わらせてほしい」
「……ほわっと?」
「だ、だから、つまり……」
「……シリウス。ミサはそういうことはストレートに言わないと伝わらないのです」
アルちゃん。なんのアドバイスだい?
「そ、そうか」
んーと。なんとなく予想がついてきたよ。
なんであたしはそっち方面にはニブチンなんだろねホント。
「つ、つまり! 俺と結婚してくれ!!」
「うーん! 保留!!」
「嘘だろっ!?」
ホント!!