23.素直すぎても逆に困るね
「だぁ!」
「ぎゃあっ!」
ついに捕まっちまったよ。
王子に手を捕まれたあたしはバタバタと暴れてみたけど、二度と離してやるものかといった具合に手を握りしめる王子を振り払うことは出来なかった。
ていうか、力強すぎっ!
「痛いよ!」
「あ、悪い」
あたしが痛がると、王子はパッと手を離した。
一応、話は通じるようだ。
「…………」
「…………」
手は離されたけど、立ち止まってしまった手前、再び逃げ出すわけにはいかず、あたしたちは気まずい沈黙を保っていた。
いつの間にか、学院の屋上まで出てきてたみたいだ。
幸か不幸か、あたりに人はおらず、2人の沈黙をより際立たせていた。
「……すまん!」
「わっ!」
王子が突然頭を下げてきて、あたしはびっくりして声を出した。
「……何に?」
あたしは憮然とした態度を崩さず、それだけ聞いた。
「分からん!」
「はい?」
あっさりと分からないと認める王子に、思わず拍子抜けしちゃったよ。
「分からんが、俺様が何かやらかして、貴様の機嫌を損ねたのだろう!
だから、とりあえず謝る!
すまん!
そして、その原因を教えてほしい!」
おやまあ、素直だこと。
この俺様王子のことだから、自分からは絶対に謝らないし、頭なんか下げない!みたいなスタンスだと思ってたから、なんだか意外だね。
ちょっとは可愛いとこあるんじゃないか。
「え~と」
とは言ったものの、ミカエル先生に当時の記憶は消されちゃってるし、余計なことは言わない方がいいんだろうし、どうしたものかね。
でも、一国の王子にここまでされて何もしないのは気が引けるし、あたしの仁義にもとるさね。
「あたし的には教えてもいいんだけど、話せないんだよ。
話さないんじゃなくて、話せない。
それで、察してはくれないかね?」
あたしに言えるのはこれが限界だよ。
あんまり余計なこと言うと、またミカエル先生に怒られちゃうからね。
「なんだそれは?
どういう……いや、そういうことか」
おや?
何やら察してくれたのかね。
「……あのクソじじい。
また人の記憶を勝手にいじったな」
あら、どんぴしゃ。
名前は挙げてないけど、きっとクソじじいとは、あの御方なんだろうね。
なかなか勇気あるね、あんた。
それにしても、また、ね。
あの先生はちょいちょいこんなことやってるのかね。
「……まあ、事情は分かった。
深くは詮索しないが、とりあえず俺様が貴様に不愉快な思いをさせたのは事実なのだろう。
その件に関しては謝る。
すまなかった」
……ホントに素直だこと。
なんだか気味が悪いよ。
「では、これでこの件は終わりだ。
明日からはまた、貴様のためにいろいろ趣向を凝らした策を実行していくから、楽しみにしておくのだな!
ハーッハッハッハッ!」
……うん。
前言撤回だね。
こいつはやっぱりただのバカだよ。
「何やら楽しそうですね」
「「げっ!ミカエル(先生)!!」」
そして、現れたるは噂の大ボス。
「何やら、2人から楽しそうなことを考えている感じがしたので、魔力を探知して来てしまいました」
うわーお。
「王子。
あなた、生徒会の仕事がたまっているでしょう。
スケイル君が嘆いてましたよ。
さ、行きますよ」
「わっ!
やめろ!
襟首をつかむなっ!
貴様!魔術師だろう!
単純に力で持ち上げるなっ!
ええい!
くそっ!
なんで振り払えないっ!」
「ふふふふ。
それは師匠補正というものでしょう」
王子が先生に猫みたいにつかまれて、屋上のドアまで連れていかれてる。
先生、楽しそうだね。
王子、頑張って。
「ん?」
先生は最後に、こちらにやんわりとした微笑みだけ向けて、王子を連れて室内に戻っていった。
なんだか、結局仲直りしたことを見抜かれたみたいで気恥ずかしくなったあたしは、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴るまで、屋上に吹く爽やかな風で頬を冷ましていた。




