229.パンがないなら魔力を食べればいいじゃない
「……ミサさん。試しに、この部屋に収まる程度の闇属性の魔力を集めてみてくれませんか?」
「へ? あ、オッケー」
ミカエル先生からのファイナルアンサーを待ってたら、なんか課題を出された。
え? 単位出ます?
「ほいっ、と」
天井を見上げ、手のひらを上に。
お城と、その周囲にある闇属性の魔力を感知……って思ったけど、そんなに集めたらこの部屋を壊しちゃいそう。高密度の魔力は魔法に変換しなくても物体に干渉するって授業で習ったからね。
とりあえずはこのお城の地上部分ぐらいの魔力かな。
「むんっ!」
測定を終えたら魔力を集めていく。
他の人(たぶんミカエル先生以外)には見えてないだろうけど、あたしには黒い星みたいのがキラキラと集まってくるのが見える。
星雪の時みたいな、質量のない魔力の、目に見えないバージョンみたいな。
この光景はけっこう好き。
やってることは物騒極まりないんだけどね。たぶん、これだけでこのお城を余裕で吹き飛ばせるぐらいの魔力量だろうから。
でも、黒い星がキラキラ集まってくるのはプラネタリウムみたいで綺麗。
「こんなもんでいいかい?」
「ふむ。そうですね」
闇属性の魔力を集め終えると先生からお許しが出た。やっぱりこの人には見えてるみたいだね。
「……は、はは……」
「ん?」
バラキエルさんがなんか天井を見ながら乾いた笑いを。いや、もはや笑うしかない、みたいな?
「あ、もしかして見えてるのかい?」
どうやらバラキエルさんにも見えてるみたい。天井いっぱいに輝く黒い太陽みたいになった魔力が。
たしかに我ながらすごい魔力だよね。無理やり部屋に収めたから密度すごいし。ぜんぜんさりげなくないギンギラギンよ。
「これだ。いとも簡単にこれだけの規模の魔力を……。これこそが、世界を……」
うーん。なんか対話する気はないみたいだからほっとこうかね。
「……ミ、ミサ? 貴女いったい、何して……」
「へ?」
クラリスたん。汗すごいよ? どったの? 拭こうか? ちょっとあっちの個室で。
「……見えない、が、凄まじい圧力は感じる。ちょっとでも刺激すれば全てを吹き飛ばしてしまいそうなほどの、強力な魔力……」
バカ王子。あんたも分かるんだ。
見えはしないけど、その存在は感じてるみたいな?
そう思うと、たしかに皆心なしか緊張してるみたいに見えるね。
あたしはこの世界に来たときからこうだったから。特に圧力? とか、怖いみたいなことは感じなかったけど、これが他の属性の魔力だと思ったら確かに怖いかも。
「……ねえ。これって、俺たち魔法使えなくない?」
「……たしかに、そのようですね」
「へ?」
なんかジョンとスケさんが会話してるの珍し~……じゃなくて、もしかしてあたしのせいかい?
「ミサさんがこの部屋の闇属性の魔力濃度を濃くしすぎたせいですね。他の属性魔力が居所を失くしてしまいました」
いや、やれゆーたのはあーたやん。
「そんで? これをどうすればいいんだい?」
言われた通り集めたから単位ください。
「ふむ。リヴァイアサン。この魔力、どうですか?」
「どうもこうも、ご馳走でしかないわ!」
リヴァイさん大喜び。腰痛めないでよ、じーちゃん。
「いいんか? 食うていーんか!?」
おいじじい、ヨダレ拭けや……失敬。
リヴァイさん。画面が非常に見苦しいので自重してくださいませね。
「……いけますか?」
「あたぼーよ! こんなんひと呑みで~~~っと!!」
「おおーー!!」
ミカエル先生に聞かれるやいなや、リヴァイさんは大口を開けると一気に天井に浮かぶ黒い太陽もとい闇属性の魔力を吸い込んじゃった。
こりゃびっくり。
吸引力の変わらないただひとつのリヴァイさんだね。
「……っぷひゃぁっ! このために生きてる~っ!!」
ビールのCM来そうだよリヴァイさん。
『酒に、年齢上限はない』
みたいな。
なんか炎上しそうだけど。
「……ふむ」
リヴァイさんの食いっぷりを見た先生は再び検討モード。それでもバラキエルさんの拘束は忘れないのが先生クオリティ。お決まりの「しまった!?」はやらない主義。
「っふう。もとに戻ったのか」
「あれを食べたの? 全部?」
皆は愛のメモリ……もとい黒い太陽、もとい闇属性の大量の魔力が消えたことで、ようやくひと安心したみたい。
そんなに緊張するほどの高密度の魔力を集めてたことに無自覚なのが怖いとこだね。それは気をつけないと。
あ、クラリスたん。あとでその汗ふきふきしてあげるからね。そのままにしててね。あ、それとも風邪引いちゃうから今すぐ隣のお部屋行こうか?
「……《洗浄》・《乾燥》」
「あ、スケイル。ありがと」
おのれぇ~~!! スケさん何、気の利く男アピールしとんねん! 余計なことすんな! だらぁっ! あ、てかこっち見てる! あたしの考え見抜いたね! てことは、あーたもそういうこと考えてたんでしょ! この変態スケさんめ!
「……ミサさん。おすわり」
「あ、すんません」
静かにするから王子みたいに潰さないどくれ。
「リヴァイアサン。今の腹具合は?」
「そうさな~。ちょっと前に嬢ちゃんに魔力食わせてもらったのがまだあるから、今のと合わせて6、7割ぐらいか?」
「ふむ。満腹になれば1年はいけると言いましたね。では、1年後には再び同じ満腹になれる量の魔力を食えると?」
「いやー、そんなん願ったりだわな」
リヴァイさんは嬉しそうだった。定期的にご飯くれるならそりゃ嬉しいよね。
「てか、そういや年一のお祭りのときにリヴァイさんに魔力食べさせてあげる約束してたもんね」
「おうよ! そのためにおとなしくしてやったんだからな!」
いや、ちょっと忘れてたけどね。リヴァイスシー王国で年に1回リヴァイさんに魔力を捧げて海の凪を願うみたいなお祭りをすることになって、そこであたしも魔力あげることになったんだった。
「そうでしたね。
では、その祭りの際に毎年満腹になるだけの魔力を食べたとして、世界中の闇属性の魔力が他の魔力と均衡を取れるようになるには何年ぐらいかかると思いますか?」
「う~ん。そうさな~」
どうしよう。「そうだなー。5万年ぐらいだな」とか言われたら。
「だいたい、50年ってとこか?」
「え? 意外と短い……のか?」
人間50年、ひとたび生を……の50年だよね?
それってどうなん? 第六天魔王ミカエルさん?
「……ミサさん」
「へい!」
「採用」
「ふぇっ?」
てっきり悪口怒られるんかと思った。
「じゃあ……」
「今年から50年間、リヴァイスシー王国の祭りにおいてリヴァイアサンに闇属性の魔力を大量に提供。それと平行して私とミサさんで闇魔法を頻繁に使用して全体量を減らしていきます。
そうすることでこの世界の魔力バランスは整うでしょう」
「それはつまり、50年後にはあたしはすんごい闇属性の魔力を扱うこともなくなって、世界を滅ぼすような力もなくなるってことかい?」
「そうなりますね」
「ひゃっほーい! そりゃ朗報だね! 聞いたかいバラキエルさん!
あたしゃ圧倒的な個とやらじゃなくなるんだってよ! うぇーい!!」
「いたっ! 叩くなっ! 鬱陶しい!
俺はいま一般人並みの防御力なんだぞ!」
「いやいや、喜びの表現じゃーん! 共有しようぜ! うぇーい!」
「だから叩くなっ! ええい! やはり始末しておくべきだったのだ!」
うぇいうぇーい!
「……ミサが、なんか変なノリに……」
「放っときましょう。巻き込まれないように避難を」
「そうね。ミサはああなると厄介……」
「逃がさないよ~。クラリスた~ん」
「きゃああああーー!!」
「くっ! させるかっ!」
「ふははははっ! あたしに勝てると思ってるのかーい」
力任せ魔力ムーヴどーん!
「わー!」
「スケイル~!!」
「ミ、ミサミサっ! 落ち着けっ!」
「おまえはそっちのキャラじゃないわ! バカ王子!」
ともに騒げ~!
「ぎゃあーー!」
「やれやれ。結局こうなるのです」
「ま、その方がミサたちらしいわよ」
「そーそー! 楽しいからいーじゃん!」
アルちゃんルーちゃんケルちゃん。さっすが、分かってるね! さあ! 君らもカモン!
「ははははっ! 元気だな!」
「うむっ! いいぞっ! もっと魔力を寄越せっ! まだ喰うぞっ!」
うむうむ。タマちゃんもリヴァイさんもご機嫌だね。
む? そういや、カイルとフェリス様がいないね。さては! ……って思ったけど、久しぶりの再会だもんね。特別にそっとしとしてやろ。部屋の扉でサリエルさんが門番してるし。
「あはははははっ! 楽しいですね~!」
あ、ツユちゃん。いつの間に。
まあ、もういっか。一緒にはしゃごうぜい!
「……結局はこうやって収めてしまうのですから、人間というのは不思議な生き物ですよね」
「……ふん。なんて非効率で不可解で不安定な生き物だ。
だから未来もコロコロ変わる。
それに振り回されるのがどれだけ大変か」
「ふふふ。管理する側の我々を振り回すのですから、たいしたものですよ」
「……ミカエル」
「……なんですか?」
「……もういい。
俺はもう諦めた。いや、満足したと言っておいてやろう。
……もう、終わらせてくれていい」
「……そうですか」