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228/252

228.秘、策……だよね?え、ダメ?なら、これならどうだい!

「秘策、だと?

 俺が何百年何千年、何万年もの過去と未来を視続けても、そんなものは存在しなかった。

 それに膨大な、強力すぎる魔力を個が完全に制御し、あまつさえそれを自分から手放す?

 いや、手放すなどということさえ不可能だ。

 バカなのか。貴様は」


「……まあ、バカなのはあんまり否定できないけどさ」


 あのバカと同列に扱われるのはちょっと不服だね。


「それに、何もあたしだけの力であたしの膨大な魔力をどうこうしようなんて思っちゃいないよ。

 自慢じゃないけど、あたしは学院の魔力コントロールの授業の成績が下から数えた方が早いぐらいだからさ!」


「……ホントに自慢じゃなくね?」


 うるさいよ、ジョンさん。

 あんたも似たようなもんだろ。


「……いったい、どうするつもりだ」


 バラキエルさんはもう全部を諦めてる顔だ。

 何をやってもダメで、視えるのは絶望の滅びの未来だけ。

 それに、すっかり疲れちゃってる感じ。


 バラキエルさんがいらないなら、あたしがそれをもらっちまうさ!


「この魔方陣を使うのさ!」


「は?」


 あ、なにその心の底から呆れ尽くしたみたいな顔は!

 おのれぃ! 耳の穴かっぽじってよおく聞いておれ! ばらばらキエル!


「これは、ようは他の人を闇属性に変える魔方陣とか儀式なんでしょ?

 そんならあたし以外にも、なんなら世界中の多くの人を闇属性にしちゃえばいいのさ!

 んで、皆でちょいちょい魔法を使って闇属性の魔力が増えるより早く減らして、他の属性魔力とのバランスを取ればいい!

 そしたら、そもそもあたしだけが膨大な闇属性の魔力を扱えるっていう、バラキエルさんが大好きな『個』? だとかっていう問題も解決よ! どうよ!!」


 おらぁっ!


「おー!」


「ミサすごーい!」


 あざます。ジョン、ケルちゃん。


「……」


「……ん?」


「……」


「……んん?」


 おーい。他の皆さん、なんで無言なん?

 一部呆れ返ってるみたいな人もいるんだけど。てか、ジョンとケルちゃんだけって、なんか不安なメンツなんすけど。

 てか、バカ王子。なんであんたもそっち側なのよ。あーたはこっち側でしょ。

 あ、ちゃう。このバカはバカだけど生徒会長を務めるぐらいには勉強はできるバカなんだった。


 んー。てか、この皆の反応を見るに……。


「……ちょっと、無理そ?」


「はい! 無理ですね!」


「ぎゃふん!」


 うわーお。今までに見たことないぐらいのテンションで先生に全力否定されたー。絶対バカにしてるやん!


「……ふっ」


 あ、バラキエルさんまで! こっそり鼻で笑ってるの気付いてるからね! え? こっそりじゃない? ……なお悪いわ!


「まさか、ここまで愚かで浅はかな奴だったとはな。馬鹿もここまでくると同情するぞ」


 ちょっと酷くないかい!?


「この儀式は貴様から、魂に刻まれた魔力属性情報および、単体で世界中の闇属性魔力を操作できる権限を抜き取り、強制的に委譲させる儀式だ。

 儀式の完了はイコール貴様の死。

 そもそも本来的に魔力属性情報を書き換えられた人間は魂がバグを起こして死ぬ。もしも貴様の言う形で儀式を行えば、ただ大量の死体が積み上がるだけだ」


 おうっふ。そうなのかい!?


「え? でも、バラキエルさんは皇帝さんを闇属性に変えるつもりだったんだよね?」


 結局は世界中の魔力を消し去ることで死んじゃうみたいなこと言ってたけど。


「ああ。だから、どちらにしてもヤツは死ぬ予定だった。だが、一瞬でも貴様の権限を委譲させられれば、ヤツが死ぬ前に対消滅の魔法は発動できた。だから何も問題はない」


 ……この人は、ホントにただのとんでもないクズ野郎なんだね。まあ、そうなっちゃったのかもしれないけどさ。


「はぁ。よもや、なぜこのような思慮の欠片もないような者が力を得るのか。

 だから力の使い方を誤って滅ぶ世界もあるのだ。

 愚か者に過分な力など、この世で最も愚かな組み合わせだ」


 いや、そこまで言わんでも!

 あたしのメンタルは鋼の如き硬度だけど、さすがにセンチメンタルジャーニーよ!

 こりゃバチボコに言い返してやらないと気が済まないね!


「ちょっとあーた……」


「おりゃあっ!!」


「ぐほぁっ!!」


「……はい?」


 なんか、あたしが言い返す前にウチとこの王子(バカ)がバラキエルさんをぶん殴ったんですけど?


「もう1発!!」


「お兄様ハウス!」


「ぎゃっ!」


 おお。クラリスたんの閃光目潰し!


「伏せっ」


「げふっ!!」


 お次はミカエル先生による重力魔法!


 バカはバラキエルさんの胸ぐらを掴んでもう一回殴ろうとしたけど、クラリスの閃光魔法で目を眩ませてからのミカエル先生の重力魔法で地面に叩きつけられた。


「お、おい……俺様は、一応、第二王子、だぞ……」


 ……うん。さすがにちょっとそれは思った。

 妹と師匠から犬扱いされて潰される第二王子って……。まあ、べつにいいけど。事実だし。


「……少し落ち着きなさい。その第二王子という肩書きを持っていることを忘れないように」


「……もう、大丈夫だから、放せ」


「やれやれ」


 2人にわんこ扱いされて少し頭を冷やしたみたいで、先生の重力魔法から解放されたバカはゆっくりと体を起こした。

 たぶん、先生が言ってるのは王と魔導天使の双璧的な話なんだと思う。

 双璧であるためにお互いに牽制し合いながらも干渉しすぎない。あるいは不可侵であるべき、みたいなしがらみがきっとあるのかな。

 だから王族であるこのバカがバラキエルさんに私刑を加えることは良くないみたいな感じなんだと思う。


「てか、なんであんたが勝手にぶん殴ってんのよ」


「当然だ。俺様の大事な婚約者をバカにされて黙っていられるわけがない」


「おおっとぅ」


 ここで急にそれは反則よ。

 てか、なんかあたしのことをちゃんと自分の婚約者だと認識してから、けっこうストレートになってない? このバカは。


「いいか!」


 ウチのバカはくるりと踵を返すとバラキエルさんにビシッ! と人差し指を向けた。


「ミサはなっ! ミサは、えっと……すごいんだ!」


 ……語彙力どっかに落としてきてますよ、お兄さん?


「ミサは、魔獣の長たちを次々に手懐けたり、王子たちを助けて各国との友好関係を進展させたり、それに、俺様の目を覚まさせてくれたり……とにかく、ミサはすごいんだ!

 ミサは他人のために怒れる。他人を助けるために動ける。そこに利害なんて関係ない。自分がそうしたいからそうするんだ!

 自分のことしか考えてないおまえに、ミサをバカにする権利なんてない!」


「……」


 なんか、うん、ありがとね。

 鼻息荒くして一気に喋って。必死なのは伝わったよ。

 今にもバラキエルさんをぶち殺しに行こうとしてたアルちゃんたちも、どうやら溜飲が下がったみたい。


「……ふ、ふん。口だけならなんとでもっ」


 バラキエルさんは動揺はしてるけど反省はしてないみたい。この人も自分の信念に従ってやったことだから、今さら自分の行いを改めたりもないんだろうけど。


「……ねえ」


「おわっ」


「あん?」


「クラリス?」


 ウチのバカを押し退けて、今度はクラリスたんがバラキエルさんの前へ。

 地面に座り込んでるバラキエルさんと目線を合わせるようにクラリスたんは腰を下ろす。


「あなた、分かってる? ミサがなんでこの魔方陣を利用しようとしたか」


「は?」


「あなたが自分の全部を懸けて用意した魔方陣と儀式を何とかして有効活用してあげたい。あなたの成果として使ってあげたい。

 あなたがここにあった証を、この世界に残してあげたい。

 だからミサは、何とかしてコレを使う方法がないか頑張って考えたのよ。

 ね? ミサ?」


「……ま、まあ、ちょっとはそんな気持ちがなかったわけじゃないけど、さ」


 さすがはクラリスたん。以心伝心ですね。

 たしかに、ちょっとぐらい問題解決の糸口にしてあげたいって気持ちはあったよ。


「……」


 バラキエルさんは黙っちゃった。

 いや、なんかさ、でもそれを私がバラキエルさんに言っちゃうのは違うじゃん? なんか恩着せがましくなっちゃうし。

 だから秘策がうまくいけば、そのままそれで良かったんだよ。


「やっぱりミサはすごいのだ!」


 ……ちょっと黙ってようか、語彙力バカ。


「うーん。でも、闇属性の人を増やしちゃえ作戦がダメだとすると、いったいどうしたらいいのかねぇ」


 あたしが死なない方向で。


「う~ん。一気になくすとかじゃなくても、自然に増えていく分を上回る減量方法があればいいんだけど」


「減量ねぇ」


 クラリスたんはダイエットなんてしないでいいからね。なんなら、もうちょっとお肉つけた方が抱き心地が……あ、なんでもないです。


「ミサ~。僕もうお腹すいた~」


「ケルちゃん、いま大事な場面だからちょっと待ってね」


「ワシも腹が減ったの」


「俺もだ」


 はいはい。皆ハラヘリなのね。

 終わったらご飯食べようね。


「……ん?」


「ミサ、どうしたの?」


「ねえ、リヴァイさんて魔力大好物だよね?」


「む? そうだの。というか、ワシは魔力しか食わん」


「なら、あたしが世界に溢れる闇属性の魔力を全部集めたら、リヴァイさんが全部食べてくれるかい?」


「いや、さすがに一度に全部は厳しいの。

 この世界の闇属性の魔力は膨大だ。その上ワシは燃費がいいから、ひとたび満腹になれば1年は魔力を食わなくて良い」


「それはつまり、1年後にはまた大量の闇属性の魔力を食べてくれるってことだよね?」


「む? まあ、そうさな。ワシとしても毎年満腹になるなら願ったりだの」


「ねえ! ミカエル先生!」


「……ふむ」


 これは行けるんじゃないかい!?

 先生も何だか顎に手を当てて考えモードだし!


 さあ、どうなんだい。先生。

 ファイナルアンサーおくれ!




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