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226/252

226.皇帝さんの過去は……

『よいか。○○○○。今の世界は不安定だ。

 誰かがひとつに統一しなければならない。

 世に渦巻く邪悪な力。それを皆で、力を合わせて無くすんだ。

 そのためには今の、いくつもの国が乱立している状況を変えて、全てをひとつにしなければ。

 我ら皇族には固有魔法も秀でた魔法的素養もないが、だからこそ民の代表として世界を真の平和へと導くのだよ』


『はい! 父上!!』


 白い髭もじゃの男の人と、小さな男の子。

 王冠を被ってるし、この男の人はきっと先代の皇帝さんだ。で、きっとこの男の子が……。


『○○○○は頑張ります! いっぱい勉強していっぱい鍛練して、父上とともに世界を統一して、世界を平和にします!』


『ああ。頼むぞ』


 幼い頃の皇帝さん。

 名前の部分だけがノイズがかかったみたいに聞き取れない。

 

「名前は個人の記憶に強く結び付く重要なファクターです。おそらくバラキエルさんが念入りに消去したのでしよう。もう、思い出すことはないかもしれませんね……」


「うわおっ! びっくりしたぁ!」


 後ろから声がして振り返ると、ミカエル先生がいつの間にか立ってた。

 いや、マジで心臓リバースするからやめて。

 でも解説役欲しかったからマジ感謝。


「このちっちゃい元気でいい子そうなのが皇帝さんってことだよね?

 このパパが言ってる邪悪な力っていうのは?」


「それこそが闇属性の魔力のことですね。

 先代皇帝は世界に溢れる闇属性の魔力を世界中の人間で協力して減らしていこうと考えていました。

 そのために国家統一を図らねばと。

 当時はまだ、各国の情勢も不安定でしたから」


「そっか」


 あたしはけっこう平和になった状態のこの世界に来たから実感ないけど、わりと最近まで各国は互いに牽制しあってる状況だったらしい。

 だからお兄ちゃん王子はあんな風に育ったし、お父様とお母様も魔獣の長さんの協力を取り付けるのが大変だったみたい。

 あたしは足場がだいぶ固まった状態でこの世界に降り立ったんだ。まるで舞台が整うのを待っていたみたいに。あたしをこの世界に喚んだ誰かが、ね。


「てか、皇帝さんは子供の頃はだいぶ、なんていうかいい子だったんだね」


「……そうですね。彼が接触してくるのは、このあとすぐのようですが、ね」


「へ?」


 ミカエル先生がそう言うと、また場面が切り替わる。



『こんにちは。皇太子』


『ああ。話は聞いていたよ! あなたが帝国の魔導天使だよね! えっと、名前はたしか……』


『バラキエルだ。よろしく、皇太子』


『バラキエル! よろしく! 僕は○○○○だ!』


『ふふ。くれぐれも、よろしく……』



 出たね。バラキエルさん。

 最後の含みを持たせた笑み。

 最初っから皇帝さんを傀儡にするつもりだったんだね。


「先代皇帝には精神系魔法に耐性がありました。バラキエルさんなら強制的に魔法をかけることもできたでしょうが、彼はそれよりもその息子に目をつけたのです。

 まだ魔法に対する耐性の弱い子供の頃から精神系魔法を植え付けていけば、自分にとって都合の良い木偶を作れる、と」


「……ホント最低野郎だね」


 子供をどうにかしようってヤツがあたしは一番嫌いなんだよ。



 そしてまた場面は切り替わり、何やらパパ皇帝とバラキエルさんが揉めてるみたい。




『バラキエルっ!!』


『どうした? 皇帝』


『どうしたではない!

 なぜ勝手にアルベルト王国に軍を進めた! 対話でもって条約を結び、徐々に歩み寄って行くのが我が帝国の方針だと言っただろう!』


『……そんな甘いやり方では間に合わないのだ。じきにルシファーが舞い降りる。

 その者が台頭する前に帝国は孤立し、閉鎖する理由を作る必要がある。かの国の、ヤツにだけは干渉されてはならない。今はまだ、な』


『何を言っている!

 おい! どこへ行く! 待てっ!』



『……おや? 皇太子。見ていたのか』


『……バラキエル。君は、いったい何を……』


『ふっ。おまえは何も気にしなくていい。魔法を鍛練しろ。(きた)るべきときに、つつがなく儀式を進められるようにな。

 世界を、平和にするのだろう?』


『……うん。わかった……』




「……あのルシファーってのは、あたしのことだよね?

 かの国のヤツってのは……」


「私ですね。

 バラキエルさんは未来視の固有魔法でこの時からミサさんの存在を懸念し、また、私を閉め出すための結界の準備をしていたのでしょう。この頃から、膨大な闇属性の魔力でもってこの世界から魔力を消滅させる儀式を行うつもりだったのでしょうね。あるいは、もっとずっと昔から……」


「最後に、皇帝さんの頭に手を置いてたのは?」


 そんな子供に頭ポンポンするようなキャラでも状況でもなかったし。


「盲信の魔法ですね。

 おそらくああやって少しずつ彼の精神を蝕んでいったのでしょう。

 精神性が成熟しきる前に支配してしまうとそこから成長しなくなる。仮にもいずれは皇帝として振る舞わせる人物です。

 ある程度成長するまで、自分の望む方向に成長させながら少しずつ盲信の魔法をかけていったのでしょう」


「……人を何だと思ってるんだい」


 ホントに。この人はホントにまったく、だよ。




 そうして時は進み、準備は整ったみたいだ。




『○、○○○○っ!

 どうしたっ!? なぜ私に剣を向けるっ!!』


『……申し訳ない。父上。

 俺は父上の考えには賛同できない。

 俺こそが圧倒的な力でもって世界を救う。

 俺こそが、世界の救世主となる存在なのだ。そのためには、父上は邪魔なのだ』


『○○○○! しっかりしろ!』


『……』


『無駄だよ』


『バ、バラキエルっ!』


『皇太子は十分に成長した。もう完全に魔法をかけても問題ないだろう』


『魔法だとっ!? 貴様っ! ○○○○に何をしたっ!?』


『儀式にはスケープゴートが必要でね。それにこれから行っていく研究はさすがに秘密裏に行うには規模が大きすぎる。

 まあ、安心しろ。これから帝国兵はどの国にも負けない屈強な戦士となるのだ』


『貴様っ! ○○○○だけでなく兵たちにも手を出すつもりかっ!』


『やれやれ。いい加減貴様の五月蝿さには飽き飽きだ。

 さあ、皇太子。今日からおまえが皇帝だ。

 さっさとその五月蝿いハエを黙らせろ』


『……はい』


『くそっ! バラキエル!

 ○○○○! 目を覚ませっ!』


『……さよなら。父上』


『ぐっ……』


『ふん。最後まで五月蝿いハエだったな』


『……あ。俺、は……僕は……』


『……ふむ。さすがに精神的ショックが大きかったか。

 まあいい。完全に支配するには良い機会か。

 アノ魔法も併用してみるか。

 おい。俺の目を見ろ』


『……あ』


『おまえは新たな皇帝だ。先代は愚か者だった。

 おまえは世界を救う救世主だ。

 世界から魔法を失くし、努力と実力で成功を掴み取れる世界にするんだ。

 そのための儀式を問題なく行えるようにまずは国を閉鎖するんだ。

 おまえならできる。おまえは皇帝なのだから。いいな?』


『……はい。余が、世界を救う……』





「……最後の、目が金色に光ってたのって」


「ゼン王子の固有魔法ですね。どうやら盲信の魔法というのはゼン王子の固有魔法と精神系魔法を組み合わせたもののようです。

 あの時点でそこまで研究が進んでいたのですね」


「……」


 皇帝さんは、自分の手で自分の父親を……。

 しかもバラキエルさんはそのショックを利用して完全に皇帝さんを自分の支配下に。


「……皇帝さんは、完全な被害者じゃん」


「……難しいところではありますけどね。本人にも少なからずそういう傾向がなければ、ここまで傀儡にはなっていないでしょうし。少なくとも、完全に操られるまでは多少なりとも自我はあったわけですしね。

 まあ、そうなるように教育されてはいるのでしょうが」


「……けどさー」


 結局は全部がバラキエルさんの計画通りに進んだってことでしょ。

 しかも皇帝さんを完全に操るために、バラキエルさんにとって邪魔だったパパ皇帝を皇帝さんに殺させて……。


「……とりあえず、バラキエルさんがホントにクズのくそ野郎だってことは分かったよ」


 そこで回想は終わりだった。

 それ以降は意識が混濁してまともな記憶がないとのことだった。







「……う」


「今のが、皇帝の記憶……」


「なんか、可哀想ね」


「……」


 景色がもとに戻る。

 どうやら皆が同じ景色を見ていたみたい。

 皆なんだか複雑な顔をしてる。

 そりゃそうよね。

 諸悪の根源で、世界をぶっ壊す片棒を担いでた皇帝さんが実はとっても可哀想な子だったんだもん。


「まあ、それでもやることは変わらないけどな」


「お、お兄ちゃん王子!?」


 お兄ちゃん王子は再び項垂れてる皇帝さんの首に剣を添える。

 あんなんを見たあとでよくすぐそんなんできるね、あーた。


「操られていようがなんだろうが、この男が戦犯であることに変わりはない。

 首級がなければ民が納得しない。

 過去がどうであれ、この男の首ははねなければならない」


「……そうだ。やってくれ」


「!!」


 それは、お兄ちゃん王子に剣を向けられた皇帝さんの声だった。


「……思い出した。俺は、俺はこの手で父上を……」


 そうして顔を上げた皇帝さんは、かつてのあどけない面影を残した青年の顔をしていたんだ。




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